01. 始まりなんて、いつも突然 / 慧

「続くようで続きを書く気がない連載風味」をテーマにつらつらと。


クラスZの担任と妙に仲が良いその教師(いや、その担任を補助するように任されているのだから、仲が良くなるのも別におかしい訳ではないが、)は特別講師達の奴等とも仲が良くて、それの所為か何だか知らんが、少し変わっている所があると、僕は思う。


「・・・こんな所で何をしているんだ、」
「ん?ああ、方丈君。」


僕たちの教室のドアの前でまるで誰かを待っているように立っていたその人に、何故だか分からないが気付かないうちに僕は声をかけていた。けれど彼女は僕に用があったらしく、僕の顔を見て名字を口にした後、「探していたのよ、君に渡すものがあってね。」と続けざまにそう言って、ある書類のようなものを僕に渡してきた。


「陽祐君が「貴方になら任せられます」とか何とか言ってね、まったく教師を使いっ走りにさせるなんて・・・」
「吾妻がこれを僕に?(ん?今、陽祐と言わなかったか?)」
「ええ、生徒会の事じゃないかしら?読めば分かるって言っていたし。」


何か引っ掛かるものを感じたが、彼女のその手にあった書類をとりあえず受け取る事にする。ぱらぱらと中を見れば、それは彼女の言ったように生徒会関連のものだった。というか、何故彼女が吾妻からこれを?


「吾妻が、わざわざ職員室へとこれを持ってきたのか?」
「いや、ちょうど陽祐君達の授業だったから、教室から出ようと思った矢先にこれを渡されてね。」


また、何か引っ掛かるものを感じながら、彼女のその言葉を聞く。というか、何でこの人は僕の事を方丈と呼ぶのだろうか。那智もいるし、授業の時に呼びづらそうにしているというのに、


「じゃあ、頼まれた物は渡したし、私は職員室に戻るわね。」
「ああ、」
「陽祐君にもよろしく言っておいてね。教師を使いっ走りにするのも程々にって。」
「あ、ああ、分かった。言っておこう。」
「ふふ、生徒会長の方丈慧君が言ったら、効果が上がりそうね。」


「じゃあ、また授業で。」そう言って、彼女は職員室の方へと足を向けた。何故だか、最後に彼女に自分の名前を紡がれた時は、何か今まで感じていたその引っかかりが取れた気がした。(一体、僕はどうしたというんだ?)

02. 朝食当番 / 千聖

「・・・たまにはお前が作ったのも食べたい。」 なんて千聖に甘えるように言われてしまって、当番制になった私達の食事。いつもなら美味しそうな匂いにつられて起きるはずなのに、今日はそれなく起きるはめになってしまったようで。隣を見ると、依然として気持ちよさそうに眠っている千聖の姿。そして視線を移せば、既に昼になろうかというような時間を短針が指していて。


「・・・千聖、起きて。今日は貴方が朝食を作る日じゃなかった?」


久しぶりにもらえた休みだから、ゆっくりしたい気持ちは分からなくも無いけれど。なんて考えながらも、さすがに寝すぎではと思った私はゆっくりと彼の身体を揺すった。そうすれば、彼は時間をかけながらもゆるゆるとその瞼を上げてくれて、


「   おはよう、」
「ええ、おはよう。千聖、もう昼になっちゃうわよ?」
「・・・そんな、時間なのか?」
「朝は食べ損ねちゃったけど、昼食は貴方の作ったものが食べたいわ?」


「だから、ほら、起きてくれる?」 上半身を起こしていた私と同じように身体を起こした彼は、自分で時計を確認しながら私の言葉に耳を傾けて頷いてくれる。そんな彼に笑みを零しながら、手伝いでもしようとキッチンに行くためにベッドを降りようとするのだけれど、後ろから腕を掴まれてしまって。
そんな事をできるのはもちろん千聖しかいないから、その意図を訊ねるように彼の名前を呼べば、彼にそのまま後ろから抱きついてきて、肩に顔を埋められて。「昼食の前に、」


「   お前が食べたくなった。」
「・・・何言ってんのよ。ほら、さっさと起きる。」
「8割方、本気なんだが。」
「じゃあ、2割の方を頑張って引き出して。全く、起きた途端にこれなんだから。」


何かと思えば、彼から聞こえてきた言葉に、私は盛大に息を深く吐いてしまって。もちろん、起きてすぐそんな事をする気なんてさらさら無い私は、千聖のその言葉にそう言い返した。ゆるゆると少しだけ視界に入っていた彼の髪をゆるゆると撫でながら、起こすように促すのだけれど、彼はさらに回していた腕を強めるだけで。


