01. キャラメルシフォンの手ざわりで / 一
「ふふ、一?そんなに急いで食べたら喉に詰まっちゃうわよ?」
「ふおっ、はっへ、うへえんばもん!」
「・・・そう言ってもらえるのは嬉しいけど、食べてから言ってくれる?」
「たまには半次郎さんのじゃなくて、お前が作ったのが食べたいっ!」 なんて一に言われてしまって、翌日作って来たそのケーキ。一以外の彼らも食べたいと言ってくれたから、もちろん悠ちゃんの分も入れて、人数分だけ持ってきたのだけれど、美味しいと言って浮かべてくれるその笑みを見ると、自分の頬が緩んでいってしまうのが分かる。ナイフとフォークを使うのが煩わしいと隣で手づかみで食べている彼も、美味しそうに食べてくれるその姿を見ていると、そんな言葉を紡ぎながらも、顔に浮かぶのはその言葉とは裏腹で、
「そうだぞ、一。もっと綺麗に食べろ! ふむ、それにしても、これは本当にdeliciousだな。」
「ふふ、ありがとう翼。」
「わっ、キヨ!それはゴロちゃんの分だって!」
「あァ?どれでも良いダロ?」
「本当に美味しいわ、これ。私も今度教わって作ろうかしら。」
「・・・いや、先生。それは止めた方が良いと俺は思うぞ。」
「・・・くけ。」
「・・・トゲーも、瞬の意見に、賛成って言ってる。」
いつものように賑やかなバカサイユの中で、そんな会話を聞きながら自分の分のケーキを口へと運んでいれば、「んー、」 なんて声が隣から聞こえてくる。その声に思わず隣へと視線をやると、そこには先程まで大きな口を開けて食べていたはずの一が何だか悩んでいるようなそんな姿でシフォンケーキを見つめていて。
「 一?どうしたの、急に悩み始めたりなんかして。」
「これ、どっかで・・・」
「・・・一?」
一口入れては「んー?」なんて声を上げる事を繰り返して、何かを思い出すように天上へと顔を向ける。そんな彼の行動に、思わず頭に疑問符を浮かべながら、彼の名前を呼ぶと、「いやなあ、この感触どっかで・・・」 私の声に反応して視線をこちらへと向けてくれて、言葉を紡いでいた、そんな最中、
「あー!!」
「わっ、 な、なに?」
「何だ、一!いきなり大声を出すな!」 一の急なその声に、翼がそう声を出すのを聞きながらも、私の視線は一の方を向いたままで。そんな声と一緒に、途端に輝きだしたその目に、何か思い当たる答えでも見つけたのだろうかなんて考えながら彼の目を見ていれば、急に一のその両手が私の顔を包み込んで、それに驚いている間もなく、彼の顔が近づいてきて、
「あー!!ちょっと一、何してんのさ!」
「やっぱり!」
「え、一? やっぱりって、」
触れられたその唇を、今度は彼の手が滑るように触れてきて。「やっぱり!」なんて言う一のその言葉に理解が至らず、思わずオウム返しのようになりながら彼へと言葉を返せば、再度私のそれへと自分のそれを触れさせて、楽しそうな嬉しそうな笑みを浮かべながらその唇を震わせて、
「ここの感触と同じだな!」
title by 回遊魚 / キャラメルシフォンの手ざわりで(お茶の時間に五題)
02. 春のあらし / 清春
「キシシッ!!おっもしれーニュースを持って帰ってやったぜェ?」
カタカタと、パソコンの画面の見やりながら、仕事に使う資料をまとめていれば、どうやら清春が試合から帰ってきたようで。勢いよくドアを開ける事はなかったにしても、そのまま私の座っている椅子に、そして私の足の上に座るのはどうかと思うのだけれど・・・
「・・・嫌な予感しかしないけど、そのニュースは何かしら?」
まあ、そんな事を今更彼に言ったところで何がどう変わるわけでもなかったし、言えば言ったで彼は嬉しそうな顔をしながら、何か別の方法で私へと“お帰りの挨拶”(・・・らしい)を仕出かさないから、何も言わないで、彼の背中へと腕を回してバランスを取りながら、いつも以上に楽しそうな笑みを浮かべている清春へと、そう言葉を返した。
「実はァ、今日カベから連絡が来たんだけどなァ?」
「翼から?清春からかけたんじゃなくて?」
「違ェっつうの!」
翼のジェット機を借りてわざわざイギリスまで行くあなたからではなくて? そう意図を含めた事に、どうやら清春も気づいたらしい。「今回は悪戯しに行くんじゃねェっての!」 なんて返してくるから、思わず笑ってしまいながら、「あら、そうなの?」 なんて少しからかいながら返事をしてしまう。
「 というわけでェ、春から日本行き決定だからなァ?」
「・・・からかった事は謝るから、日本行きになった経緯を教えてくれないかしら?」
