「ハリー、調子はどう?」
「!」
あの日から1日、ハリーのところへお見舞いに行く。幸い、ハリーは落ちてから数時間後に目を覚ましたらしい。顔色は睡眠不足からか少しだけ目の下にクマができてはいたけれど、落下したことからくる症状はたいしてひどくないようだ。自分の魔法が役に立っていたことに安堵する。
「ハリー、無理して答えなくて良いのだけれど。」
「? どうしたの?」
「昨日、吸魂鬼に襲われる前に黒い犬を見たでしょう?」
「っ!!どうしてそれを?」
ハリーが何か目で追っていたみたいだから、 そう言うと、ハリーはひどくやつれた顔でこちらを見る。あの黒犬が彼だという事をハリーはまだ知らないし、自分と彼の関係を覚えていないのだろう。ハリーに会いに行ったのは本当に小さい時だったから。けれど今のハリーに彼だと言ってしまえばそれこそ混乱を招く事にしかならない。
それでも、
「僕、信じたくないんだけど、あれはグリムじゃないかって思うんだ。」
それでもハリーには彼の事をこんな風には言って欲しくなかった。
「 グリム?」
ハリーから紡ぎ出された言葉が私の心にむざむざと突き刺さる。この時ばかりは彼が側にいなくて良かったと思ってしまうくらいの悲しい言葉。彼がここにいたらきっと笑顔で「仕方ない、」 と言うのだろう。悲しいだろうに、それを抑えて。そんな顔、彼にはもうさせたくなかった。(あの監獄で、どれだけ辛い思いをしたのかなんて、計る事はできない。)
「ハリー、言ったでしょう?運命はその時次第だって。」
「で、でも!僕はあの犬を見る度に危ない目に遭ってきた!ナイトバスや吸魂鬼の時もだ!」
「もし貴方がグリムの事を聞いて無くて試合に挑んであの犬を見ても、何も思うことなくスニッチを取りに行くはずよ。犬を見ている場合じゃないって。」
私の言い分に、「それは、 そう、だけど。」 とハリーは次の言葉を言い淀む。
「自分が不幸になる運命を聞いてしまうと、そればかりに目がいってしまう。」
それが、幸福を取り逃がす原因になるの。 ハリーに言い聞かせるように話しかける。けれどそれは自分に戒める意味でもあった。一時の迷いが綻びを生むことを、何度も経験してきた。もうこれ以上、彼を待たせるわけにはいかない。
「大丈夫、ハリーならできるわ。私を信じて?」
「大丈夫、なら出来る。俺を信じろ、な?」
ハリーの手を握って笑顔で言うと、ハリーも微笑んで 「うん。ありがとう、。」 と返してくれた。顔を見ると、どうやら吹っ切れたらしい。やつれていた顔も少し和らいだように見えた。きっと吸魂鬼のことがまだ残っているのだろうけど、それはリーマス辺りが解決してくれるはずだ。ハリーはきっと自分で吸魂鬼と戦う方法を知りたいはずだから。
「さ、ハリー。この話はここまでにして、楽しい話をしましょう?」
もうこれ以上、この話をしてもハリーが辛くなる。それに、私の方が耐えきれなくなってしまうかも知れない。そんな事を考えながら、しばらくハリーと楽しく会話をした。
「それでね、ロンが・・・」
「ふふ、面白いわね。」
何分話していたのだろうか、気付けばもう星が輝き始めている頃だった。マダムポンフリーに言われて、ハリーと挨拶をして医務室を後にする。そのまま部屋に帰っても良かったのだが、何だか風に当たりたい気分だったから屋上へと上がった。
「 シリウス、」
1つの星を見て手を伸ばす。ギリシャ語でのその意味は 光り輝くもの 彼に似合っている名前だと学生の頃から言っていたような気がする。その度に彼は照れたように笑っていたっけ、と目を瞑って学生の頃を頭に巡らす。私の側にはいつも彼の笑顔があった。
何年、あの大好きな温もりを感じていないのだろうか。
それを数えるのにはあまりにも長すぎて、辛すぎた。彼がいなくなった直後の事はほとんど覚えてなく、そこの記憶となるのは空虚と絶望感だけだった。そこだけ穴が空いたように記憶がない。その穴を埋めるように、幸せな頃の記憶が周りにある。
「シリウス、」
「ん?」
「貴方の側にいると、とても幸せな気持ちになれるのよ?」
「俺も、が側にいると思うと自然と顔が緩んじまう。ジェームズにさんざん笑われた。」
「ふふ。 大好きよ、シリウス。」
「 ああ、俺も。 愛してる。」
あの日から年月がいくら経ったとしても、これだけは変わらなかった。これからもそうだろう。
私にとって、絶対的で唯一無二の人。
「あの輝きを取り戻す、絶対に。」