「 起きたか、」
そのどこかへと向けている思考をその男が戻そうとしたのかは分からないが、へと視線をやりつつ、男はゆるりと第一声を放ったのだ。
「・・・、ああ、」
そして、幾分の間が空いたその後、
「 何故、俺を二度も助ける?」
相変わらず、何の感情もこもってないような抑揚のないその声が部屋の中へと響いて。おそらくまだ朦朧としているだろうその頭でなんとか自分の状況を把握したのだろう。・・・そうして頭に浮かんだその疑問。そして、限界が来て倒れた体が野外に捨てられているとでも思っていたのだろうか、続けて紡がれた、自分は無価値だというその言葉。
どうにも、この男は物事を損得という基準でしか判断できないらしい。まあ、自分も似たような所はあるが、なんて男はそんな事をちらりと思いながら、言っている最中、一度もこちらを向くことはなかったのその顔を変わらずじっと見つめた。目の前で体を横にしているが自分に問うような言葉遣いをしてはいたが答えを求めている訳ではなく、己の中で納得のいく答えを見つけようとしている事に気付いていたその男はゆるりと喉を震わせた。
「 価値がねェかどうかを判断するのは俺だと思うが?」
無価値であるかどうか、それを判断するのは自分の方であると、 そして、 「フフ、 一度目は確かにきまぐれだったが、」
「 面白ェと思ったから。」
異世界からやってきたと突拍子もない事を言う、自分達に害が及ぶ可能性がないとは言いきれないこの全く得体の知れない男を、わざわざ二度も労力を費やしてまで手を伸ばした、その唯一の理由を。
「 ・・・、?」
“つまらないと思われる側の人間”と自覚のあったらしいの顔には男から見てもはっきりと分かる程に、戸惑いの色が浮かべられた。そして、自分の言葉によって、再び無表情のその顔に表れた感情に、男は笑みを深くさせて。
「・・・面白いなんて、言われたことがなかったから。」
一度も言われた事のない、そしてつまらないと自覚もあったところに紡がれたそんな言葉に、どう返して良いのか分からない。そんなの感情がようやく男には手に取るように分かったのだ。そして、ぽつりと紡がれたその言葉を自身で何とか噛み砕こうとしていたから、2人の間にしばしの沈黙が流れた事も。
けれど、その後、の感情に向けられていた男のその意識は、すぐに別のものへと向かってしまう事になる訳で。
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「 フフ、」
目の前で無防備にも意識を手放したへと視線をやりながら、先程、部屋の中へと響いたのその言葉を思い出して、男はゆるりと口角を上げる。ぽつりと呟かれたその言葉は男に聞かせるつもりではなかったのだろう、ひどく小さいそれであったのだ・・・けれど、当然ながらこの静かな部屋に響いたその声は男の耳に届いていて、 そして、
の顔に浮かんだ困惑とは違うその表情も、ずっとへと視線を留めていた男の目に、しっかりと、
「(・・・おかしいのはどっちだか。)」
未だにの額へと伸びている自分のその手へと視線を移して、男はそんな事を思う。この、今も伸ばしている腕に対するの反応も、男にとっては良い意味で裏切られた結果の1つだった。戦闘経験が数多くあるその体はいくら弱っているとはいえ、本能的に何らかの防衛反応を示すと思っていたのに、
「(・・・まァ、手を出した俺も俺だが。)」
つまらない島だと思っていたところに、まさしく落ちていた、という表現がぴったり来るように、自分達の前に現れたこの男。暇つぶし程度にはなるだろうと、その程度に思っていたはずであるのに・・・、自分の時間を費やす事を厭わない程に、一度ならず、二度も倒れたその体をベッドへと寝かせてしまう程に、
「 ―さっさと寝て体を休めろ。」
なんて、正体不明の怪しいという言葉がしっくり来てしまうその男に、まるで気遣うようなそんな言葉を、つい、かけてしまうくらいに、
そんな事を思っていれば、が寝たことで続いていた静寂を破る音が男の耳に聞こえてきて、
「 船長、やっぱり俺もここに、・・・何笑ってんですか。」
ドアのノック音と共に聞こえてきたその声は男の部下のそれだった。けれど、男はそちらを一瞥すると、返事をするでもなく笑みを深くしただけで、そのままの方へと視線を戻してしまって。部下も部下で、その笑みを何度も見たことがあるのだろう、その笑みに何の言葉を返す訳でもなく、その男の口がゆるりと開かれるのを待つことしかできなくて。 「 フフ、」
「 ペンギン、」
「・・・何ですか、船長。」
存外にもすんなりと受け入れられてしまったその手で確認したその額は男がに紡いだように未だに熱を持っていた。この程度だと、常人であれば3日程休んでようやく全快するようなものだが・・・さて、どれくらいで治してくるか。
「一度、こいつと戦ってみろ。」
「任務とやらで散々えげつねェ事をやってきた奴だ。どの程度モンか、面白そうじゃねェか。」 そして再び一歩、男はに近づく言葉を放ったのである。
Stick in the Mud