「トーゼン、オレ様とお前は一緒の部屋だぜェ?んでー、隣がナギとマダラだったな。ま、どうせナナも同じ階だな!キシシッ!!」 清春から出てきた突拍子のない言葉に、思わず固まりそうになりながら何とかそう言葉を紡いで。どうやら他の彼らも一緒らしいが、一体何が起こったのだろうか。その理由を彼に聞こうと、清春の視線に、自分の目を合わせれば、何やらひどく楽しそうな笑みの彼が見えて、
「じゃァ、明日はオレ様と一緒に一日中ゴーロゴロしてるんだったら、教えてやるぜェ?」
title by プラチナ / 春のあらし(5つの春のおはなし)
03. 二人だけの秘密 / 瑞希
「・・・ちょっと、瑞希?今は授業中のはずなんだけどな。」
教科書に載っている英文が真田先生の声で話されているのを聞きながらも、私の視線は自分の足へと向いたままであって。それから、私の視線をそこへと向けている原因である、人の足を枕にして今にも寝ようとしている瑞希へと、小声で話しかけた。
「・・・ぐう、」
「口でぐうとか言っても駄目よ?」
「ほら、この授業で最後なんだから。」 わざとらしくそんな声で返事をしてくる瑞希の額を小突きながら、放課後にいくらでもしてあげるなんて意図を含ませつつ、瑞希へと言葉を返すのだけれど、どうあっても今寝ることを止める事をしてくれないらしい。「・・・今が、良いの。」 なんてぽつりと呟いた瑞希の声を私は聞き逃さなかった。
「もう、これじゃ私が授業に集中できないでしょう?」
そう言いながら、くるくるとシャープペンの持っていない方で瑞希の髪へと手を滑らせてくるくると指に絡ませる。そうすれば、瑞希が心地よさそうな笑みを浮かべてくれるのを知っているから、瑞希がこうして膝の上へと頭を乗せた時には、つい、やってしまうのだけれど。
そんな事を思いながら、それでもしっかりとシャーペンは動かしていれば、ふと、瑞希が私の名前を呼んだ気がして、下へと再び視線を戻せば、横を向いていた瑞希の顔が、しっかりと私の顔を見るようにもぞもぞと顔を動くのが視界に入ってくる。それから、くいくいと、顔を寄せるように催促をしてくるから、仕方ないなあもう、なんて頬を緩めてしまいつつ、少しだけ身体を屈めれば、
「 僕にだけ、集中してくれると、僕も嬉しい。」
唇に寄せられたその口が、嬉しそうに弧を描きながら、そんな愛しい事を紡いでくれるのを耳にした、そんなある日の、授業時間。
title by capriccio / 二人だけの秘密(恋する五題)
04. あいあいがさ / 翼 / みにまむ
「あらら、結構降ってるわね。」
「わあっ!いっぱいふってる!!」
「こら、翼。濡れちゃうでしょう?」
まさかこんなに降るとは思っていなかったから、折りたたみ傘しか持ってきてなかった自分を悔やみつつ、どんよりとした雲を、そこから落ちてくる雨を見上げる。唯一幸いな事は、翼にレインコートを持たせていた事だろうか。すぐに止みそうになかったその雨に深く息を吐き出してしまいながら、翼にそのレインコートを着させる。
「うーん、それでも翼は濡れそうね・・・」
「学校から傘を借りて帰ろうかしら。」 レインコートを着せた所で、何故だか雨が降っているのを楽しそうに見つめている翼を見ると、どうにもそのレインコートすらも心許なく思えてきてしまう。やはり悠ちゃんに言って傘を借りて来ようと、翼にそう説明しようとすれば、
「翼、先生に傘を借りてこよっか。」
「??なんで?」
「今日ね、傘を1つしか持ってきてなかったの。」
「だから、翼の分を借りて来ようと思って。」 中腰になっていた身体をそのままに、翼へとそう伝えれば、けれど彼から返事がすぐに来なくて。少し考えるような様子を見せていたから、どうしたのだろうと彼の名前を紡ぐと、「あ!」 なんて急に声を発した翼が、嬉しそうに笑みを浮かべながら、私の方を見てきたものだから、
「あのねっ、かさは1つでいいの!」
「うん? いや、だからね、それだと翼が・・・」
「だっこ!」
「・・・はい?」
「だっこして!」
子ども特有というか、何というか、脈絡のないような、続けざまに紡がれたそんな言葉。それでも懸命に私の方へと伸ばしてくるその腕を反射的にとってしまいながら翼をそのまま抱き上げれば、その笑みが、ますます嬉しそうに、楽しそうに深められて、
「こうすれば、かさ1つでだいじょうぶ!!」
「それでね、ぼくがかさをもってあげる!」 彼の口から放たれたそれが、愛らしい、愛しいそれだったから、彼を思いきり抱きしめてしまったのは仕方のない事だと思った、そんなある雨の日。
title by Seventh Heaven / あいあいがさ(天気を感じる3のお題)