「おい、いるんだろ。」
部屋の中にそんな声が響いた。低く、そして2人ともが聞き覚えのあるそれに、一方は思いっきり顔を顰めてしまい、一方は分かりやすく身体をビクリと震わせ、その顔を声のした扉の方へと勢いよく向けた。そして父親の反応に気付かないまま、息子はそのまま「お、俺が見てきます!」と言って扉へと向かって、
「こ、こんにちは、クロコダイルさんっ、」
「今日はどうしたんですか?」 父親は扉の方に一度も顔を向けないままにその声だけを耳にする。向いてしまえば、何をするか分からないと自覚していたからだ。そんな父親の葛藤にもちろん気付かないまま、は先程、自分が父親に語っていた人物が来るとは思っていなくて、驚きと恥ずかしさと、そして嬉しさが相俟って、顔を少しだけ上気させながらその人物へと顔を上げた。
「偶然、お前がこの前言ってた菓子を寄こした奴がいてな。」
「えっ! あ、あのチーズケーキが美味しいって有名な所の?」
「あァ、俺がそう言った類を好んで食わねェって事をそいつは馬鹿なことに知らなかったらしい。」
「俺の部屋に残ってるんだが、いるか?」 ・・・全くもって白々しい、そんな回りくどい言い方をしてまで、を連れて行きたいか。それを聞いていたミホークは出かけた言葉を再度手に取ったカップに残っていた紅茶と一緒になんとか飲み込んだ。ここで言い合いをすれば、見たくないの表情を見てしまう事になる。けれど当然、そんな思惑を持っているなんて考えつかないは、その言葉に嬉しそうに顔を緩めて頷くことしかできなくて、 「ちょっと待っててくださいっ、」
「あ、あのっ、父さんっ、」
「何だ?」
「い、今からクロコダイルさんの部屋に行ってきても、良いですか?」
「遅くならないようにするからっ、」 ぱたぱたとこちらへやってきて、ミホークへと紡がれたのはそんな言葉で。小さい頃であれば、危ないからと一言言えば止めることができた息子のその言葉に、けれど大きくなり、自分の身は自分で守るのだと教えなければならない年齢となってしまった今は、注意をする事だけしかできなくて。
「・・・気をつけろ。」
「っ、はい!ありがとうございます、父さんっ。」
「いってきます!」 そう言って、好きな人ができたと言ったあの時と同じように顔を赤らめて、そして嬉しそうな顔をしながらまた急ぎ足で、珍しく人を待つなんて行為をしているクロコダイルのいるその扉へと向かっていって。すると、急いだのが悪かったのか、その人のいる手前で、は足を躓かせてしまって、
「っわ!」
「っ!」
「、・・・ったく、どんくせェな、お前は。」
転けそうになって思わず上げてしまったの声に、つい、ミホークも反射的にそちらの方へと顔を向けてしまった。ミホークの視界に広がったのは、床に顔をぶつける事の無かったがクロコダイルの腕の中へと収まっている、そんな2人の姿で。
「っ、ご、ごめんなさいっ、!」
「何度気をつけろと言っても、それだけは直らねェな。」
「 う、・・・つ、次からは、気をつけ、ます。」
我に返った途端、顔にこれ以上ない程に熱を持たせて、咄嗟にその言葉を口に出してその腕から離れたに、クロコダイルの方はまるでそれが当たり前に行われているかのように、普通に言葉を返して。「ずいぶんと当てにならねェ言葉だが、」
「・・・まァ、精々、俺のいねェとこでは気をつけることだ。」
「 え、」
「さもねェと、床に頭ぶつける羽目になるのはてめェだからな。」
「ほら、呆けてねェでさっさといくぞ。」 がその言葉を理解する前に、そんな事を言ったものだから、は考える前に足を動かすしかなかったのだけれど、もちろん父親の彼はしっかりとその言葉を理解していて、
おまけ編。
・・・を傷付けたら、容赦なくお前を斬ってやる事を心に留めておくことだ。 クハハ、誰にそんな口を叩いてるんだ?
requested by ノア様
というわけでおまけ編でございました!パパの目の前で2人が(事故ですが)くっついてたら!という所と鰐さんの最後らへんの台詞を言わせたかっただけのおまけ編です(笑) そして最後の言い合い(?)はもちろん主人公くんの耳には届いてません(によによ)
というわけでおまけ編でございました!パパの目の前で2人が(事故ですが)くっついてたら!という所と鰐さんの最後らへんの台詞を言わせたかっただけのおまけ編です(笑) そして最後の言い合い(?)はもちろん主人公くんの耳には届いてません(によによ)