茹だる夏への対処法をテーマに。
「・・・翼、また貴方は、」
「どうだ、凄いだろう!!」
「いや、うん、凄いのは凄いんだけれど。」
ぎらぎらと輝く太陽の日差しにわざわざ辺りに行く元気もなく、ベッドに転がりながらだらだらと過ごしていたそんな夏休みのある日。「今から迎えに行く。準備をしておけ!」なんて自分の用件だけ言って電話を切ってくれた翼が私の家へと押しかけてきたのはつい先程の話である。そして現在、目の前に広がるのは、とてつもなく大きい海・・・のようなプールであって。
「・・・悠ちゃん、また翼に何か言ったの?」
「え、えーと・・・あはは?」
悠ちゃんが翼に吹き込んでしまった事が無理矢理笑みを作っている時点でもう明白になったのだけれど、「だ、だって本当に作っちゃうなんてっ!!」と慌ててそんな事を言う悠ちゃん。まあ、作ってしまったものは仕方がないし、このプールでなら日差しを気にせずに涼む事が出来る。「ふふ、悠ちゃん、一緒に遊ぼうか。」 なんて笑みを浮かべて悠ちゃんに言葉をかければ、返ってきたのは可愛らしい笑顔であって。
「あ、でも、その前に翼君の補習をしなくちゃ!」
「ああ、そうね。じゃあ、その後に遊んでね?」
「ええ、もちろん!!」
「教科書持ってくるわね!」 なんて元気に駆けていった悠ちゃん。ここまで来て補習をするなんて、さすが悠ちゃんだなあなんて妙な所に感心しながら、ふと後ろを振り返れば、そこにいたのは不満そうにイスへと腰を下ろしていた翼の姿が目に入った。
「 翼?」
「・・・」
目を合わせようと彼の方へと歩を進めるのだけれど、彼は一向に視線を合わせようとしてくれない。何か不機嫌にさせることをしてしまっただろうか、なんて思いながら、彼の頭に手を置いて「言ってくれないと、分からないわ?」 とゆっくりとその独特な髪に指を絡ませながらそう言えば、ようやく返ってきたそれは、なんとも
「 お前が、担任ばかりと話をするからだ。」
「嬉しそうに、担任とばかり、」 なんて小さな声で呟くそれを聞き漏らすなんてもったいないこと、できるわけがない訳で。その白い頬に紅いそれをほんのりと浮かべながら、返事をしてくれた彼に笑みを浮かべながら彼の名前を呼べば、ようやくその紅い瞳に私の姿を映してくれて。
「ふふ、じゃあ、悠ちゃんと遊んだ後に一緒に遊んでくれる?」
「・・・担任の後、なのか?」
「悠ちゃんとの約束が先だったからね。それに、その後だったら2人で遊べるわ。」
「ここは翼のプールなんだから、閉館時間なんてないでしょう?」 なんてまた不満そうに言葉を呟いた彼にそう返事をすれば、そんな不満そうな顔も「2人・・きり、」なんて言葉と共に徐々に機嫌が上へと向かっているのが目に見えて分かって。そんな彼に悠ちゃんの時とはまた違った可愛らしさ、というよりも愛おしさを感じていれば、彼は自分の頭を撫でていた私の腕をとってきて、
「 約束だぞ?」
なんて囁きながら、それからそっと私の小指に自分の唇を落としてきたのである。
01. 気軽に行けるプールはどうか / 翼
02. 音を立てて / 清春
夏休み最後の1週間、どうやら清春は家族と仲良く海外へと遊びに行っていたようで。悠ちゃんのおかげか、そんな楽しい家族旅行の後で疲れているはずだというのに律儀にも始業式にはちゃんと出て、さらに今、つまり、バカサイユで補習の為に悠ちゃんを待っていたのだけれど、
「清春・・・」
「あァ?何だよ、」
「・・・それは私の台詞だと思うのだけれど、」
一日中、疲労の色を浮かべながら今日を過ごしていた清春はそれでもいつもなら逃げ出す所をこうして残って補習を受けるなんて、とか何とか感心しながら再度彼から本へと視線を移して続きを読もうと焦点を合わせていれば、その視線は清春が思いきり私を押し倒した事で、再び視線が彼の瞳へと移ってしまって。「何しているの、」 そう清春に聞こうとして開いたその口は清春のそれによって綺麗に塞がれてしまった。
「 清春、」
「ンだよ、1週間も触れてねェんだゼェ?」
「・・・1週間前まで私の部屋に入り浸っていたのはどこの誰よ、まったく。」
