を先頭にして、彼がどんな人物なのかという好奇心で隣にベポが、そしてその後ろから先程の部屋でドアに寄りかかりに案内しろと言ったその男が、そしてその男の両隣にドアの外からその3人の様子を探ろうとしていた2人が順にがこの世界に来てから寝床としていたその家へと歩を進めていた。


「・・・本当に、枷をつけたり銃を向けたりしなくても良いのか?」


手首へと自分の手をやりながらはぽつりとそう言葉を零した。自分の職業が職業だからだろう、自分達に危害を加えかねない人物への対処方法をは重々承知していた。だからは彼らに無防備な背が向くように先頭へと自ら歩み出たのだし、当然、自分の手なり足なりに枷がつけられたり、いつでも殺せるように誰かが武器を自分に向けるものだと思っていた。


「だ、だから、何でそうやって物騒なこと言うのっ!?」


「枷なんてつけないし、君を殺すなんてこともしないから銃も向けないの!」 そうすれば、隣から慌てた、そしてにとっては何故だか分からないが、少し不満そうな音を含んだそんな声で返事が放たれる。俺から殺意が感じられないから、そんな事を言っているのだろうか。だが、殺意を巧く隠す奴なんて多くはないが稀と言うわけではないのだ。後々の面倒事を避けるためにも、万が一に備えておいた方が効率が良いはずなのに。

・・・もしくは、後ろにいるキャプテンと言われた、おそらくこの中で一番強いであろうその男の実力に他の3人が絶大な信頼を置いているからだ。「・・・そうか。」とベポへ返事をするというよりも自分の頭に浮かんだその理由に納得するかようには言葉を紡いだ。すると、後ろにいたその男はそんなの返事の言外の意味をどうやら読みとったようで。


「フフ、心配しねェでも、万が一お前がバカな事をしでかしたら、俺が始末してやる。」


「だが、お前はそんなバカな事、しねェだろう?」 身体は進行方向に向けていたからその男の顔をは見られなかったが、楽しいと言わんばかりのその声音を背中に受ければ、どんな顔をしているかくらい、容易に想像がついた。実力を伴った、余裕を感じさせるその言葉に、はゆるりと頷いた。「ああ、用済みになったら、いつ消してくれても構わない。」


「だ、だから自分を消すとかそんな事言わないのっ!もうこの話は終わりっ!良いっ!? それよりもっ、さっき任務って言ってたけど、どんな任務をしてきたの?」
「俺の任務は主に暗殺や報復だった。」
「・・・あんさつに、ほうふく。」
「ああ、ボスに言われて、ごく稀に政治にも顔を出す事はあった。」


「だが、俺はそういった幹部の仕事よりも戦闘員の方が性に合う。」 ベポが無理矢理、話題を変えたことにも何も言うことなく、は淡々とその質問に答える。どうやら話題転換の方向を間違ってしまったらしい、ベポがその事に気付いた時にはもうすでに遅く、「・・・暗殺に報復って、どっちも意味は大して変わらないじゃないか。」「せ、船長っ、やっぱりこいつ危ないって!!」とベポと同じように慌てる者達もいれば、一方でさらに笑みを深くしてしまった者もいて。


「フフ、あの銃で、その任務とやらをしてきたのか?」
「人数が多い場合や即死で良い時はあの銃を使ったが、生かしておく必要がある場合や苦しむ事を目的とした場合は違う武器を使う事もあった。服に隠していた武器があっただろう。」
「あァ、あの殺傷能力の低そうなナイフか。」
「あれも急所を狙えば当然死に至るが、殺傷能力が低い分、あの銃よりも出血量を変えやすくなる。」


ちょっともうそいつから離れくださいって船長!なんて声を相手にすることなく、船長と呼ばれるその男はと会話を続ける。先程まで熱中症で倒れていた人間とは思えないほどに、の声も足取りもしっかりとしている事に、もちろんその男は気づいていた。そしてそんな状態であれば自分から逃げる事もできるというのに、にそんな意志が全くないことも。


「・・・あの家が見えるだろうか?」
「あれがお前の言っていた家か。」
「ああ、あの家で俺はこの世界で生きていくうえで必要だろう知識を読んだ・・・だが、」
「? だが、何だ?」


そして、ここが自分のいた、ボスのいる世界ではない事も、それらを読んでしまったが故に自覚してしまったのだ。けれど、と、ぽつりとは独り言のように呟いた。確かに知識は吸収したが、どうやってこの世界に、何故、自分が飛ばされたのかなんて、自身も分からないままだった、と。いつも通りに任務をこなしていたのに、それの何処がきっかけになったのかも。

ただ、これも何故かは分からないけれど、本能的には感じていたことがあった。もし、何が引き金となって、自分がここに飛ばされたのか、何らかの方法でそれを知ることができたとしても、もう、おそらく、あの世界には、


「 ・・・ボスのいるその世界には戻れない気はしている。」


「ただの、自分の勘にすぎないが。」 そう続けたの声に、彼が寝ている時、最初に聞いたあの声色に似たそれが微かに含まれていた事に気づいたのは、後ろにいたその男だけで。その男にとって、の声に感情らしきものが入り込んだのを聞いたのは、今ので3度目だった。

面白い男だと思った。聞いていれば、にとってそのボスとやらが、その肩書きだけではない、何かもっとえらく重要な存在だという事はすぐに推測できる。そのボスにすべてを捧げていて、にとっての絶対無二のものだということは。・・・だが、そのボスともう二度と会えないと気がすると自分でも気付いているにもかかわらず、は寂寥感に似たその声音を出した事はあっても、絶望そのものは一切見せなかったのだ。それだけその名前を繰り返して言っているというのに、その人物にはもう死んでも会えないというのに、何故その目に、その声に、絶望のその色は一瞬ですら見られない?


「(まァ、何だって構わねェが。)」


そこまで考えて、その男はそれを脳内の奥へと押しやった。面白いからと言って、そこまで考える必要がどこにある?異世界の人間だというのは、確かに興味深い。この、今自分のいる世界も大概おかしいが、それに加えて自分達が決して行くことのできない、異世界があるときた。面白いと思わない訳がない。・・・だが、異世界の人間という以上に、その男は自身が面白いと感じたのだ。


「着いたぞ。俺の家ではないから、何とも言えないが、」


「好きに見てくれて構わないと思う。」 自分が予想していなかった反応を次々に見せてくれる、そんなが、





The Handwriting on the Wall

今思えば、とっかかりなんて些細なものだったのだ。


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title by 鴉の鉤爪 / the handwriting on the wall(前兆)(英語成句で50のお題[on])