心臓を鷲掴みにされた、そんな痛みが俺の全身を駆け巡った。



「っ!!」
「シリウスっ?どうしたんだいっ!?」


突然すぎたその痛みに、胸に手を押しつけてその場に膝をついてしまった。そんな俺の様子に隣にいたリーマスが慌てて同じようにかがみ込んで声をかけてくれる。大丈夫かい?と俺の肩に手をかけながらリーマスは言葉を続けた。不安そうに見つめる彼は、俺が昔見ていた時と全く変わらない、穏やかで優しい目だった。

そんな友人に俺は平気だと言葉を返す。確かに、突然すぎた痛みだったが・・・それが、今までに襲ってこなかった訳ではないからだ。(前から、この痛みはずっと、)


「・・・大丈夫だ。いつもと同じなら、すぐに治まる。」
「・・・いつも、だって?」


「・・・シリウス、どういう事だい?」 しまった、と思った時には既に遅く、リーマスが俺の言葉に反応してしまっていた。身体的に問題がある、という訳ではないのだ・・・いや、もう十数年もまともな生活をしていなかったから、問題がないとも言い切れないのだが。・・・けれど、この痛みは違う、これは、

・・・これは、あの時に感じた痛みと同じなんだ。


「本当に平気だ。体に問題がある訳じゃない。」



アズカバンに収監されてしまい吸魂鬼に幸福を、俺が一番そう感じていた、彼女と共にいた時のあの幸福を奴らに吸い取られてしまった時の、


「(  、)」


俺に、全ての幸福を与えてくれた、  との、



気が狂わなかった訳がない。とのそれらが俺の中からなくなっていくのが分かっていて何もできずにそれを奪われるなんて。  ・・・まるで、心臓をえぐり取られるような痛みが全身に襲い掛かってきたようだった。  ・・・何度、今のように胸を手で押さえて、


「(  っ、!)」


何度、彼女の名前を呼んだだろう。



「・・・本当に平気なのかい、シリウス?」
「 ・・・ああ、問題ない、大丈夫だ。」


それでも俺が完全に気が触れる事がなかったのは、自分が無実だという事を知っていたからという事もあるだろう。それは事実だ。でも、その事よりも俺の脳内をずっと占めていて、そうやって俺を吸魂鬼から守ってくれていたのは、   いつも、君だった。



「 俺は、ずっと守られてきたから、」



吸魂鬼は幸福な気持ちを吸い取る。だから、との思い出だって吸い取られてしまったが、でも俺に一番の幸福をもたらしてくれていたのは、  君の、  の存在自体だった。



「守られる?・・・シリウス、一体何を言ってるんだい?」



これは幸福でもあるが、だがあいつらが吸い取ろうとしたところで、の存在自体をあいつらは消す事はできない。もちろん、俺がアズカバンに投獄されてしまった時、の安否を心配しなかった訳ではないのだ。俺が動けない状態になった今、ヴォルデモートがを襲いにかかるのではと思ったら、それこそ気が気ではなかった。

・・・でも、それでも俺は彼女が無事だと心の何処かで確信している節があった。

この確信も、あいつらが吸い取る事のできる希望なんかではない、事実に近い形で俺の心に存在していたのだ、は、俺がこうしている間も無事に生きていると。何故かと言われると、上手く説明はできないのだが、・・・それに、こんな事を言えば、に笑われるかも知れないが、  ・・・の俺の名を呼ぶあの声が俺の中で聞こえる度に、(俺の身体に響き渡る度に、)



「 大丈夫よ、シリウス。 私の全てはいつだって、貴方と共にあるんだから。」



俺を優しく抱きしめて、そう、俺に語りかけてくれている気がしたんだ。昔からずっと、そうしてきてくれていたように、俺の全てを包み込んで、大切そうに愛しんで。 そんな感覚が、 その事が、この心臓の痛みを和らげてくれ、  俺を俺でいさせてくれた。



「・・・は、」
? がどうしたんだい、シリウス?」
は、本当に俺のことを、 倒れるなんて無理までして・・・・」


そんなが、俺がアズカバンに入れられてからずっと、俺のことを、? リーマスから聞いたその全てに、俺の心はまたズキリと痛んだ。リーマスが見てきたこの1年の間でも、彼女は2回も倒れたらしい・・・俺があそこに連れて行かれてから、彼女は何度、そんな目に遭ったのだろう。俺なんかのために、そんな無理をして、


「 シリウス、まったく君ってやつは・・・」
「? リーマス?」


思わず口から出てしまった俺の言葉に、リーマスはこれ見よがしにと言わんばかりに、盛大にため息を吐き出してきた。けれどその言葉の意味も、そのため息の意味も分からなかった俺は彼の名前を呼ぶことしかできなかった。そんな俺の様子に、リーマスは顔に苦笑を浮かべながら、俺にこう言ったんだ。「 もし、君とが逆の立場にういたとしたら、君はどうする?」


「逆のって・・・!!そ、そんな事っ!!」
「・・・ほら、そうやって、仮に、って事を考えただけでも、君はそんなにも傷ついた顔をするだろう?」


「そういう事だよ、つまり。」 リーマスの、考えるだけでもおぞましいそんな言葉を紡がれ、思わず声を荒げてしまった。けれど、リーマスはそんな俺の様子を予想していたかのように、さらに言葉を続けて、ゆるりと微笑んだ。「さっきも言ったけど、  愛しい人のためなら、自分の事は後回し。」



「君達は、 いつだってそうだっただろう?」



「今までも、そして、きっとこれからもね。」 まあ、これからはもう少し自分にも気遣ってくれると、友人としては嬉しいけど。  ・・・どうやら、俺達の友人は俺達の全てを理解してくれているらしい。穏やかに紡がれた友人の言葉が、何の違和感もなしに俺の心へと染みこんだ。




・・・もし、そうなら、


もう何年も彼女の顔を見ていない俺は限界なんて、とうに超えているのだ。そんな中、リーマスからそんな話を聞かされてしまえば、(彼女の身体が、それほどまでに、)


「俺、は・・・」


・・・が俺のために無理をしてしまっているのなら、 いや、もしそうでなくとも、 俺は、  彼女に、俺に全てをくれたに、   「 ・・・早く、終わらせて、 彼女に、」(俺の、愛しい、)




「  に、 会いたいっ・・・!」

All of my .... with you

そして彼女に言うんだ、  愛していると、俺の全てで抱きしめて。