私の腰に自分の腕を回して逃れないようにしてくれた清春はどうやらここへと足を運んだのは補習のためではなくて、自分の欲求を満たしに来ただけのようで。喜ぶべきなのか、はたまた呆れるべきなのか、そんな事を思いながらも出てくる深い息を止められずそのまま吐き出していれば、「ヒャハハっ!!そんな事できる奴なんてオレ様しかいねェダロ?」 なんて言いながら、再度私の唇に自分のそれを重ねてくるあたり、私の意志はどうやら関係がないようで、(・・・まあ、大概そうなのだけれど)(いや、許す私も私なのだけれど)
「オレ様の、ヨッキューってヤツを満たしてくれンだろ?」
「まァ、断るなんてさせねェけどなァ?」 私がそれに弱いのを知ってか知らずかなんて分からないけれど、低くて心地よい、愛しいその声を耳元で言われてしまえば、私の意志はいとも簡単に折れてしまう訳で。(ああもう)(何だかんだ言って、結局彼には、)
「清春・・・」
「あァ?何だよ、」
「・・・それは私の台詞だと思うのだけれど、」
一日中、疲労の色を浮かべながら今日を過ごしていた清春はそれでもいつもなら逃げ出す所をこうして残って補習を受けるなんて、とか何とか感心しながら再度彼から本へと視線を移して続きを読もうと焦点を合わせていれば、その視線は清春が思いきり私を押し倒した事で、再び視線が彼の瞳へと移ってしまって。「何しているの、」 そう清春に聞こうとして開いたその口は清春のそれによって綺麗に塞がれてしまった。
「 清春、」
「ンだよ、1週間も触れてねェんだゼェ?」
「・・・1週間前まで私の部屋に入り浸っていたのはどこの誰よ、まったく。」
私の腰に自分の腕を回して逃れないようにしてくれた清春はどうやらここへと足を運んだのは補習のためではなくて、自分の欲求を満たしに来ただけのようで。喜ぶべきなのか、はたまた呆れるべきなのか、そんな事を思いながらも出てくる深い息を止められずそのまま吐き出していれば、「ヒャハハっ!!そんな事できる奴なんてオレ様しかいねェダロ?」 なんて言いながら、再度私の唇に自分のそれを重ねてくるあたり、私の意志はどうやら関係がないようで、(・・・まあ、大概そうなのだけれど)(いや、許す私も私なのだけれど)
「オレ様の、ヨッキューってヤツを満たしてくれンだろ?」
「まァ、断るなんてさせねェけどなァ?」 私がそれに弱いのを知ってか知らずかなんて分からないけれど、低くて心地よい、愛しいその声を耳元で言われてしまえば、私の意志はいとも簡単に折れてしまう訳で。(ああもう)(何だかんだ言って、結局彼には、)
title by WILD ROAD / 音を立てて(唇で5題)
03. いつもの日常からの脱却 / 瑞希 / 小説家と担当者
「続くようで続きを書く気がない連載風味」をテーマにつらつらと。
もうこの人の担当になって、どれくらい経つだろうか。少し、偏屈な小説家を担当させられる事が多かった私は(しかも何故かそれの方が私も接しやすかった)(・・・私も偏屈なのだろうか)編集長に「最終兵器を出すぞ!行け、お前が頼みの綱だ!!」だとか何とか泣きつかれるように言われて、その小説家の家に行ったあの日がひどく懐かしく思える。
「斑目先生、起きてください。」
「う、ん、もう、ちょっと、」
今日も今日とて、斑目先生のお宅へと訪問した私。編集長が泣きついて来ただけの事はある、少し、というかかなり変わった所のある斑目先生は、理由は分からないが、私の足を枕にして寝るのを日常の一部へとしてしまっていた。
「もう何度もその言葉を聞きましたよ。ほら先生、締め切りまで日にちがあるとはいえ、先にやってしまった方が楽なのでは?」
締め切りギリギリからやって良い物が書ける作家もいれば、締め切りまでじっくりと考えて良い物を書く作家もいるから、いつ書くかなんてその作家次第だとは思う。要は締め切りに間に合えばいい話なのだけれど、斑目先生は何時書いても、という言い方は大げさかもしれないけれど、それくらい、凄く惹かれる原稿をすぐに書いてくれる。
