「 ・・・ん、(朝、 か?)」
いつものように聞こえてくる朝の挨拶をする動物たちの声に、はゆるりと目を覚ました。意識と一緒に浮上してきた感覚が普段なら感じるはずのない少しの肌寒さを身体に伝えてきて、何故だろうとまだ重たい瞼を指で擦りながら辺りを見回すと、視界に映ってきたのは自分の部屋にはないその濃い、綺麗な緑色ばかりであった。
「・・・ああ、(俺は、そのまま外で、)」
ゾロとの会話を終えた後、もう少し夜風に当たりたいとそのまま外に居残ったところまでは覚えていた。どうやら、居残ったままその場で目を閉じてしまったらしい。自分の中へと居座って戸惑わせるその感情に、何か少しでも答えが出れば。と考えを巡らせていたのが原因だろう。今までに感じた事のないそれらに無理に答えを出そうとすれば、当然思考力の浪費も大きくなる。・・・それは、理解できるのだけれど、
「(・・・いい年をして、)」
己の行動に情けなさを覚えてしまい、は思わず、自分の顔を手で覆いながらため息を盛大に吐いてしまう。答えが出てこないからと言って散々考え込んだ挙げ句、いつの間にかその場で―それも家の中ではなく、外で、眠り込んでしまうなんて。すぐ後ろに見える自宅がさらにその情けなさを助長させた。しかも、結局、その感情に対する答えは少しも出てきてはくれなかった。
「(・・・でも、何で、 )」
けれど、答えが出てこなかったというのに、己の中に生まれたのは何故だか心地よさであって。もちろん、答えが出なかった事に対するもやもやとしたそれらを感じなかったと言えば嘘になるけれど、それでも心の大部分を占めたのは、温かな何かであった。
感情なのだから、触れる事なんて、手で握る事なんてできるはずがないというのに、はじっと見つめていた自分の顔を覆わせていたその手をゆっくりと、しっかりと、関節を曲げて、まるでそれらを逃がしたくないと捉えるように、握りしめた。
「(・・・何、だろうな、 本当に、)」
「・・・おかしな、海賊でしょう?」
「っ!!」
「フフ、ごめんなさい、驚かせてしまったかしら?」
片足を折り曲げて目の前の膝へと手を突く事で頭を支えて、自分の握りしめていた手をどことなく困ったように見つめているへと、不意にそう声がかけられた。考え事をしていた所為で全く人の気配を感じる事ができていなかったは、聞こえてきたその声に、情けないくらいに身体をビクリと跳ね上がらせて、その勢いのままに後ろへと思い切り身体を振り返らせる。そうすれば、の視界に入ってきたのは、自分にその訳の判らない感情を抱かせた彼らの1人、ロビンの姿で。
「・・・いや、俺が少し考え事をしていたから。」
そういえば、同じような反応を昨夜もした気がする。彼らが気配を隠す事に長けているのか、それとも俺が気配に気付かない程、考え込みすぎていたのか。そんな事をは思いながら、自分の反応に微笑みながらそんな言葉をかけてきたロビンへと少し恥ずかしそうにそう返事をした。(また、情けない反応を彼らに見せてしまった。)
「そう、考え事。 それに、答えは出なかったのかしら?」
「・・・そんなに、俺の顔は険しくなっていたのか?」
「フフ、いいえ。険しくはなっていなかったけど、」
「そうね、 困っているようには、見えたかしら。」 ・・・それは険しくなったと言うのでは。 聞こえてきたロビンの返答に、思わずそう返すと言葉ではなく笑みが返ってきたものだから、それこそ、はどう反応すれば良いのか対応に困ってしまった。けれど、先程、感じていたものと今のそれとは、何となくだが、違うように思えた事だけは、はっきりとには判断ができた。ロビンのそれに、どう返せばいいか考えていれば、がその答えに行き着くよりも早く、彼女の方が続けるようにして言葉を紡いできて、
「・・・心地よい、でしょう?」
「っ!! な、んで、 それを、」
「フフ、さあ? 何でかしら?」
聞こえてきた、自分の考えていたことをまるで知っているかのような、鋭いその言葉に、は思わずそう言葉を放ってしまう。彼女は、自分の中に芽生えたその感情の対処法を、その答えを知っているのだろうか?
自分も知らないうちに、期待を胸にしてロビンを見つめ返していたらしい。けれど、その視線の先にいるロビンは、昨夜もが耳にしたのと同じような言葉をどこか楽しそうに、
「大丈夫、そのうち分かるようになるわ。」
「実はね、私もその答えを模索中なの。」なんて言葉を付け加えられながら、その声はの耳へと届けられた。けれど、そう言葉にする彼女は、すでに、答えを知っているような、そんな笑みが浮かべられているのをの目はしっかりと捉えていたようで。まるで、その答えを知っているけれど、それを認めて良いのか、その分岐点に立っているかのような。その答えすら見つかっていない自分がまるで、なんて喩えるような表現を使うのもおかしな話だが。
「そうなのか、 ・・・見つかると良いな。」
「フフ、そうね、見つかると良いわね、 お互いに。」
お互いへと口にした言葉を聞きながら、緩やかに頬へと当たる穏やかに吹く風へとは身を任せるようにしてゆるりと瞼を閉じた。芽生えた感情のその答えすらも、自然の成り行きに任せるかのように。
10. 機械仕掛けの迷路
俺はきっと、その入り口にすら立っていないのだと、思うけど。
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title by 鴉の鉤爪 / 機械仕掛けの迷路(散文じみた100のお題)