ベッドの中からそんな声が聞こえたのは太陽が西へと傾き始める前くらいだった。昨夜から変わらない位置、ベッドの傍らで読書をしていた男が声に気付いてゆるりとそちらへと視線を移す。顔色だけを見れば、昨日よりも、それから出会った当初よりも、ずいぶんと良くなっている。そんな事を思いながら、その顔へと手を伸ばす。調子が戻ってきたのは顔色だけではないらしい。
「・・・、あさ、」
「朝と言える時間はとうに過ぎてるがな。」
額に手を滑らせて、まだ完全に覚醒していないのその言葉に返事をする。平温に戻った事を確認したその手がゆっくりと離れると同時に、自身もゆるりと起こせた体がずいぶんと軽くなっている事に気付く。それから、ゆっくりと声のした方へと顔を向けて、
「?、何だ。」
「・・・いや、」
ずっと、こうしてベッドの傍らにいたのだろうか。思わず浮かんだその言葉を声に出さなかったのは、の中で何か引っ掛かるものがあったからだ。おそらく、見張り、の為なのだろう。皆が寝静まった後に、何か自分がおかしな行動をしでかさないようにと、しでかしたとしても自分がすぐさま対応できるようにと。
自分だって、こんな、異世界だとか、訳の判らない事を真剣に言う奴がいたら、そうする。他に被害を出さないように、いつでもすぐに息の根を止められるように、側にいて、
「(・・・でも、)」
そこまで考えて、は視線を男から自分の掌へと移す。・・・見張る対象であるはずなのに。昨夜、意識が途切れる前に感じたあの男の掌が、あの心地よさが、どうしてもその考えを鈍くさせてしまう。何故、見張りの対象である俺に手を伸ばしてくるなんて、わざわざ自ら危険を冒すような事を、・・・それに、俺自身だって、おかしいのだ。
抵抗することなく受け入れるなんて、その手を心地良いとすら思ってしまうなんて、それこそ、ボスにしか・・・
「フフ、医者が病人を診るのは当たり前だろう?」
の様子をじっと見ていた男は表情に出ていた訳ではなかったが、視線が自分から離れて手に移された事で、が何を考えているのかを読み取ったようで。
「 ・・・医者、?」
そうして紡いだその言葉に、は再度男の方へと顔を上げた。放たれた言葉は、どうやらの中では予想もしていなかったものだったらしい。重なっていた視線がすぐに離れると、「・・・貴方達は、海賊、だと思っていた。」と、から続けて響いてきたのはその言葉で。男はゆるりと口角を上げる。
「どの時点で、俺達が海賊だと思った。」
「・・・、貴方達の会話で、貴方が船長だと呼ばれていただろう?」
「フフ、判断材料はそれだけじゃねェだろう?」
「、商業船にしては、皆に戦闘経験があり、数名は商船では考えられない程の経験がありそうだったのが1つ、」
それから、読んだ本の中に、今は大海賊時代だと書かれてあったのが1つ。・・・確信を持ったのは、貴方達の船に、着ている服にもあった海賊マークらしきものが見えた時だ。全てを纏めて考えると、海賊じゃないかと思ったんだが・・・気分を害したなら、謝る。
男に促されて紡いだのその言葉に、男はいっそう笑みを深くした。なるほど観察力もしっかりと備わっているらしい。医者と海賊を結びつけるほどの突飛さは持っていないようだが。そんな事を考えながら、「本業は海賊で合ってるから謝罪する必要はねェ。」と言葉を返せば、再度、の顔が男の方へと向けられて、
「・・・海賊で、医者なのか?」
「フフ、何だ。海賊で医者になったらいけねェなんて決まりはねェだろう?」
「、いや、否定している訳ではない。・・・そんな組み合わせを初めて聞いたから、少し驚いただけで、」
海賊はどちからと言わなくとも、命を奪う存在だ。そして医者は、命を救う者。一見すれば、矛盾を孕んでいるようにしか思えないその2つ。けれど、目の前にいるその男がその矛盾で葛藤しているようにはどうしても思えなくて。海賊を本業とする医者・・・
けれど、ふと浮かんできたその疑問が、のその思考を停止させる事になって。
「・・・、( どうして、)」
・・・何故、他人の事をここまで考えているのだろう。当たり前のように考えを巡らせてしまっていたけれど、普段なら全くしない事なのだ・・・それが敵であれ、仲間であれ。そして、それが、いくら、気まぐれとは言え、二度も助けてもらった人物だとしても、だ。今までなら、他人の事を自分から知ろうなんて、そんなこと、・・・あの人以外に、
「(・・・驚いた、ねェ?)」
その言葉を最後にすっかり沈黙してしまったを、男は何を言うでもなく眺めていた。少し間があっただけで、その言葉と全く一致していないその顔は、当然、今も無表情なのだけれど、何か考えている事は分かる。
そしてその思考が、今の会話からして、自分に向けられている事も、
「フフ、おい、体はどうだ?」
「、・・・?、ああ、ずいぶんと良くなった。」
「だろうな。おい、ペンギン、入ってこい。」
「・・・はい。」
唐突に自分へと放たれたその言葉に、考えていた事を隅に寄せ、なんとか反応して返事をすると、今度は何故だか仲間の名前を呼んで。その意図が全く見えてこず、はベッドで体を起こした状態のまま、おそらく家の前で見張っていたのだろう、ペンギンと呼ばれたその男がドアを開けて入ってくるのを眺めることしかできなくて。
「・・・船長、やっぱやるんですか。」
「フフ、何だ、不満か?」
「・・・不満というか、」
どうやら、2人の間では話が既に進んでいたらしい。主語が無く会話がされているものだから、もいまいち状況を把握できなくて。・・・明らかに警戒している彼を呼んで、一体何を、
そして、男が再度の方へと視線を向けたかと思えば、何だか楽しそうな笑みを浮かべていて、
「今からこいつと闘ってもらう。」
「・・・?」
そして飛んできたその言葉も、さっぱり理解の出来ないそれであった。
In the Course of Natural
訳の判らないままに、けれどカルラが外へと足を踏み出したのは、
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title by 鴉の鉤爪 / in the course of natural(自然の成り行きで)(英語成句で50のお題[in])
title by 鴉の鉤爪 / in the course of natural(自然の成り行きで)(英語成句で50のお題[in])