それが締め切りギリギリに発揮される火事場の馬鹿力のようなそれではない事くらい、私のも分かるのだけれど、それでも先生は締め切りギリギリになって、私がこの部屋へとやって来るまでその素敵な原稿を書き上げてくれないのだ。だから私は目下にいる先生へと、思わずそんな言葉を出してしまう。けれど、先生から帰ってくるのは、
「 大丈夫、ちゃんと、締め切りには、間に合うように書くから。」
「・・・いや、それは有り難い事なんですけれどね?」
私はそれをギリギリにやるよりは今やった方が、後が楽になるのでは。という話をしているのですが、そんな言葉を続けて言いそうになったけれど、斑目先生にそんな事を言ったってきっと効果はないのだろうと思い、その言葉を出された紅茶(といっても、私が入れた紅茶なんだけれど、)と一緒に飲み込んだ。まあ、うん、私が締め切り2,3日前にここへと来て、原稿をもらいに来れば良いだけの話だし。何だかんだ言って、先生も締め切りに遅れるなんて事、一度もなかったし。そんな事を考えていれば、私の脚を枕にしていた斑目先生がふと私の名前を呼んだから、先生の方を見れば、
「また、締め切り前になったら、ここに、来てね?」
「そうしたら、僕、頑張る。」 なんて、妙に楽しそうな、嬉しそうなその笑みを浮かべてそんな言葉を紡ぎ出した先生は、自分の言いたい事を言い終えた途端、また眠りだしてしまったのである。(・・・何だったんだ、)
もうこの人の担当になって、どれくらい経つだろうか。少し、偏屈な小説家を担当させられる事が多かった私は(しかも何故かそれの方が私も接しやすかった)(・・・私も偏屈なのだろうか)編集長に「最終兵器を出すぞ!行け、お前が頼みの綱だ!!」だとか何とか泣きつかれるように言われて、その小説家の家に行ったあの日がひどく懐かしく思える。
「斑目先生、起きてください。」
「う、ん、もう、ちょっと、」
今日も今日とて、斑目先生のお宅へと訪問した私。編集長が泣きついて来ただけの事はある、少し、というかかなり変わった所のある斑目先生は、理由は分からないが、私の足を枕にして寝るのを日常の一部へとしてしまっていた。
「もう何度もその言葉を聞きましたよ。ほら先生、締め切りまで日にちがあるとはいえ、先にやってしまった方が楽なのでは?」
締め切りギリギリからやって良い物が書ける作家もいれば、締め切りまでじっくりと考えて良い物を書く作家もいるから、いつ書くかなんてその作家次第だとは思う。要は締め切りに間に合えばいい話なのだけれど、斑目先生は何時書いても、という言い方は大げさかもしれないけれど、それくらい、凄く惹かれる原稿をすぐに書いてくれる。
それが締め切りギリギリに発揮される火事場の馬鹿力のようなそれではない事くらい、私のも分かるのだけれど、それでも先生は締め切りギリギリになって、私がこの部屋へとやって来るまでその素敵な原稿を書き上げてくれないのだ。だから私は目下にいる先生へと、思わずそんな言葉を出してしまう。けれど、先生から帰ってくるのは、
「 大丈夫、ちゃんと、締め切りには、間に合うように書くから。」
「・・・いや、それは有り難い事なんですけれどね?」
私はそれをギリギリにやるよりは今やった方が、後が楽になるのでは。という話をしているのですが、そんな言葉を続けて言いそうになったけれど、斑目先生にそんな事を言ったってきっと効果はないのだろうと思い、その言葉を出された紅茶(といっても、私が入れた紅茶なんだけれど、)と一緒に飲み込んだ。まあ、うん、私が締め切り2,3日前にここへと来て、原稿をもらいに来れば良いだけの話だし。何だかんだ言って、先生も締め切りに遅れるなんて事、一度もなかったし。そんな事を考えていれば、私の脚を枕にしていた斑目先生がふと私の名前を呼んだから、先生の方を見れば、
「また、締め切り前になったら、ここに、来てね?」
「そうしたら、僕、頑張る。」 なんて、妙に楽しそうな、嬉しそうなその笑みを浮かべてそんな言葉を紡ぎ出した先生は、自分の言いたい事を言い終えた途端、また眠りだしてしまったのである。(・・・何だったんだ、)
リライト様 / 選択課題・カップリングパロディー 「小説家と担当者」より
