意識内に彼の声が響いてくる。ゆるゆると少しだけ私の身体を揺すってくるのだけれど、ここの所、仕事が詰まりっぱなしだった所為もあるのだろう、身体に疲れが溜まっていたのか、彼のそんな起こそうとする行動さえも何だか心地の良いロッキングチェアにでも揺られているような感覚を覚えて、さらに眠気を誘っているようにしか思えなかった。
「 ほら、。」
「朝は仕方がないが、昼はちゃんと食べろ。」 千聖の声に、そういえば、何だか良い匂いがするなとまだ寝惚けきっている脳内で思う。どうやら、私は朝を通り越して昼まで寝てしまっていたらしい。さすがにそろそろ起きようか、なんて休日を満喫するかのようにゆるゆると考えていれば、目を開ける前に、千聖がさらに言葉を紡いできた。「 それに、」
「朝は我慢したが、2度目は抑えが利かなくなる。」
「・・・何の話よ、もう。」
耳元で囁かれたそんな甘ったるい声に、思わず閉じていた目をぱちりと開ける。そうすれば、視界に映ってきた千聖は・・・どことなく残念そうな顔を一瞬見せた気がしないでもないけれど、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべて私の額に唇を落として、
「おはよう、。」
「ふふ、おはよう、千聖。」
彼の腕が背中に回って起きようとするのを手伝ってくれる。お礼を言いながら大きな伸びを1つした私は、意識をはっきりさせようとひとまず顔を洗ってこようと、ベッドから降りようとする。・・・のだけれど、再度彼の手が背中へと伸びてきて、自分の方へと突然引き寄せるものだから、私はされるままに彼の胸元へと顔を近づける事になってしまった。
「・・・もう、千聖?起こしに来てくれたんじゃなかったの?」
「 久しぶりに、と一緒に休日を過ごせるんだ。」
「 少しくらい、こうしていたって構わんだろう?」 なんて、首元へと擦り寄りながらそう囁いてくる千聖。もちろん、愛しい人にそんな甘えるような事を言われてしまったら、それを無下に押し返す事なんてできない訳で。
「 まったく、私がそれに弱いって知っててやるんだから。」
「 何の事だ?」
白々しそうに、けれど楽しそうに笑い声を漏らす千聖に「あら、よく言うわ。」なんて冗談めかして返答をすれば、千聖が顔を上げて私を見つめてくるものだから、互いに視線を絡み合わせたまま、またお互いに笑みを零す、なんて事をしてしまうのだけれど。
「(ああもう、起きてすぐにこれなんだから。)」
こう、たぶん他の人がいたら、それだけで胸焼けを起こしてしまうんじゃないだろうかという事をしているのだという自覚くらいはそれなりにあるのだけれど、それを心地よいなんて思ってしまう自分もいるから、止めようもなくて。妙に嬉しそうに私の唇に軽く自分のそれを落としてくる千聖に、それに苦笑しながらも嬉しいと思いながら受け入れてしまっている自分に、そんな事を思いながら彼のそれに答えていれば、「 、」 なんて彼の声が聞こえてきて、
「ん?どうしたの、千聖?」
「・・・本当に抑えが利かなくなった。」
「・・・は? って、わっ、」
起きたばかりに聞いたその言葉を耳にして、思わずふぬけた声を上げてしまう。けれど千聖はそんな私に構わず、「 が悪い。」とか何とか言って人の所為にしながら、私の身体をそのままベッドへと押し戻してしまった。
天上を背景に、千聖の顔へと焦点が合って、ようやくその言葉の意味を理解する。まったく、起きろっていったのはそっちじゃない、なんて思いながら、けれど、寝室にまで漂ってくる千聖の作った昼食の香りに、私は既にやられてしまっていたから、近寄ってくる彼の唇へと自分の人差し指を触れさせて、
「 私は、愛しい貴方が作った昼食をまず食べたいのだけれど?」
「駄目かしら、千聖?」 なんてこの後どうなるかなんて事を容易に想像しながら、先程の彼と同じようにずるい訊き方で彼に訊ねてしまうのだった。(さ、今日の昼食は何かしら?)