「(・・・ずいぶんと奇妙な人間を拾って来やがって。)」
今頃、船長と一緒にその人物の家にいてぐっすり眠っているであろう白くまに思わず悪態をついてしまいながら、砂浜を歩く。異世界から来たという、その人間。・・・もうこの時点で何をおかしな、と言いたいところなんだが、百歩譲ってこれが事実だと受け止めるとして、それよりも大きな問題があったのだ。
「(・・・考えてる事が分からない人間ほど、)」
俺達に媚を売るでもなく、あからさまな恐怖を見せるでもない。死にたがっているのかと思えば、そうでもない。・・・そして何より、感情の起伏が全く見られないのだ。何を考えているのか、何を狙っているのかが全く分からない。だから、余計と混乱してしまう。もちろん、何があってからでは遅いから警戒心を解いてはいない、今だってその為に家へと向かっているのだが・・・その警戒している相手から、全くその気配を感じられないから、
「(どういう人間なんだ、あの男は、)」
未だにほとんど処理し切れていない、戸惑いばかりを俺の脳内に植え付けるあの男。シャチだって、他のクルーだって、それは同じなのだ。いくら船長が強いって言ったって、それを俺達が信じているとしたって、それでもやっぱり不安になるのだ。得体の知れない人間をこれ以上、側に、船長の近くに、置いておくなんてそんなこと、・・・なんて、クルーの中では全員一致であるのに、
「・・・その船長自身がずいぶん気に入っちゃったもんだから、また、」
思わず声となって出て行ったその言葉は静かな海へと波打ちの音と一緒に消えていく。そんな不可解な男に、船長がえらく興味を持ってしまったもんだから、もう俺達にはどうしようもなくて。・・・そして、長年、船長と一緒にいたから俺達には分かるのだ、船長のその関心が一時的なものではないって事も、
・・・だって、本当に久しぶりに見たのだ。
「(・・・あれだけ楽しそうに笑われたら、)」
男の話にえらく楽しそうに、にこに…いや、にやにやと、見る度にそんな顔をしている船長を見てしまえば、俺達はもう何も言えなくなってしまうのだ。いくら不確定要素ばかりで、いつ俺達に向かってくるとも知らないそんな男だと言ったって、船長のそんな顔を見てしまえば、船長がもう俺達の忠告なんて一切聞いてくれないことも。
「一度、こいつと戦ってみろ。」
・・・その上、家に着いた途端、船長からそんな言葉が紡がれたもんだから、俺は考えまいとしていたその推測を確信へと強めざるを得なくて。そんな理由でえげつない任務をやってきたというその男との戦闘に駆り出される俺の身にも・・・、なんて言葉を吐く代わりに、俺は再度ため息を吐きながら、それしか許されないであろうその返事を船長へと返す。面白そう、なんて、そんな簡単な言葉で船長は片付けているけれど・・・
「(・・・何ですか、その手は。)」
口を突いて出そうになったその言葉をなんとか飲み込んで、その男の額の上の何故か乗っかっている船長のその手を思わず凝視してしまう。だって、不用意に、ただ何となく他人に触れるような人間ではない、あのロー船長が、だ。体温を測るためならすぐに外されるはずのその手は、俺がこの部屋に入ってきた時にはもう既にその額に乗っていた。・・・それはつまり、
「・・・ホント、もの好きっすよね、船長。」
「フフ、褒めても何も出ねェが?」
「・・・褒めてないですよ。」
俺の真意が分かっているくせにそんな言葉を放つ船長は相変わらず口角を上げたままで。俺達が船にいる時に、その男と船長との間で何があったのかなんて知る由もないのだけれど、船長の今の様子を見れば、何もなかった訳がないのだ。・・・それぐらい、楽しそうな笑みを浮かべていたから、
「・・・どうするんです、この男。」
どうするもこうするも、ただ、この島で偶然出会った人間、というだけだ・・・奇妙な出会い方で、奇妙な人間だったとはいえ。だから、この島のログが貯まってしまえば、それっきり、のはずなのだ、・・・普通は。
「(・・・普通であれば、だが。)」
残念な事に、その普通に、今の段階で既に完全に逸れてしまっている事を身に染みて感じてしまっている俺は、だから敢えて、それを訊ねたのだ。ハートの海賊団の全ての決定権を持っている、その船長に。
・・・いや、薄々は気付いているのだ。普通から外れてしまっている時点で、船長がこれだけ楽しそうにしている時点で、もう答えは1つしかないじゃないかという事に。
その証拠に、
「フフ、・・・さァな、」
紡がれたのは、そんな曖昧な言葉だったのだ。嫌な予感が当たってしまう気しかしない、のだけれど・・・何故だか、それ程その予感に不安を煽られたりはしていないのだ。それは、ロー船長が見せる態度がそうさせているのも、もちろん理由の1つだ。この人がこう言ってるんだから、大丈夫だろう、と長年の経験からくるその理由。
・・・もう1つ、これは俺の直感でしかないのだが、
「(マフィアだと聞かされて、違和感はなかったんだが、)」
警戒していない訳ではないのだ、疑心も未だに消えていない。・・・でも、その中に、ある気持ちも生まれ始めていたのだ。暗殺だとか報復だとか聞いた後にもかかわらず、それでも、もし俺の予感が当たったとして、この男がこれから先、俺達に大きく関わる事になったとしても、まあ、大丈夫だろ、と思ってしまう程に、
「(・・・何か、悪い奴には見えないんだよなあ、)」
In the Rough
・・・そしてこの後、俺はこの男との戦闘で、こいつの任務の話を嫌と言うほど実感させられるわけだが。
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title by 鴉の鉤爪 / in the rough(未完成のままの)(英語成句で50のお題[in])
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