04. いってらっしゃい or いってきます / 翼
翼と仕事時間は不規則に動くから、私の方が早く出たり、翼の方が早く出たりとまちまちな事が多い。そんな今日は彼の方が早く仕事へと出る日なのだけれど、
「ほら、翼。」
「ん?何だ?」
「ネクタイ、曲がってるわよ?」
「ああ、 Thanks.」
「ふふ、どういたしまして。」
少しだけ、曲がっていたネクタイを直せば、お礼の言葉と共に頬へと唇が降ってきて。玄関先には永田さんが既に待機しているのだろうから急がせないと、と思い、玄関へと急いで彼を行かせて送り出そうとしたのだけれど、そういえば、今日は私の仕事の方が遅くなるという事を伝えていなかったと思い、その事を切り出す。(忘れていた、なんて事があれば、確実に彼は拗ねてしまう)(いや、それはそれで、愛らしいものがあるのだけれど、)
「翼、今日ね、少し返るのが遅くなると思うから、夕食は済ませておいてくれる?」
「そんなに遅いのか?」
「うーん、書類整理とかだから、1,2時間くらいってとこかしら。」
「だから、夕食は取っておいてくれて構わないわ。私もどこかで済ませるし。」 用件だけは伝えたから、後はメールを入れておけば永田さんが何とかしてくれるだろう、と思いながら彼に「行ってらっしゃい、」といつものように送り出そうとしたのだけれど、目の前にいる彼の表情が、何だか浮かない顔だったから、つい、気になってしまって。
「どうしたの、翼?具合でも悪い?」
「・・・1,2時間で終わるんだな?」
「え? あ、ああ、仕事の事ね。ええ、たぶんそのくらい。」
「・・・なら、終わったら連絡しろ。バイクで迎えに行く。」
「うーん、それは嬉しいけど・・・翼も疲れているでしょうし、無理は駄目・・・って、わっ、」
翼の申し出に嬉しさが無かった訳ではもちろんなかったのだけれど、疲れているであろう彼にそんな無理はさせたくないっていうのがあったから、何とか説得しようと言葉を紡ごうとしていたのだけれど、途中で彼に背中へと腕を伸ばされて、抱き寄せられてしまって、
「 翼?」
「・・・迎えに行く。」
「・・・夜に1人で出歩くな。」 私の肩に顔を埋めながら、回してきた腕を強くしながら、ひどく不安そうなその声でそんな言葉を呟く翼。不謹慎ながらも、そんな彼に愛おしさが溢れ出してきて、そして当然の事ながら、そんな彼を見てしまったら、 それを拒む事なんてできるはずもなくて。
「ふふ、じゃあ、お願いしようかしら。」
「っ、 ああ、この俺に任せろ。すぐに迎えにいってやる。」
「ええ、待ってるわ。ほら、仕事に遅れるわよ。」
「ああ、そうだったな。」
「終わったら、連絡を入れるんだぞ?」 念を押してそう言う彼に、苦笑しながらも「ええ、分かってる。」 なんて言葉を返す。それから私の返事に満足げに笑みを浮かべた彼は、いつものように唇を寄せてきたのだけれど、何だかいつもよりも長くされているような、
「ん、 もう、翼?」
「・・・今日はいつもより1,2時間も長く、お前と離れなければならんのだ。」
「その分長くしたって、 構わんだろう?」 なんて言いながら、再度啄むように唇を降らせて来て、不敵でいて、どちらかというと朝よりも夜の方が似合うんじゃないかというような少し色の深い笑みを浮かべてくる彼。に、私はまた、(ああもう、朝からこの人は・・・)
「全く、朝からそんな事を言わないの。離れがたくなるでしょう?」
「 俺は別にそれでも構わんが?一緒に居られるんだろう?」
「だーめ、仕事はちゃんとしなきゃ。それに、私は仕事をしている翼も好きなの。」
「だから、ね?」 顔を近づけてきて翼の唇へと今度は自分からそれに寄せながら、彼にそう言えば、「し、仕方ないな!俺のperfectな姿を見せてやろうじゃないか!」なんて少し頬を赤らめて、嬉しそうな笑みを浮かべながら、そんな言葉を口から出して(ああ、可愛いなあもう。)
「ふふ、行ってらっしゃい、翼。」
「 ああ、 行ってくる。」
その、送り出す時のお決まりな言葉を漸く紡ぎ出した私達は、互いにひどく顔を緩ませながら、最後にまた軽く唇を寄せて、翼はドアを開けて、私はそれを送り出して、今日の1日を開始させるのだった。
