「  父さん、」


パパ!といつも父親の後ろをその小さな身体をパタパタと懸命に動かしてついてきて、少年特有の可愛らしいその高い声でそう呼んでいたはずの息子の、ずいぶんと低くなり凛と響くようになった今の声を耳にして、父親はゆるりと視線を交わす。そこにいたのは、あれから10年が経ち、体つきもその声もすっかり変わってしまったで。


「はい、紅茶です。」


以前なら誰彼構わず会う度に抱き上げられていたであったが、今ではすっかり背丈も伸び、顔立ちも可愛らしさは未だに残るものの、とても整った綺麗なそれへと変化していた。最近では抱き上げられる事もなくなり、誰かしらに会うと頭を撫でられるだけになったことは父親にとっては喜ばしい事なのだろうか、中には抱き上げるよりもタチの悪い、腕の中に閉じ込めて離そうとしない輩も出てきた事が父親であるミホークの最近の苛立ちの種であることを、当然が知るはずもない。


「美味しい、ですか?」
「ああ、相変わらず、お前の淹れたものは美味い。」
「ふふ、良かった。」


隣に腰掛けて、不安そうに味を訊ねたへと手を伸ばして頭を撫でてやれば、その顔には嬉しそうな笑みが広がった。この顔は今も昔も変わらないものの1つだ。父親に褒められる事が一番嬉しいとどこへ言ってもそう口にするの顔には今と同じような笑みが浮かべられているらしい。赤髪海賊団の船長曰く、「・・・お前の事を話してる時が一番幸せそうなんだよ、。ちくしょうっ、羨ましいっ!俺にをくれ!!」だそうだ。


「あ、あのっ、父さんっ、」
「何だ?」


日課となったの淹れたその紅茶を飲んでいれば、が何だか意を決したような声で父親を呼んで。向けていた顔をそのままに何かと問えば、紅茶を置いていたトレイをぎゅっと力を込めて握りしめていて。


「あの、ですね、ええと、俺、」


何やら言いにくそうに、顔を赤らめながら言葉を紡ごうとするにミホークは眉間に皺を寄せた。子どもに見られた辿々しさとはまた違ったその言い方。そして子ども時であれば、照れたその姿に愛おしさしか感じられなかったのに、成長した所為だろう、その姿に何やら艶めかしさの一端を感じてしまったのだ。


「何だ、俺には言いにくい事か?」
「っ、そ、そんな事ないです!父さんに隠し事なんてっ、」


口を開けてはまた閉じて、と先程の決意のこもった声とは裏腹にずいぶんと言いづらそうにしていたものだから、父親なりの手助けをと少しばかり意地の悪い訊き方をすれば、案に違わず、伏せられていた顔はこちらを向いて、返ってきたのはそんな言葉で。けれど続いたその言葉に、促さなければ、と悔やんでしまうのはもちろん後の祭りだった訳だけれど。


「あ、あの俺っ、好きな人がっ、」


「できた、かも、知れない、です。」 ピシ、とカップの持ち手と自分の中の何かに亀裂の入った音が同時に響いたのをミホークは感じ取った。が見れば悲しんでしまう事を重々承知しているから、表情こそ変える事はなかったが、見た目でこそ分かりにくいが、自分を知る者が見ればあからさまに過保護に甘やかしていると言われる程に大切にしてきたそのに、


「・・・そうか、俺の知る者か?」
「ええと、はい。」


その言葉を聞いて、ミホークは今にも割ってしまいそうだったが買ったカップをテーブルへと置いた。知らない者よりもタチが悪い。自分の知っている者という事はつまり、の親が自分である事を知っているという事だ。そして自分の知る限り、が好意を告げたとして、その好意を無下にする輩も、親である自分を理由に後込みするような輩はいない。…という事は、もしが好意を告げれば、行き着く先は自然に決まってしまう訳で。


「あの、よく分からない、んですけど、」


「その人を見ると、心臓がうるさくなって、でも会うだけで嬉しくて仕方がなくて、」 紡いでいる間、の顔は紅いもので、けれどそこには同時に幸せそうな笑みも浮かべられていて。そんな顔を見てしまえば、父親である彼はたとえ2人の終着点が分かっていて、それだけでも気持ちが穏やかとは言い難いものになってしまっているとしても、息子に何処の馬の骨だと問いただしたり、ましてや止めておけなんて言葉を放つなんて真似はもちろんできなくなってしまって、


「あっ、でもっ、その、こんな事っ、本人には言えなくてっ、」
「・・・俺は、の選んだ道に反対することはないが、」
「?? あの、父さん?」


だから、否定的な言葉を紡ぐ代わりに、ミホークはゆるりと口を開いて、が小さい頃、いつも言っていたその言葉を同じような声音で紡いだのだ。


「俺は常にお前の側にいる事を忘れるな。」


「もし、そいつがお前を傷付ける事があれば、この俺が直に斬ってやろう。」 端から聞けば物騒でしかないその言葉はけれど優しくの耳へと響いてきて。するりと父親の言葉が身体に落ちてきた瞬間、気付いた時にはは自分の顔を隣にあった彼の肩へと寄せていて、「 ふふ、」


「 大好きです、お父さん。」


なんて、幸せそうなその声を部屋の中へと響かせたのだ。

親子離れはあるものだけれど

それでも、今も昔も変わらずそこにあるものだってもちろんあるわけで。


▼ 好きな人が出てないじゃない!鰐さんとの絡みが見たいわ!ってお方はこちらから。
requested by ノア様
更新が遅くなってしまってすみませんでした!さ、さらに、リクエストに添えているのか甚だ疑問なお話になってしまってすみませんっ。 ノア様に親子祭りをリクエストしていただいちゃったよ!と、うきうきながら書いた結果がこれでございますorz クロコダイルが全く出てない、なんて・・・!ほ、ほんと申し訳ないです。 お相手キャラがミホークパパの方でしたので、そちらに力を入れようとしたらそれを意識しすぎてただのミホークパパ夢となってしまいましたっ。と、と言うわけで、慌てておまけ編も妄想した次第でございますっ。 長文で読みづらくなってしまってすみませんっ、しかし愛だけはっ(もういい)
そ、それでは、最後になりましたが、素敵なリクエストをありがとうございました!