「愛しいから、食べたくなる。なあ、」


それから私の名前を呼ぶ彼の声が耳に響いてきて。たまに分かっていてやっているんじゃないのかなんて思わせる程のそれに、また甘やかしてしまいたいような気分になってしまうのだから、(ああもう、)


「   昼食を食べた後なら、ね?」
「・・・よし、すぐに作ってやる。」


私の精一杯の妥協案に何とか納得してくれた彼は、先程までのそれとは見違えるほどに早く行動をし始めて。その現金さに思わず苦笑を漏らしてしまうのだけれど、嬉しそうに笑みを浮かべて調理をし始める彼を見て愛しいなんて感じてしまう私も、たぶん彼と同じ、



title by WILD ROAD / 朝食当番(朝の風景で5題)

03. メイプルシュガーは小瓶に詰めて / 千聖

「何をやっている?」


アホサイユのキッチンへと立っていた私の隣に、そんな言葉を紡ぎながらやってきたのは千聖で。どうやらお昼寝の時間が終わったらしい。寝起きのその目をゆるゆると擦りながら私の手の中をのぞき込んできた彼は、その甘い匂いに、見慣れているその色に、再度ゆるりと口を開いて、


「 今日はホットケーキか?」
「ふふ、ええ。たくさんもらったから、みんなにもお裾分けしようと思って。」


くるくると容器の中で人数分に見合うように入っているはずのそのシロップをかき混ぜる。そろそろみんなが起きる頃だろうと思って、シロップだけではなくて、それをかけるおやつの方もフライパンの中で焼いていたから、千聖にそっちを見てとお願いしようとすれば、そんな矢先に彼の指がその容器の中へと入れるのを私の視界が捉えた。


「もう、千聖?」
「・・・美味いな、」


味見をしたのか、それとも自分が単に舐めたかっただけなのか、どちらにしろスプーンではなくて指で味を確認した事を苦言するように彼の名前を呼んだのだけれど、彼から放たれたそんな言葉に思わず気をよくしてしまって。(乗せるのが上手いのか、ああ、それとも、私が単純なのかしら?)


「ふふ、でしょう?母さんの知り合いがくれたものでね。メープルシュガーから作ってるのよ?」


側に置いていたビンへと手を伸ばして、さらさらとそのビンの中を揺れるのを見やりながら千聖にそう説明をする。甘さの証拠である茶色付いたその色に思わず笑みを浮かべながら、フライパンを持ってきてこちらも綺麗に色づいてくれたホットケーキを皿へと取り出した。四角いバターをちょこんと乗せて、さあ甘いそのシロップをかけようか、なんて少しはりきりつつ、容器を取ろうとしたのだけれど、それよりも早く彼の腕が私の手を掴まえて、身体が、唇が、引き寄せられて、


「俺は、 こっちの甘さの方が好きだが、」



title by 回遊魚 / メイプルシュガーは小瓶に詰めて(お茶の時間に五題)

04. 花冷え / 那智

もうそろそろ桜も咲いて、ぽかぽかと温かい空気も入り込んでくる季節になるっていうのに、何故か肌に触れるのは冷たい風で。あまり寒さに強くない私は手を擦りながら、言っても仕方のない文句をひとり言のように呟いてしまう。そんな言葉を、どうやら聞きとっていた人物がいたらしい。書類を整理していた方丈君が、その仕事に飽きたのか何なのか、私の方へとそんな言葉を紡ぎながら、隣の椅子へと腰掛けてきた。


「あら、心優しい生徒さんね。でも、気持だけもらっておくわ。ありがとう方丈君?」
「・・・だから、那智で良いって言ってるだろ。せんせいもしぶといなあ。」


「せ、先生、寒いのなら、紅茶を出そうか?少しは温まると思うが、」 なんて言ってくれる方丈慧君に、お礼を言ってその紅茶をもらうことにする。どことなく嬉しそうに紅茶の準備をし始めた方丈慧君に対して、私の隣にいる方丈那智君の方はいささか機嫌が悪いようで。


「ふふ、ほらせっかくの綺麗な顔立ちが台無しになってるわよ?」
「・・・心にもないことを。」
「とんでもない。本心から言ってるわ?」


頬杖をつきながら方丈君の方を見やれば、隠す気もないのか不満そうな顔をそのままに、方丈君も私の方へと視線を向けてくる。さて、どうやって彼の機嫌を直そうか。ゆるゆるとそんな事を考えていれば、目の前にいた方丈君は自分の脳内から何か考えを弾き出したようで。彼の顔に徐々に浮かんできていた、誰かさんと似た笑みに、深い息を吐きながらも「どうしたのかしら、方丈君?」なんて言葉では出してしまっていて。


「なんかおれも寒くなってきたから、せんせいがおれを温めてくれる?」



title by プラチナ / 花冷え(5つの春のおはなし)