「へえ、慧がそんなことを?」
「ふふ、愛されているわね。」
突然の訪問に驚きながらも私を迎え入れてくれた那智に今朝の話をしながら着々と準備を進めていく。どうやら慧の推測は当たっていたらしく、机の上にはそれらしきメニューが置いてあったから苦笑を漏らしてしまう。それを那智に見られてしまったらしく、少し拗ねたような顔をする彼の口にミニトマトを持っていく。
「ほら、こうやって野菜も食べないとね?」
冗談交じりにそんなことを言いながら彼にそれを食べるように促すと「・・・ガキか、おれは。」 なんて言葉を口にしながらも彼の目を見れば機嫌が直ってきたのが分かったから、私も自然と顔に笑みを浮かべながらそのまま調理を再開する。一方、彼はと言えば別に何をするでもなくキッチンカウンターに頬杖をついてこちらを見ていた。
「、冷蔵庫から卵を取ってくれる?」
「・・・了解ー、」
そう声をかけると多少の間はあったけれど、それでも文句を言うことなく動き出した那智。そんな彼に珍しさを感じながらも手伝ってくれる事に変わりはないので、素直にそれを受け取ったのだけれど、
「・・・あのね、那智。」
「何だよ、卵はちゃんと取ってきただろ。」
「別にその後何しようがおれの自由。」 なんて正論なんだか屁理屈なんだか分からないような言葉を口に出してそのまま後ろから抱きついてくる事を止めない彼。猫のように首元へとすり寄ってきて息を吐き出してくるものだから、くすぐったさに思わず笑ってしまえば彼はさらに身を寄せてきた。
「ほら那智、準備が出来ないでしょう?」
「がおれの家でこうやって料理してるのが悪いんだろ。」
「そんな格好されたら、我慢できない。」 そんなことを耳元で囁かれれば普通ならそこで主導権を彼に渡してしまうのだろうけれど、生憎私はその普通に属していない人間であって。(もちろん、今の彼に愛おしさや可愛さなら感じないわけではないのだけれど。)
「はいはい、後でね。」
「 何だよ、後って。」
「貴方に昼食をとらせないと私が後で慧に怒られるのよ?」
「何だかんだで慧も那智に甘いんだから、貴方は逃れるでしょうけど。だから、ね?」 そう言って不満そうな声を出す彼の頭を優しく撫でながら大きな子どもを諭すように話しかける。それから彼はまた首元に顔を埋めて、「じゃあ、今日はの家に泊まる。」 なんて突飛な事を言い出した。
「私は構わないけど、急にどうしたの?」
「そうしたら、と好きなだけ好きな事をして過ごせるし、それにのご飯が食べられるし。」
「あー、おれってば天才。」 なんてそんな事を言いながら今まで離してくれなかったお腹にある手を自分からいとも簡単に離して、準備してくると言葉を放つと自分の部屋の方へとすぐに消えてしまった。(ふふ、まったく)