そんな今日もまた、元気いっぱいな成宮君達の補習をすることになった、のは良いのだけれど、
「 天十郎って呼べって言ってんだろっ!!」
「・・・不破と呼ばれると他人行儀に聞こえる。」
「僕も僕もー!!多智花君よりも八雲って呼ばれたいナリー!!」
「ンフっ、だったらオレもその麗しい唇でア・ラ・タって呼んで欲しいな?」
どうやら彼らは勉強に入る前に自分たちの名前の呼び方が気に入らないらしくて、勉強をしようといくら声を掛けても一向にし始める気配がなかった。まあ別に名字で呼ぶというこだわりなんて持っていなかったから、別に私は呼んでも構わなかったのだけれど、隣にいる英語が得意な国語教師が何故か彼らの言葉に返事をしていて。
「ダメだと言っているだろう!!そんな事を言ってないでさっさと補習を受けろ!!」
「何で真壁が答えてんでぇ!俺様たちはに聞いてんだよ!」
「“先生”をつけろ!そしてと呼ぶな、先生と呼べっ!!」
「だから、何でおめーに言われなくちゃなんねえんでぃ!!」
成宮君たちが珍しく補習に遅れずに来てくれたというのに、補習開始時間からもう既に結構な時間が経っていた。目の前で繰り広げられている喧嘩はまだまだ収束する事を知らないようで。翼も翼で成宮君たちと一緒になって言い争っているものだから全く終わる気配がない。このまま見ていても埒があかないし、補習ができなかった、だなんて真奈美先生に報告するのもあれだったから、私はようやくその会話へと参戦していく事を決めて、重い口を開いた。
「 ほら、翼。」
「ん?何だ、っ!!」
「さあ、翼がアメを舐めているうちに補習を始めるわよ、天十郎君に千聖君に八雲君にアラタ君?」
「っ!!?」
翼の口の中へと少しばかり大きなアメを入れて、その間に成宮・・・ああ間違えた、天十郎君たちの補習をやっていこうと彼らの名前を呼べば、彼らは何とも嬉しそうな顔をして「はーい!」なんて言いながら素直に補習を始めてくれたから、そんな彼らが愛らしく見えて思わず笑みを浮かべてしまう。それから私はその笑みを浮かべたまま、先程口の中へと放り込んだアメを舐めている翼の方へと身体を向けた。
「そのアメね、フランスから買ってきたものなの。」
「・・・」
「ふふ、甘過ぎなくて上品なアメでしょう?翼が好きそうなアメだと思って買ってきたのよ?」
拗ねた様子で私の言葉に押し黙っている翼。けれど私のその言葉はちゃんと聞いてくれているらしく、携えていた真奈美先生からもらった補習の予定表がピクッと少しばかり揺れていた。
それにしたって名前を呼ぶくらい、悠ちゃんだって翼達の事を名前で呼んでいただろうにと思いながらも、そんな事を言ってしまえばきっとやっと持ち直しかけていた彼の機嫌がまた下がって行きかねないと、その言葉を口に出すのは止めておく。その代わりに、と言ってしまうと何だかおかしいけれど、彼のその唇へと自分の指をそっと添えて、「でもね、そのアメ、今ので無くなってしまったの。」 なんて言葉を紡ぎ出して、続ける為にまた息を吸って、
「だから夏休みの時にでも一緒にフランスに旅行しないかしら? もちろん、2人きりで。」
「ああでも、翼の仕事に都合がついたら、だけど。」 そっと彼に聞こえるようにだけの声で囁いてそう言葉を付け足しながら、少し赤らんでいる翼のその頬を見て顔を緩ませていれば、「せんせー!ここ分からないナリー。」なんて八雲君の声が聞こえるから八雲君のいる方へと立ち上がって歩み寄ろうとすれば、腹部に腕が伸ばされたと思えば彼のいる方へと逆戻りをしてしまって。
「 翼?」
「あー!!」なんて八雲君の声が響く中、翼は後ろから抱きしめる事を止めないから、彼のその名前を呼んでみれば、ぼそっと呟かれた彼の言葉は何とも愛しいそれであって。
「 都合なんて、どうとでもしてやる。」
「 愛しいのためなら、いくらでも。」 肩に顔を埋めながらも、そんな事を言ってくれるものだから、自分の顔が緩んでいくのが嫌にでも分かって。「だから、 約束だぞ。」 なんて続けざまにそう言葉を紡ぎ出す翼に、「ええ、約束。」なんて言いながら、彼の頭を撫でて、天十郎君たちがいるにもかかわらず、その額に唇を落としてしまうのだ。(ふふ、私も何とか都合をつけないとね? 愛しい貴方のために)