覚束ない足取りで僕の部屋へと訪れてきた。泣いていたのだろうか、瞳も少し赤みを帯びていて僕を呼ぶ声すらも弱々しいそれであって。彼女の異変に気付いた時にはその場に彼女が倒れ込んだ後だった。



「マダム!!がっ!!」


苦しそうに浅く呼吸を繰り返しているを抱きかかえて、大声を出してはいけないなんてことも忘れて医務室へと駆け込んだ。マダムがこちらへとやってきてその声を注意しようと口を開くけれど、目の前に現れたのはの姿。マダムも彼女を知っている数少ない1人だったから、僕が抱えている彼女の姿を見て、すぐに気付いたのだろう 「先生、彼女を連れて奥のベッドへ。」 そう言ってマダムは彼女の様子を早急に見てくれた。




「過労ですわね、まったくこの子は一体何をやっているのかしら。」
「・・・過労?」


「精神的なそれもあるでしょうが、体が限界だったようですわ。」 すぐに、とは言えないけれど、しっかり休養を取ればすぐに治る そんなマダムの言葉に一時の安堵感を得たけれど、それもすぐに去ってしまった。倒れ間際に彼女が言ったあの一言が頭から離れない、



「   もう、時間が」



何を、なんて聞かなくても分かるようなあの言葉。自分の事は顧みず、彼のことだけを考えてきた彼女のその言葉。普段の彼女なら、多少の無理はしても自分の限界がくる前に止めていたはずなのだけれど、今回ばかりはそんな余裕さえも彼女の心にはなかったのだろう。精神的に追いつめられている事も彼女自身きっと分かっていたはずなのに、それでもまだ残っていた一欠片の光を頼りに、足掻いて、足掻いて。



「(シリウス、   君もも)」




休暇だったから、色々考えることがあったかも知れない。けれどいくら考えを巡らせたって、きっと彼女は彼の身体の事ばかりを考えていたのだろう。彼女が今まで何をしてきたかなんて、実際に見る事が出来なかったから本当の所は分からない。けれど、彼女はきっと、シリウスを助け出すために、  昔も、今も




「    手が届くところまで、来ているのにね。」


けれど、その分だけ届くまでの苦しみが増しているのは彼女を見ているとそれは明らかだった。届きそうで届いてくれないその糸を辿っては途中で切れていることに気付き、それからまた糸を辿って、時には自らを犠牲にしてそれを紡いで。けれど、紡ぎすぎてしまったそれはもうほとんど残っていなくて。


「(それでも、彼女は  どこからか微かに光っているそれへと)」



彼女が身を削って助け出そうとするのを、近くで見守ることしかできない。もちろん、シリウスを助けるためなら、僕だって命を惜しまない。けれど彼女はそれを良しとしないし、ひどく悲しそうな瞳をして僕を差し止める。彼女の苦しむ姿なんて見たくないけれど、悲しむ姿だって見たくないのだ。


だから、



「無理をしないように、  なんて君に言ったって、聞かないからね。」


だから、僕には僕のできることをしようと決心した。彼女が倒れるなら、また光へと向かえるように立ち上がるのを助ける。彼女が光を見失ってしまえば、また見つけ出せるように。



「それくらいは、僕にも手助けをさせてくれないかな。」



ようやくゆっくりと呼吸をし始めた彼女に、笑みを浮かべながら呟く。
やっと彼に繋がる糸が見つかったんだ、彼女はそれに向かって何度も駆け出すのだろう。




もう二度と、その光を見失わないように。




、もう少しだから。」



シリウスも、もう少し踏ん張ってくれ。  きっと、もうすぐ、彼女が君を見つけ出してくれる。

To the direction the light shows

もう、真っ暗なそれではないから