「ちょっと、千聖君?」
「何だ?」
「いや、何だ、じゃなくてね?」
腰を落ち着ける場所は他にもあるっていうのに、私の隣へと腰を下ろしてきた千聖君。隣に座るだけなら、わざわざ狭い所に来なくても、なんて事は思ったりするが、まあ別に気にする事でもない。・・・けれど、彼はそれだけで満足しなかったようで、
「どうして、君の頭が私の足の上に乗っているのかしら?」
「 眠い、」 なんて隣で呟いた千聖君に、天十郎君が来るまで寝ていたら?と言ったのは確かに私だけれど、それが何でこの状態に繋がる事になるのかしら。「 ああ、そうする。」 私のそんな提案にそう言葉を返した千聖君は、何を言うわけでもなく突然に私の方へと倒れるようにして頭を置いてきたものだから、私も対処の仕様がなくそのまま彼の頭を受け止めてしまう事になって。
「 寝ても良いと言ったのは先生だぞ?」
「いや、それはそうなんだけど・・・別に私の足を枕にして寝ろとは言ってないでしょう?」
「先生の膝で寝るなとも言ってないぞ。」
「・・・(またそんな屁理屈を。)」
もぞもぞと、私の脚の上で頭を動かして視線をこちらへとやりながら、ご丁寧に気持ちよさそうに笑みを浮かべて返答してくる千聖君。さらに言えば、私が温かさにやられてこたつから出られないのを分かっているから余計と質が悪い。「先生も、天たちが来るまでここにいるんだろう?」 笑みを浮かべていた千聖君からそんな言葉が放たれて、思わず苦笑を漏らしてしまう。
「 まったく、その知恵を勉強に生かしてもらいたいのだけれど?」
「・・・最近は、十分に生かしているつもりだが。」
「ふふ、そうね。最近ずいぶんと頑張っているのはもちろん知っているわ。」
千聖君だけではなくて、天十郎君達も今ではずいぶんと補習やらテストやらを真面目に取り組んでくれるようになった。真奈美先生と彼ら自身の努力の賜物だろう、その分だけ結果もずいぶんと伴ってくれるようになっていた。それを思うと、ご褒美、と言ったら何だか違うような気もするけれど、たまにはこうして彼らが望む事を1つくらいしても良いかな、なんて考えてしまったりする訳で(真奈美先生も喜んでいたし、ね。)
「 先生、」
「うん?どうしたの、千聖君?」
考えているだけだと思っていたのに、どうやら行動にまで表れていたらしい。何やら嬉しそうな声で千聖君が私の名前を呼んで、再度彼の方へと視線をやれば、いつの間にか私の手は彼の頭をゆるゆると撫でてしまっていたようで。それに気を良くしたのか何なのか、千聖君はゆるりと頬を緩ませて、自分の頭の上に乗っていた私の手をそっと掴んで、
「たまに、こうしてくれると、俺はもっとテストの点数が上がる気がする。」
「あら、またそんな調子の良い事を言って。」
「まあ、俺はどっちでも良いが、俺達の先生が喜ぶぞ?」
「・・・(本当に、そういう所にだけ頭が回る、)」
いや、こういう知恵も世の中には必要かも知れないけれど。でも、どうにも解せないものがあるのは何故かしら?私が真奈美先生の笑顔に弱い事を知っていて、そうやって言葉を持ちかけてくるのだから、まったく勉学だけでなくて変な知恵まで身に付けてしまって、なんて思わずにはいられない。そんな千聖君の言葉に、思わず深く息を吐き出していると、続けて千聖君が言葉を紡いで、 「先生も喜ぶが、 それに、」
「・・・こうしてくれると、俺も喜ぶ。」
・・・ああでも、要らない知恵が身に付こうが、たまに、こうやって可愛い所を見せてくれるものだから、ついつい、彼らのお願い事を聞いてしまうのかもしれない、なんて思ったりもして、(ふふ、たまには、だけれどね?)
「 ふふ、たまには、ね?」
そう言って、また彼の頭を撫で始めれば、再度ゆるりと嬉しそうに笑みを浮かべた千聖君は、そのまま瞼を下ろして本格的に昼寝の準備に入ってしまった。(あらあら。 ふふ、まったく、)