「・・・日刊予言者新聞、」
そうだ、新聞なら魔法省の人間が持っていてもおかしくないし、それを渡す理由にしたって、せめて新聞でもと同情で渡したのかもしれないし、憤る事だが、吸魂鬼に吸われておかしくなっているのに読めるわけがないと、嘲りで渡したって何らおかしくない。
そして私はその新聞の名前を声に出した瞬間、去年、シリウスがアズカバンから抜け出すその前に、ロンは家族と一緒に日刊予言者新聞に載った事を思い出した。
「(・・・あれなら、)」
写真が付いているから、ロンの名前や顔、そしてホグワーツの学生である事を全て把握することが出来る。そして、ロンがその証拠を、ハリーを危険に晒してしまうものを、偶然に持ち合わせてしまっていたという事もその新聞で彼は知ったのだろう。以前見たその新聞に何が載っていた、どれが彼の、私の求めているものなの?
「(家族以外、誰も人は載っていなかったはず・・・)」
それなら、その証拠というのは物なのだろうか?けれど、ハリーを危険に晒してしまうものというのは何だろう。シリウスがアズカバンを抜け出す事をしてまで、ハリーから遠ざけたいものが物であるとは、私には考えられなかった。人が危険に晒されるのは常に別の人が何らかの形で絡んでくる時であるし、人間を介して“物”は恐怖の対象へと変化する。もし、その恐怖の対象が物であるとしても、シリウスがその物を壊しに行くとも考えられない、彼ならきっと、その根源である人間の方を追いつめるはずだ。だとすれば、その新聞に載っていたのは、
「(でも、アーサーさんの家族に限って、ヴォルデモート陣営の人間がいるなんて事は考えられない。)」
ウィーズリー一家が彼らの仲間になんてなるはずがない。それに、ロンの所に行く理由に繋がらない。その考えは即座に打ち消した。そう、ロンだ。彼が吸魂鬼がいるその学校へと入ってきてハリーを危険にさらす物を遠ざけようとしたものを、ロンが持っている。ロンが持っていたものだけを思い出せば、一体、なに、・・・何が、彼をそこまで、
「っ!? 確か、あれは、(あの新聞にも、写っていた、)」
その時、ロンの載っていたその新聞と、ロンが学校で私に話してくれた事、そしてあの事件で私が知っている全ての事、さらには私がシリウスとリーマスやジェームズ、ピーターにリリーと過ごしたあの楽しくて仕方がなかった学生時代の事が、ぐちゃぐちゃになっている頭の中で高速に、ぐるぐると、回転し始めた。
「こいつね、僕のペットでスキャバーズって言うんだ。」
「リーマス!やっと、やっとできたぞ!!ピーターもようやく変身できるようになったんだ!」
「パーシーからのお下がりでね、でもこいつ凄いんだよ。普通のネズミの寿命よりも長く生きてるんだ。」
「狼に鹿に犬にネズミ!ははっ、最高のパーティだと思わないかいっ?」
「僕の家で飼い始めて、もう12年になるんだよ!その所為か、ちょっと怪我とかしてるけどね。」
「これでリーマスも1人で苦しむ必要も無くなる!ピーターがネズミになって最初に行けば俺達も暴れ柳から入り込めるしな!」
「ロンのね、飼っているネズミがいるじゃない?そのネズミを私の猫が食べてしまったらしいの。」
「では、事件のあらましですが、一体どういったものなのでしょうか?」
「ホラ見て、ここ。前足の指、1本欠けちゃってるんだ。理由は分からないんだけど。」
「食べてしまった証拠はないのだけれど、ロンのシーツに血だけが付いていたの。」
「はい、ブラックはポッター夫妻が・・・」
「( 何故ピーターは、彼らの元に?)」
「私はその時、血だけが付いているだけで、ネズミの姿がないわ!丸飲みしたなんて考えられない!って反論しちゃったんだけど・・・」
「・・・ですから、生き残った住民はおらず、ただ1つ残ったのは彼らの学友であったピーター・ペティグリューの指だけが残っていたのです。」
脳内で多量に駈け巡っていた事が、絡まって、いくつも切れそうだったその糸が、
「っ、そんな、・・・まさか、 」
すっと一本に伸ばされた気がして、
「 、」
「え、 あ、貴方は、」
今までいた暗闇の中に光が現れて、けれど今まで見てきたその一筋の光の色とは違っていた。その眩しさに思わず目を瞑って、ようやく光に慣れてきてゆるりと瞼を上げると、そこには、
「・・・ルーウェルおじいちゃん?」
何故かそこに現れたのは、ダンブルドア先生の友人でもある、私のおじいさんだった。いや、ここは夢の世界であるから、ルーウェルおじいちゃんが現れたって何ら不思議ではないのだけれど。昔のように私の頭を撫でてくれているその手はとても温かくて優しくて、何だか夢であるはずなのに、妙におじいちゃんの手に実体があるように、本当に触れられているように感じて、
「・・・お前は、少し早急に事を知りすぎたようじゃ。」
「え? それは一体どういう・・・」
「今まで身体も心も削り過ぎたのだろう? よく頑張ったね。」
暗闇の前に映るおじいちゃんのその優しい瞳を見ていると、私の頭を撫でていたその手で、これも昔私が眠れなかった時にやってくれていたように、ゆるゆると隠してきて、私の視界は再び今度は別の暗闇で覆われた。
「少し休みなさい。 来るべき時が目の前に訪れるまで。」
響いてきたその言葉の後、私の意識は徐々に薄れていってしまった。