「あ、キャプテン!起きたよっ!」
意識が浮上していくなかで、のぼやける視界いっぱいに広がったのは白い塊だった。まだはっきりしてない所為かと思ったが、鮮明になっても変わらず見えるその白色はどうやら実物であるらしい。「大丈夫?」とその白から声がする・・・こえが、する?
「 こえ、」
声が、するはずがないのだ。誰もいないと自分で嫌になるほど確かめた、その島で。思わず音となって出てしまったその声に本人は気付かないまま、常に自分の置かれている状況を把握する、というこの仕事をしている以上習慣として身についてしまっているその癖を、は無意識に行おうと脳内に信号を出した。混乱を極めている脳内でも本能だけは冷静に働いていたらしい。下手に身体を動かすのは危険であると長年の経験で知っていたはいつものように、感覚だけでその場にいる人数を把握する。
「ねえ、大丈夫?熱がまだあるみたいだけど・・・おれの声、聞こえてる?」
近くには2人、少し離れた所にも、2人。殺気は・・・駄々漏れてはいないが、奥の2人は警戒心丸出しでこちらの様子を探ろうと必死らしい。声をかけてきた近くの1人は警戒心はなさそうだ。もう1人は・・・隠すのがえらく上手いらしい。それに、この1人にだけ、余裕を感じ取れる。身体に隠し持っていた武器は全て取られているから、丸腰の俺にそう思ったのか、それとも己の強さを信じているのか。だが、その強さは過信ではないことくらい、にも伝わってきていた。・・・だから、
「・・・スーツの中に、赤い装飾が入った銃があっただろう。」
「??」
ここが、島のどこかではない事くらいは、まだ自分の置かれている状況を完璧には処理できていない頭でも、理解できた。視界に映るどうやら天井らしきそれは、がここ1週間住まいとしていた家の天井ではない。島には1件しかないはずの家以外の天井が見えるのだ。
・・・一瞬だけ、今の今まで訳の判らない島にいたという悪夢を見ていて、それがようやく醒めて今自分がいるのはボスのいるその世界なのだと、淡い期待を抱いた。・・・だが、そんな期待は即座に本能によって蹴散らされる。その証拠に、夢の中で2日前に指に負ったはずの切り傷に、別の指でそこを辿れば明らかな溝となって感じられた。
「 もし、慈悲をいただけるなら、その銃で殺してくれないだろうか。」
「その前に何をしようが、構わない。」 だが、とどめを刺すなら、せめてその銃で。・・・もし、目の前にいる人達が一般人であるなら、何故だか動かないその身体に鞭打って多少の抵抗はしたかもしれないが、生憎、この人達は相当の戦闘経験があるらしい。そうであるなら、もう無駄な抵抗は止めて、この悪夢を終わらせて欲しかった。早く、ボスの下に、俺を、
「な、何言ってんのっ!?」
「??」
「今助けたばっかりなのに、そんな事するわけないじゃんかっ!!」
「そうだよね、キャプテンっ!!」 本心からそう言っているように聞こえるその言葉を受けながら、キャプテンと呼ばれる男はゆるりとの方を見た。・・・起きしなに何を言うかと思えば。面白い拾い物をしたと思っていたのに、期待に反してひどくつまらないその言葉をは放った。・・・つまらねェ。そう感じると、この男はすぐに用無しと言わんばかりにを消そうとした、のだけれど、
「 ずいぶんと面白い目をするじゃねェか。」
「・・・??」
覗いたその目には死を望んでいるくせに、生を諦めたような色が見えなかったのだ。死を面と向かって見せつけられた時に表れる絶望も、恐怖も、死への抵抗も、安堵も、歓喜も。今まで数多く見てきたどの目にも、の目は当てはまらなかった。それはこのまますぐに消すには些か惜しいと思える程に、面白い反応だった。
「お前、この銃で何をしてきた?」
目の前に突き付けられたのは死であったとそう悟って彼らに声をかけたはずなのに、その返事は自分が思ってもいないところ飛んできたものだから、は訳が判らず声を出すことができず、彼らの声を聞くことしかできなくて。けれど、ドアにもたれ掛かっていた男が自分の銃を持ってそんな事を訊いてきたから、ようやくは自分の置かれている状況を把握し始める。
白い彼曰く、どうやら自分はこの人達に助けられたらしい。身体が怠いのは海辺で倒れていたからか。ともかく、助けられたのであれば、それが親切であるか、ないかはともかく、この人達の質問に答えなければならない。普段であれば職業上、べらべらと自分の事を他人には離さないのだけれど・・・ここで、この世界で、自分の事を明かしたところで、ボスのいるファミリーに危害は出ないのだ。
「・・・任務をしてきた。」
「・・・任務?」
人を殺してきた、という言葉が出るかと思えば、再び予想は良い意味で裏切られた。自分の快楽のためではなく、任務だからと。なるほど、ずいぶんと従順に働いてきたらしい。こいつにとっての“ボス”という存在はかなり大きなもののようだ。平坦な声で放たれたその言葉に、男はゆるりと口角を上げる。
血を吸った銃から一般人ではない事が分かる、船が島には見当たらないから海賊でもない、山賊にしちゃ皮膚がひどく白すぎる。海軍であれば俺を見ればすぐに何らかの反応をしたはずだし、もしも自分を知らないという下っ端のそれであっても、奴らは自分の死に対してこんな堂々とした態度は取らない。 さァ、お前は一体何だ?
「ああ・・・この世界で、マフィアと言って通じるのだろうか。」
「・・・、ちょっと待て、 この世界、だと?」
けれど、その後に耳を疑うものが聞こえてきたものだから、口角を上げていたはずの顔に驚愕の色が浮かんで、その男は目を見開いた。・・・何だ、その言い方は。当たり前のように放たれたその言葉が理解できなかった。この辺りで、とか、俺のいた海では、とかなら分かる。この世界、だと?この世界も何も、世界は1つだ。どういうつもりで、こいつはその言葉を自然に紡いだ?まるで自分自身が別の世界に、
「(・・・別の、世界? まさか、 あの本、)」
理解が及ばないその言葉に、ふと脳内の奥底にあった記憶が浮上してきた。とある島で読み漁っていた医学書の間に、何故か1冊だけ混じっていたその本。確かに医学書ではあった。自分の知らない治療法も書いてあったからずいぶんと読み込んだ覚えがある。しかしそれはどちらかと言えば日記に近いようなものがあった。そしてこいつと同じ言葉をその医者は使っていた。
「この世界では、私の世界とは違う医療があるのだと驚くばかりだ。」と。そしてその本の最後に、その医者自身に関する事が書いてあった。治療法は理に適っているくせに、最後に何ふざけた事を書いているんだと感じたんだったか・・・だが、
・・・もし、あの医者の書いていた事が、あの治療法と同様、真実であるならば、
「 お前、もしかして、異世界の人間か?」
「っ!!」
「 何で、 それを、」 半信半疑で問うたその言葉に、は初めて男の方を向いて、感情を顕わにしたのだった。
In the Middle of Nowhere
何もねェ島で、ずいぶんと面白い拾いモンをしたらしい、 と男は再び口角を上げた。
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title by 鴉の鉤爪 / in the middle of nowhere(何処からも遠いところに)(英語成句で50のお題[in])
title by 鴉の鉤爪 / in the middle of nowhere(何処からも遠いところに)(英語成句で50のお題[in])