いつものように誘われたから、てっきりいつも行く海へと遊びに行くかと思っていたのに彼に連れられて来たのはどこか南の島のようだった。そしていつもの海に行くと思っていた私は当然の如く、こんな所に行くなんて知らずに何の荷物も持たずにここへ来てしまった訳なのだけど・・・
「天・・・こういうことなら先に教えてくれる?」
「あれ、俺様言ってなかったか?」
「海へ行く、しか聞いてないわ。」
「なんだ、言ってんじゃねえか!」 なんて笑って私に言う天十郎を見ていると、どうやらあの言葉が南の島へ行く、という意味だったらしい。こんな南の島へ行くような口調ではなかったし、あのいつものような一言でそんな解釈をしろと言われてもそんな難解な事ができるわけがない。暢気に笑っている天十郎を見てため息をついていると、後ろから聞き慣れた声がした。
「ンフ、やっくん。あそこにがいるよ?」
「ほんとだー! ー!」
後ろから手を振ってこちらへとやって来るのはアラタに八雲、それにその後ろからは千聖も向かってきている。彼らと会話を交わすと、どうやら南の島は最近天十郎の気まぐれで買ったようで使わないともったいないということでこうして遊びに来ているらしい。楽しんでいるなら良いけど、なんて思いながらまた海へと遊びに行こうとしている彼らを見送った。千聖も良い釣り場を見つけたらしく、眠たそうに欠伸をしながらジャングルの方へと足を進めていった。
「・・・」
「 天十郎?」
普段なら一目散に海へと駆けだして行く天十郎が、私の隣に腰を下ろしたままその場を動かないでいた。何かを言いたそうにしているけれど何も言わないでいる彼は拗ねたようにこちらをじっと見ていた。千聖達を見送った後に彼の方を見て名前を呼ぶと、視線を下に移してそのまま押し黙ってしまう。彼がどうしてこんな顔をしているのかが分からなくて、彼の名前を再び呼べば小さな声でぽつぽつと話し始めてくれた。
「 怒ってんだろ?」
「何に?」
「・・・俺様が、無理矢理南の島に連れて来た事を、でぃ。」
一応、申し訳ないという自覚はあったのか「、何も用意してきてねぇし。」 なんて言いながら、砂を手で触ってはサーフボードを触ってと行き来を繰り返している。けれど、私はそんなことを怒っていないし、天十郎のこれはいつもの事なので慣れたと言っても良いのかも知れないが、少なくとも天十郎が今思っているような事には私の機嫌は向いていない。
「何でそう思ったのかしら?」
「 だって、がため息するし、 ・・・あいつらとばっか、」
「うん?」
「あいつらとばっか話して、俺様の方、向いてくんねえし。」 続きを促すようにして頷けば、恥ずかしそうに呟くその微かな声。けれど私にはしっかりと聞こえていて。
どうやら彼は千聖達とばかり話していて自分だけ構ってくれないのはそういう理由でだと思っているらしい。そんな心の狭い人間に見えるのか、なんて思ったりもしたけれど、彼のこの姿を見ればそんな小さな事はすぐにどこかへ飛んでいってしまった。代わりに入り込んでくるのは心地よい、温かなそれ。
「ふふ、天。」
「 んだよ、」
彼は未だに私が怒っていると思っているだろうとなるべく優しい声で彼の名前を紡ぐ。サーフボードの上に乗せていた手に自分の手を重ねると彼は一瞬驚きを見せたけれど、ゆっくりとその手を反転させて不安な様子を見せながらそれでもしっかりと私の手を握ってくれる。
「確かにね、南の島に連れてこられたのは驚いたわ。」
「・・・やっぱり、」
「でも、こうして天と一緒にいられる事は嬉しいと思うわ。」
「だから、別に怒っていないわよ?」 なんて言って彼の瞳がこちらへ向くのを待ちながら彼の体温を唯一触れている手から感じていると、下を向いていた彼のそれがようやく私の方を向いてくれる。「ほんとか?」 なんてまだ不安な様子でこちらを見てくる彼に不謹慎だとは思いながらも、こう何か来るものを感じてしまって。(本当に可愛くて仕方がない。)
「ええ、怒ってないわよ?私の愛しい人がこうして連れてきてくれた所だもの。」
「それで、私の愛しい人はいつになったら格好いい姿を見せてくれるのかしら?」 なんて言いながら笑みを浮かべて彼の方をのぞき込むと、私が怒っていないのだと分かった途端に分かり易いくらいに変わっていく彼の顔。「お、おう!俺様のかっけー所、見せてやらあ!」 なんて頬を微かに赤らめて言う彼はなんとも愛おしくて、
「、絶対俺様から目をそらすな、っ!」
つい、彼へと唇を重ねてしまったのだけれど、そのせいで再度彼が拗ねてしまう事になってしまったのはまた別のお話。