「ふふ、そうですね、何が良いでしょう?」
ある日の休日、もう少し細かく言えば、5月も下旬に差し掛かったそんな週末に、私はいつものように不破家へと足を運んでいた。それから、リビングで千聖の隣に腰を降ろしながら、紗耶香さんと一緒に楽しく会話をしていて。
「・・・お前ら、そういうのは、本人のいない所で話すものじゃないのか?」
そんな私たちの会話を遮るようにして、吐き出される息と一緒に聞こえてきたのは千聖のそんな声で。けれど、会話を中断されたにもかかわらず、紗耶香さんの顔には笑みが浮かべられたまま、そして私の顔にも笑みが浮かんだまま、私たちは千聖の方へと顔を向けた。
「まあ、もしかして、ちぃチャンも一緒に話したかったの?」
「・・・俺が言った所で、お前達が俺の意見を聞いてくれるとも思えんのだが、」
「ふふ、あら、良く分かってるじゃない。」
笑みを絶やさず声をかける私達に再度、深く息を吐き出す千聖を見やりながら、紗耶香さんと顔を見合わせて、笑い合う。本当、千聖は可愛い妹さんを持ってるなあ、なんて改めてそんな事を思っていれば、どうやら千聖も同じ事を思っていたらしく、「そうしていると、2人は姉妹に見えるな。」なんて言ってきた。
「ふふ、紗耶香さんみたいな可愛らしい妹なら大歓迎よ?」
「もうっ、さんったら。 ・・・あっ!」
千聖の言葉に、思わず頬を緩めてしまいながらそう返事をすれば、紗耶香さんも嬉しそうに笑みを浮かべてくれるものだから、その可愛らしさに、さらにゆるゆると顔を緩めてしまう。そんな事をしていると、紗耶香さんから続けざまに何か思いついたような、そんな声が聞こえてきて。
「さん、ちぃチャン!私、素敵なプレゼントを思いつきました!」
「?? 何だ、紗耶香?」
「ふふ、何かしら、紗耶香さん?」
紗耶香さんから紡ぎ出されたそんな言葉に、そう声をかけてくれる紗耶香さんの顔に、とても楽しそうな、そんな色が見えて、ついそれにつられて笑みを浮かべながら、どんなものを思いついたのだろうと期待しつつ視線を合わせれば、部屋に響き渡ったのは、
「新婚旅行の航空チケットとかどうでしょう?ちぃチャンとさんの!」
「・・・へ?」
「・・・うむ、さすが我が妹だな。それが良い。」
「ちょ、ちょっと、千聖??」
「でしょう?ふふ、そうとなれば、早速手配しないと。」 聞こえてきた言葉が瞬時に理解しきれず、思わず情けない声をあげてしまう。ちょっと待って、色々とおかしな言葉が・・・いやいや、でも折角の紗耶香さんの提案を・・・脳内でそんな考えを行き交わせている私を余所に、千聖は少しだけ間を置いた後、けれどすぐに紗耶香さんの案に賛成の意を示してしまい、紗耶香さんも紗耶香さんで、そう言葉を呟くや否や、すっとソファから腰を上げて、ぱたぱたと私の視界からすぐにどこかへと消えてしまった。
「・・・千聖、」
「うん?どうした、?」
「・・・いや、どうした、じゃなくて。」
「どうせ、卒業してからは天に付きっきりになるからな。今の方が長く旅行できる。」
「・・・いやいや、そこじゃなくて。」
千聖のそんな反応に、私の反応の方が間違っているんだろうかという感覚になりながらも、何とか千聖へとそう言葉を返す。「どこに行きたい?俺は、と二人きりで過ごせるのなら、どこでも良いが。」 なんて甘ったるい、けれど愛しいなんて感じてしまうそんな言葉に、ついつられそうになってしまうけれど、寸前の所で頭を振って思いとどまる。
「いや、千聖?だからね、新婚旅行とか言う前に、私たちまだ、けっ!!」
それからまた、言葉を紡ごうとしたのだけれど、ゆるりと、いつの間にか近づいてきていた千聖の唇に、私のそれを塞がれてしまって、言おうとしていた言葉が、体内へと飲み込まれてしまって。
「・・・俺は、この先もずっと、と共に歩くつもりだったんだが、」
「は、違うのか?」 寄せられた距離はそのままに、囁くように放たれたそんな声が、私の身体へと浸透していって、おかしいと言っていた脳内すらもその声で満たされていってしまうのだから、彼のそんな言葉に私が返すそれなんて、1つしか、残っていないも同然な訳で。