「ほら、翼。」
「ん?何だ?」
「ネクタイ、曲がってるわよ?」
「ああ、 Thanks.」
「ふふ、どういたしまして。」
少しだけ、曲がっていたネクタイを直せば、お礼の言葉と共に頬へと唇が降ってきて。玄関先には永田さんが既に待機しているのだろうから急がせないと、と思い、玄関へと急いで彼を行かせて送り出そうとしたのだけれど、そういえば、今日は私の仕事の方が遅くなるという事を伝えていなかったと思い、その事を切り出す。(忘れていた、なんて事があれば、確実に彼は拗ねてしまう)(いや、それはそれで、愛らしいものがあるのだけれど、)
「翼、今日ね、少し返るのが遅くなると思うから、夕食は済ませておいてくれる?」
「そんなに遅いのか?」
「うーん、書類整理とかだから、1,2時間くらいってとこかしら。」
「だから、夕食は取っておいてくれて構わないわ。私もどこかで済ませるし。」 用件だけは伝えたから、後はメールを入れておけば永田さんが何とかしてくれるだろう、と思いながら彼に「行ってらっしゃい、」といつものように送り出そうとしたのだけれど、目の前にいる彼の表情が、何だか浮かない顔だったから、つい、気になってしまって。
「どうしたの、翼?具合でも悪い?」
「・・・1,2時間で終わるんだな?」
「え? あ、ああ、仕事の事ね。ええ、たぶんそのくらい。」
「・・・なら、終わったら連絡しろ。バイクで迎えに行く。」
「うーん、それは嬉しいけど・・・翼も疲れているでしょうし、無理は駄目・・・って、わっ、」
翼の申し出に嬉しさが無かった訳ではもちろんなかったのだけれど、疲れているであろう彼にそんな無理はさせたくないっていうのがあったから、何とか説得しようと言葉を紡ごうとしていたのだけれど、途中で彼に背中へと腕を伸ばされて、抱き寄せられてしまって、
「 翼?」
「・・・迎えに行く。」
「・・・夜に1人で出歩くな。」 私の肩に顔を埋めながら、回してきた腕を強くしながら、ひどく不安そうなその声でそんな言葉を呟く翼。不謹慎ながらも、そんな彼に愛おしさが溢れ出してきて、そして当然の事ながら、そんな彼を見てしまったら、 それを拒む事なんてできるはずもなくて。
「ふふ、じゃあ、お願いしようかしら。」
「っ、 ああ、この俺に任せろ。すぐに迎えにいってやる。」
「ええ、待ってるわ。ほら、仕事に遅れるわよ。」
「ああ、そうだったな。」
「終わったら、連絡を入れるんだぞ?」 念を押してそう言う彼に、苦笑しながらも「ええ、分かってる。」 なんて言葉を返す。それから私の返事に満足げに笑みを浮かべた彼は、いつものように唇を寄せてきたのだけれど、何だかいつもよりも長くされているような、
「ん、 もう、翼?」
「・・・今日はいつもより1,2時間も長く、お前と離れなければならんのだ。」
「その分長くしたって、 構わんだろう?」 なんて言いながら、再度啄むように唇を降らせて来て、不敵でいて、どちらかというと朝よりも夜の方が似合うんじゃないかというような少し色の深い笑みを浮かべてくる彼。に、私はまた、(ああもう、朝からこの人は・・・)
「全く、朝からそんな事を言わないの。離れがたくなるでしょう?」
「 俺は別にそれでも構わんが?一緒に居られるんだろう?」
「だーめ、仕事はちゃんとしなきゃ。それに、私は仕事をしている翼も好きなの。」
「だから、ね?」 顔を近づけてきて翼の唇へと今度は自分からそれに寄せながら、彼にそう言えば、「し、仕方ないな!俺のperfectな姿を見せてやろうじゃないか!」なんて少し頬を赤らめて、嬉しそうな笑みを浮かべながら、そんな言葉を口から出して(ああ、可愛いなあもう。)
「ふふ、行ってらっしゃい、翼。」
「 ああ、 行ってくる。」
その、送り出す時のお決まりな言葉を漸く紡ぎ出した私達は、互いにひどく顔を緩ませながら、最後にまた軽く唇を寄せて、翼はドアを開けて、私はそれを送り出して、今日の1日を開始させるのだった。
title by WILD ROAD / いってらっしゃい or いってきます(朝の風景で5題)