アホサイユでいつものように読書を楽しんでいたら隣から聞こえてきた彼にしては元気のない声。隣を見てみると体をぐてんとソファに預けて力ないうめき声を上げている天十郎の姿が目に入る。そんな彼にひらがな組に頼んだら?なんて言えば、「・・・のが良いんでぇ!」 なんて頬を少し赤らめながら言ってくるものだから、結局それに私が勝てるはずもなく、(彼に甘い、なんて自覚はあるのだけれど、)
「 、」
どうやらソファでは待ちきれなかったらしく、私の名前を呼びながらこちらへとやってくる天十郎。後ろから声をかけられているから彼がどんな顔をしているのか分からなかったけれど、「もう少し待ってくれると嬉しいわ。」 なんて顔に笑みを浮かべながら彼にそう言うと「 おう、」なんて少し歯切れの悪い反応が返ってくる。どうしたのかと後ろを振り返ろうとすると、その拍子にエプロンの紐が解けてしまった。
「あら、解けちゃった。 天?」
「 な、何でぃ?」
「ちょっと結んでくれる? 手が汚れていて、結べないの。」
そんな私の言葉に「ま、任せやがれ!」 なんて妙に元気の良い声で(どちらかというと空回りのような感じがしないでもないけれど)エプロンの紐を手に取る天十郎。「ありがとう。」 そう言って前を向いてまた調理を再開しようとすると、再び耳元で聞こえてきた天十郎の声。
「だああっ!我慢できねぇ!!」
「 天? どうした、!」
彼の声に体を向けようとするのだけれど、それより前に後ろから衝撃が来てしまいその行動は失敗に終わってしまう。その衝撃と一緒に感じたのは心地よい彼の体温であって。ようやく抱きつかれたのだと理解した私が彼にどうしたのかと訊ねれば、首元に顔を埋めてぼそぼそと話始める彼の声。
「が俺様のために作ってくれてんだって、思ったら、よ、」
「ふふ、うん?」
「そしたら、なんか、こう、ぎゅーってしたくなって、だな、 んで、」
「ああもう!と、とにかく、を抱きしめたくなったんでぇ!!」 彼の顔が見えないけれど、きっと真っ赤に染めて言っているであろうその台詞。自分でそれを言った恥ずかしさからなのか、先程よりも抱きしめる腕を強めて、空気さえも入れないんじゃないかなんて程に彼は身を寄せて首に顔を押しつけてくる。(ああもう、可愛いなあ)
「くっついていたら、料理が作れないわよ?」
「 それは、そうだけど、よお、」
「が可愛いんだから、仕方ねぇだろ、」 私から見たら照れながらそれを言ってくれる天十郎の方が可愛くて、愛しくて仕方がないのだけれど、そんなことを言ってしまえば、彼はきっとその顔をますます見せてくれなくなってしまうだろうから、ひとまず愛しいその顔を見るために、体を彼の方向へと向けてみようか。