01. 唇に指を這わせ / ロー
乾燥した気候に入ったからだろうか、唇が乾くのが早く先程からそこにクリームを塗る回数が頻繁になってきている。そしてまたその動作を繰り返してやっていると、俺の横に影が落ちた。
「そういえば、お前は乾燥肌だったな。」
他人事のように言ってくるのは実際そうだから別に良いにしても、明らかにそれを面白がって口の端を上げながら言ってくるのはこの人の性格である。相変わらず良い趣味をしている、なんて皮肉めいた事を思いながら我らが船長の言葉に返事をせずに塗ろうとすると、クリームが無くなっている事に気付く。
「船長、クリーム持ってないですか?」
「無くなったのか?」
「はい。さっきの島で買い込んでおけば良かったな・・・」
もちろん次の島の情報はある程度聞いていたけど、それにしたってこんなに乾燥した気候だとは思っていなかったから予備の物さえも買うのを止めてしまった。次の島には街があると聞いたからそれまでのクリームがあれば良いと思って俺は船長に訊ねたのだけれど、そもそも聞く相手を間違えてしまった事に俺は後になって気付くのである。
「乾燥を防ぐモンならあるぜ?」
「え、本当ですか?それ、貰えます?」
「あァ、いくらでも、な?」
「・・・はい?」
俺は船長の言葉に些かの疑問を感じ始めたのだけれど、時はすでに遅かったらしく、船長はさらに笑みを深めていて。本能的に逃げようとする俺の腰に素早く腕を回してもう片方の手は俺の顎に添えて来てそのまま船縁へと押さえつけられる。つまり、もう逃げ場がない訳なのだけれど(・・・俺の阿呆)
「船長、もう一度あえて聞きますが、」
「フフ、何だ?」
「船長の言う、乾燥を防ぐ物は何の事を言っているんですか?」
俺の質問に至極楽しそうな笑みを浮かべて、さも当たり前のように「そんなの、俺の唇以外に何がある?」なんて質問を質問で返してくるロー船長。そんなクリームよりも一時的なもので、なんて言葉にしようとしたけれど、それを言ってしまえば次の島までその行為をやりかねないと頭の中でそれが過ぎって何とか喉に出かかるところで抑えた。
「なンなら、次の島までずっとしてやっても良いが?」
「・・・全力で遠慮します。」
俺の苦労を水の泡にするように、船長からそんな言葉が降ってくる。けれど、それを拒否したところで俺の意見が通る事はまずなくて、結局は船長のペースに巻き込まれてしまうのである。そうなってしまうのは船長の巧みなる技なのか、それとも俺が
唇に指を這わせ
それから船長に、俺以外の薬なんて効かなくしてやるぜ?なんて言われて唇を塞がれた
title by 確かに恋だった / 唇に指を這わせ(指に触れる愛が5題 )
02. 目覚めのコーヒー / マルコ
「ほら、これでも飲んで目ェ覚ませ。」
「 ありがとう、ござい、ま、す。」
「(・・・今にも寝そうじゃねェかよい。)」
マルコさんに起こされて漸く目を覚ました俺はそのまま腕を引っ張られるままに食堂へと連れて行かれ、その場で彼にコーヒーを渡された。目を覚ましたものの、意識はまだまだ覚めていなかったらしく舌足らずな言葉で彼にお礼を言えば、ため息が1つ返ってきた気がした。
「昨日どれだけ読書に没頭してたんだよい。」
「・・・覚えている限りでは、日の出が、」
「・・・いくら何でも起き過ぎだい。(もうそれ夜更かしじゃねェだろい。)」
マルコさんが持ってきてくれたコーヒーをゆっくりと口へと含ませて喉の渇きを潤していれば、今度は先程よりも深いため息が返ってくる。そんな何度もため息吐かなくても、なんて思ったりしたのだけれど吐かせているのは自分だという事に言葉に出す一歩手前で気付いて、それをコーヒーと一緒に飲み込んだ。
「・・・まだ眠たそうだない、お前ェは。」
「ちゃんと、起きていますって。」
「そう言いながら俺の肩にもたれ掛かってンのはどこのどいつだよい。」
コーヒーの入っているカップを両手で包み込みながらマルコさんに返事をすると返ってきたのはそんな言葉で。けれどそんなことを良いながらも俺をその肩から引き剥がすことなく、甘やかせてくれるマルコさんもマルコさんじゃないかなんて変なところで嬉しさを感じてしまう。
「(ふふ、幸せだな。)」
その温かさに思わず笑みを零している自分がカップに映っているのが見えて、それを隠そうとするのだけれど無理だと気付いた俺は早々にそれを諦めてしまった。心地よい温度に揺られながら、1人でそんなことをしているとマルコさんが俺の名前を呼んだ。それに反応してゆっくりと振り返ってみれば、
「マルコさん?どうしたんで、っ!」
そのまま後頭部を手で押さえられて、それに驚いているのも束の間、俺の唇に降ってきた彼のそれ。駄目押しといわんばかりに2度目のそれを降らしてくるマルコさんは1度目の触れるだけのものよりも、深く俺の唇を奪ってきた。漸くそれが離れて「いきなり、何するんですか。」なんてしかめっ面で訊ねると、彼は至極楽しそうに口を開いた。
「コーヒーで目覚めなかったら、これしか方法はねェだろい。」
「俺は何度でもしてやるが・・・どうするよい?」 なんてずるい聞き方をしてくるマルコさん。けれど答えなんて俺の中では1つしか導き出せないわけで。それが何だか悔しかったから、カップを机に置いて仕返しといわんばかりに思いきりマルコさんに抱きついたのはまた別の話ということにする。(けれど、いつだって俺は彼に・・・)
目覚めのコーヒー
