「(・・・警戒していない訳でもなかったのに、)」
一応、海賊という名を背負っている彼らだ、少し変わっていると言っても、いくら悪い海賊だけが世界にいるわけでもないと言っても、いつ、自分へと攻撃の矛先が向かって来ても良いようには構えていた。自分から向かっていかなかったのは、人数の多さもあるが、けれどもっと他の何か原因がある事に、自分の中に生まれていたある感情があった事に、は気づいていない訳ではなかった。
ただ、その感情が今までに沸き上がらなかったそれだったから、少し、戸惑っているだけで、
「( 何だろう、)」
いつの間にか身体に融け込んで、奥底まで染み込んでいっていたそれら。けれどその感情をどう扱って良いのか、彼はまだ知らなかった。いっそそのまま見て見ぬふりができれば良いのだけれど、身体に響いてくるその心地よさを一度感じてしまえば、それを忘れる事なんて、普通の人間には無理な芸当であって。それに、自身がそれを、理由が分からないにしても、手放したくないと思っているのなら、尚のこと、
「 ・・・酒が回っている、のか、(・・・それとも、)」
「とてもそうには、見えねェがな。」
「っ!?」
まさか独り言に返事が来るとは思っていなかったは、聞こえてきたその声に、ビクリと身体を震わせて身体を思い切り振り返らせた。そこにいたのは、全員気持ちよさそうに寝ていたと思っていた彼らの1人、ゾロだった。いつもなら気配くらい感じるはずなのに、それすらも感じることができなかった事に動揺しながらも、はなんとか後ろからやってきたゾロへと言葉を返した。
「、すまない、起こしてしまったか?」
「いや、最初から寝てねェよ。 それより、」
「? どうかしたの、」
「てめェから、敵意を感じねェ。」
「・・・何を企んでやがる、」 遠回りのとの字もないような、直接的なそんな言葉に、は一瞬目を見張った。けれど、その言葉が理解できない訳ではなかったし、目の前にいる彼が何故そんな事を言ったのかも分からない訳ではなかったから、一瞬現れたその表情はすぐに姿を消し、は苦笑を漏らしながら、持っていたコップへとゆるりと視線を移して、喉を震わせた。
「警戒、してなかった訳でもない。」
「君達は海賊だからね。攻撃してくるような事があれば、それなりの対応はするつもりだったよ。」 自分から敵意を向けるつもりはない事をその言葉に含めながら、はゆるりと声を出す。もちろん、それがゾロの欲している答えではない事くらい分かっているから、は続けて言葉を放った。
「・・・その、ね、俺にもよく、分からない。」
「は?」
「何故、だろうね、」
この期に及んではぐらかす気だろうか、 自分へと放たれたの言葉に、ゾロは一瞬そんな事を思いながら気の抜けた声を発してしまったが、すぐにそれが冗談でなく、本気でが混乱しているのだという事がその声から伝わって来た。「信じてもらえないかも知れないが、少なくとも、これが敵意では無いことは、確かだと思う。」ぽつりぽつりと、相手にそれを伝えるというよりは、むしろ自答しているように聞こえるその声が、けれどしっかりとゾロへと届いた。
・・・これが嘘だったらぶった斬ってやるとこだが、 そんなの様子を、とてもじゃないが嘘をついているようには見えない、目の前に座り込んで自分の中に芽生え始めていた感情に戸惑っているその男の様子を、後ろから見ていたゾロは、頭を掻きむしりながら深々と息を吐き出した。
「・・・あいつが気に入る訳だ、」
「? あいつ、?」
「、俺にも酒寄こせ。」
「あ、ああ、それは、構わないが、」
「・・・あいつ、って、誰の事を?」 瓶をそのまま渡して来たがぽつりと独り言のようにそう言ったのを、ゾロはしっかりと聞きながらも、けれど、聞こえていないふりをして酒を呷った。たぶん、今言った所でこの男には理解できないんだろう。それにそういうのは自分で分かっていくから、理解できるんだ。
「・・・まァ、そのうち分かんだろ。」
気休め程度にしかならないその言葉を呟いたゾロのその声を、もしっかりと聞き取っていたらしい。「・・・分かるように、努力はしてみる。」 なんて返事をしてきたの顔に、どこか楽しそうな、嬉しそうな笑みが浮かべられていたのを見ていたのは、夜の空に光る月だけではなかったようで、
09. 透明な夜空
それはいつもよりも、何故だか輝いて見える気がした。
designed by SPICA
title by 鴉の鉤爪 / 透明な夜空(ざっくばらんで雑多なお題(日本語))