古びた、けれど神聖な場所には変わりないその場所に、いつものように彼は居た。何故だか彼を迎えに行く事が日課となってしまっていた私は、祈りを捧げている彼へと気兼ねること無くその言葉を投げかける。
「・・・瑠璃弥で良いと、何度も言っているのに。」
「生徒に示しがつかないと何度も言っていますが?」
そして、また同じような言葉をいつも通りに繰り返す。というか、生徒に示し云々の前に、貴方は私よりも年上で、しかも教師として先輩でしょう、なんて付け加えるかのようにそう紡げば、「・・・相変わらず、貴女は手厳しい人ですね。」なんて返事が聞こえてくる。
「どう言われても結構ですよ。ほら、そんな事言ってないで、朝礼に行きますよ?」
「遅れて怒られるのは私なんですから。」 天童先生が歩き出すのを待ちながら、辺りのステンドグラスを見回した。古びている分、少々埃をかぶってしまっているけれど、太陽の光に照らされてガラスが光る様は、いつ見ても綺麗だと思ってしまう。
今度、暇のある時にでも、手の届く範囲で拭いてみようかしら、なんて思っていれば、カツカツと、こちらへと近づいてくる足音が耳へと届いてきたから、漸く先生が動き出してくれたのだと思い、私も前へと進もうとするのだけれど、
「・・・あの、天童先生、」
「はい、何でしょう、先生?」
強い訳でもなかったけれど、それでもバランスを崩してしまう程度に力の入ったその手に、腕を掴まれてしまったらしく、くいっと引っ張られたその先には、私の背中には、感じるはずのない、自分とは違う体温を感じてしまっていて。
「いやいや、何でしょう、じゃないですよ?さっさと朝会に行かないと、」
「フフ、何と言われても良いと言ったのは、貴女ですよ、先生?」
「それは、貴女が私の愛しのマリアである、と言っても良いと言うことを、肯定しているも同じですよ?」 えらく嬉しそうな声色で言われたそんな言葉は・・・何だか、とてつもなく危ない言葉ではなかっただろうか? いや、どう言われても良いと言ったのは確かだけれど、それは私に被害が及ばない範囲での事を言っているのだ。今天童先生が言ったような事が学校内で生徒やら教師やらに伝わってしまえば、とてつもなく面倒な事になってしまうのは目に見えて分かる。(・・・墓穴を掘ってしまったのかしら。)
「・・・いやいやいや、天童先生、そうは言いましたが、ね?それとこれとは訳が、」
「いいえ、違う事はありませんよ、先生。確かに、貴女はそう言ったように、私は聞こえました。」
「・・・(私はって何ですか、私はって。)」
背中に伝わる温度は、いつまでたっても離れる気配がなく、彼の口から放たれたその言葉も、どうやら取り消すつもりはないらしい。いやでも少しだけそんな日々を我慢すれば、彼の言葉も日を追う毎に薄れていくに違いない、・・・それまでは非常に面倒だけれど、と、いつの間にか手を彼の腕に絡め取られて、とんでもない言葉を放っていたその唇へと私の手が寄せられている気がしつつも、そんな事を考えていると、そんな私の考えを読み取ったのか何なのか、私の身体を、くるりと自分の方へと回転させて、
「何ですか、天童先生? というかいい加減そろそろ離れてくれると嬉しいのですが、」
「フフ、確かに、嘘であれば、それは日を追って真実の中へと埋もれてしまいますが、」
「・・・先生、人の話を聞いていますか?」
「ええ、聞いていますよ? でも、それを真実に、事実に見せかけてしまえば、どうなるでしょう?」
「は? って、わっ、」
「ったく、天童さんにっ!!もう朝礼の時間だぜ!一体何して、 ってっ!!?」
「な、ななっ、あんたらっ2人で何してっ!!?」 私たちを呼びに来たらしい加賀美先生が見たそれは、彼が私の腰へと手を伸ばして、先程よりもさらに身体を引き寄せて、自分の顔を、口を私の方へと近づけている、そんなとんでもない場面だった。(ああ、あれは、確実に・・・・)(・・・私の平和だった日常が、)