コーヒーよりも甘い、効力のあるその方法を彼は至極楽しそうな笑みを浮かべてしてくるのだ
title by WILD ROAD / 目覚めのコーヒー(ティータイムで5題 )
03. ケンカの後のカプチーノ / レイリー
「・・・また君は、そんな所に傷を作って。」
賞金稼ぎにまた襲われてしまったそんな夜、タイミングが良いのか悪いのか、レイリーさんが気まぐれに俺を訪ねてきたのも同じ夜だった。眠る前に甘いものをとミルクを少し多く入れたカプチーノを手に取りながら、血が出ているところを拭き取っている所に丁度部屋へと入ってきた彼に言い逃れなど出来るはずもなくこうして消毒をされているわけなのだけれど、
「君くらいの強さがあれば、怪我なんてしなくて済むだろうに。」
「相手が銃を持っていたので。」
「まったく、君という子は・・・」
ため息を吐きながらそう言葉を紡ぐレイリーさんに何だかバツ悪く感じてしまって小さな声で謝れば、「謝って欲しいわけではない。もっと自分の体を大事にしなさいと思っているんだよ。」 なんて頭を撫でられながらそう言われる。しかしこんな怪我くらいでそんな大げさな事を、そう思いながら腕を見ていると彼は俺の考えていた事などお見通しだったらしく不満そうな顔をした。
「君を心配する、私の身にもなって欲しいものだな。」
「・・・レイリーさん?」
先程まで俺が飲んでいたカプチーノを手にとって普通に口へと運ぶレイリーさんに突っ込む事も忘れて、その言葉の意味を理解しようと懸命に噛み砕いていると、何を思ったのか、あろう事に彼は急に俺を肩に担いで寝室へと歩き出した。
「ちょっと、レイリーさん。」
「ん?ああ、心配するな。あれは全部飲んだよ、美味しかった。」
「美味しかったと言ってくれるのには礼を言いますけど、今はそれを聞いているんじゃないです。」
「では、何だね?」
「俺は何でこんな格好で運ばれているんですか。」
寝室に歩を進めているのは何とか分かったから「ベッドは貸しますから早く下ろしてください。」 と揺られている中、そう言葉を口に出せば、「怪我人をソファで寝かせる程、私も非情な人間ではないよ。」 なんて笑い声とともにそんな言葉が返ってきた。
「・・・じゃあ、レイリーさんがソファで寝るんですか?」
「とんでもない、老いぼれの私がそんな所で寝ては身体のあちこちにガタが来てしまう。」
「・・・じゃあ、どうするつもりですか。」
答えなんて分かっているし、それを答えられては心配しているのだと言われた手前いつものように断る事が出来ないということも分かっているのにもかかわらず、俺は彼に訊ねてしまう。どこかでその答えを期待していたなんて、そんなこと
「 2人で一緒にベッドに寝れば良いじゃないのかね?」
けれどその言葉を聞いた瞬間、嬉しさを感じてしまった俺はきっと怪我の所為で何処かやられてしまったのだろうと決めつけることにして、彼の言葉にゆっくりと頷くのだった。
ケンカの後のカプチーノ
彼に飲み干されてしまったけれど、その甘さだけはまだ口に残っていた。
title by WILD ROAD / ケンカの後のカプチーノ(ティータイムで5題 )
04. 冷水でも浴びてみる。 / キッド
茹だる夏への対処法 をテーマに。
じりじりと、太陽に焼かれているのが感覚として把握できるあたり相当の気温であることが分かるのだけれど、もちろんそんな太陽に抗う術なんて人間である俺は持っていないからただただその太陽へと視線を向けることしかできなかった。しかしながら太陽に視線を向けるにしたってそれで何が起こるわけでもない、身体に妙にまとわりつく服が煩わしくなった俺は気休めにでもシャワーを浴びる事にした。
「(やっぱり、浴びると少しは違うものだな。)」
冷水を浴びてきた俺は髪をタオルで拭きながら甲板へと歩を進めた。やはり冷水を浴びると表面温度も少しは下がったようで、潮風がいつもよりも涼しく感じられた。その心地よさに思わず笑みを浮かべながら風に身体を当てていれば、後ろから聞こえてきたその声。
「 ・・・なんて格好してンだ。」
「あ、船長。」
耳に入ってきたその声に振り返ってみればそこにいたのは眉間に皺を寄せながら俺を見ている船長で。船長も暑さで機嫌が降下中なのかと思ったのだけれど、今の原因はどうやらそれではないらしかった。
「何で上を着てねェんだ、お前は。」
「シャワー浴びてきて、それで暑かったのでそのまま、」
「・・・馬鹿か。」
俺の言葉を最後まで聞かないままそう言葉を放った船長。失礼な、なんて思いながら彼に視線を合わせたままにしていれば、何を思ったのか、船長は俺の方へと近づいてきて俺の頭の上に乗っていたタオルを掴んでがしがしと拭き始めた。そうなると、俺の視線は自然と下の方を向いて船長の顔が見えなくなってしまうわけで。
「わ、 船長?」
「 いくら夏の気候っつったって、ンな格好するな。」
「さっさと着ろ。」 なんて言って俺の頭からかぶせられたのは、俺よりも一回り大きい船長がいつも羽織っているそれであって。かぶったまま船長の方に急いで顔を上げるのだけれど、そこに見えるのは既にその大きな背中で。そして俺の背中にあるのはその大きな背中に乗っかっていたその服で。
「ふふ、もう。」
抑えられない頬の緩みをその服を握りしめて胸へと寄せる事でどうにか隠しながら、自分の背中に船長の服をしっかりとかぶって、前方を行くその大きな背中を追いかけたのだ。
冷水でも浴びてみる。
・・・って、俺がこれを着たら船長が、