「倒れたままで返事もしないんだっ!」 なんて言いながら、この島に着いた途端一目散に駆け出していったベポが戻ってきたのは、それから30分も経っていない頃だった。砂浜から続く光景はジャングルばかりという明らかに無人島であると予想されるこの島にどうやら人間がいたらしい。だが、ベポが発見した人間はこの島に住んでいるというには疑問を抱いてしまう症状で俺の元へと連れてこられた。
「キャプテン、タオルもう1回濡らす?」
「ああ、そうだな。」
連れてこられた時よりも静かな呼吸を繰り返して眠るこの島の住人へと視線を落としながらベポの声に答える。別に見ず知らずの人間に死なれても困る事は何1つないのだが、泣きそうになりながらこいつを連れてきたベポに戻してこいというのもあれで、結局海賊だというのに人助けなんて事をしちまった。砂浜で倒れてるぐれェだから一体どんな病気なんだと興味を持ったのもあるが、しかし診てみれば、何てことはない、これ程天気の良い場所であるならばよく見られる、
「・・・(熱中症、ねェ、)」
小さな疑問が大きな違和感となって俺の脳内に落ちる。このクソ暑い島の住人であるならば、罹らないよう気をつけるだろうその病気。たとえ罹ったとしても、症状が出始めた時点で気付くはずだ、倒れる状態まで気付かないなんて事は滅多にない。それに、こいつの状態から、もしこいつの他に住人がいるなら不穏に思って様子を見に来ても良い時間は経っている事が分かるが、助けに来た奴はいない。心配する奴がいない程、こいつが人と関わりを持たずに生きてきたのか、それとも元々こいつしかこの島にはいないのか。
「(・・・まァ、島の状態からして後者だろうがな。)」
港も町も海岸沿いに見当たらないこの島に多くの住人がいるとは思えねェし、数はいないが住人はいるとなると、関わりを持たずに生きていくことなんて無理だろう。倒れてそのまま時間が経っているという事は、必然的にこの島にはこいつしかいねェという事になる・・・だが、そうなると新たに疑問が出てくる。
「ペンギン、どう思う?」
「どうもこうも、この島の住人にしては高温に対する適応力がなさすぎかと。」
「それにまず、着ている服からしてこの島の者じゃないでしょう。」 返ってきたその言葉に、俺も同意するようにゆるりと頷いた。と言うことは、こいつがこの島に元から住んでいるのではなく、どこからか移ってきた事を意味する訳だが・・・いや、移ってきたというよりは、漂着したという方が正しいのだろう。わざわざこんな何もねェ島を自ら進んで選ぶなんてことはしねェはずだ。まァ、世の中には色んな奴がいるから分からねェが、こいつの服装を見る限り、自ら選んだなんて事はまず考えられない。ペンギンの視線の先にある先程こいつから脱がせたスーツへと俺もちらりと視線をやった。
「・・・だが、漂着したにしては身なりが整いすぎてると思わねェか?」
「・・・確かに。来ていたスーツは漂流したにしては妙に綺麗すぎですね。」
「皺もほとんどないし、身体も綺麗で・・・まるで普通に家で生活しているみたいに。」 漂流してきた人間が普通に家で生活・・・何とも矛盾しているその答えが、けれどこいつの状態から導き出せるものだった。どう考えても疑問が残るこの人間、だがまだ眠っているこいつが俺達の問いに答えてくれるはずもなく。本来なら、別に赤の他人の素性なんざどうでも良いと片付けるんだが、これだけ奇妙な事が揃うと俺の興味も幾分か引かれる。それに、こいつが持っていた、
「・・・スーツの中に、銃があったのも俺は驚きましたが。」
「おれも吃驚したよー。そんなもの持ってる子には見えなかったし。」
俺の手にあるそれにペンギンとベポが目をやりながらそう言った。新品ではない、ずいぶんと使い古してあるそれは結構な人間の血を吸ってきているように見えた。先程診た時に触れたその手にはこの銃を使っている証拠が分かりやすくあったが、一体今までどんな生き方をしてきたのか、
「・・・フフ、(何もねェ、つまらない島かと思ったが、)」
「・・・?船長?」
「キャプテン、なんか楽しそうだね!」 1人と1匹にそんな言葉をもらいつつ、ゆるりと俺は足を組み直した。直感的に何かがあると俺に思わせたんだ、期待を裏切らねェでくれるんだろう?
「・・・、 ボス、」
Hang in the Air