「方丈君、それ取って。」
「・・・名前で呼べって言ってるじゃん。」
「人の家に急に押しかけて来なくなったら考えてみるわ。」
いつだったかなんて覚えていないけれど、気付いたらおれはせんせいの部屋へと訪れるようになっていた。理由なんか分からない、ただこうして来てもおれを押し返すことなく自分の部屋へと入れてくれるから、その習慣が付いてしまったんだろう。おれに警戒心を持つ事もなく、こうやって無防備、に、
「 なあ、せんせい。」
「どうかした?」
「おれ以外の奴、こうして部屋に入れてないよな?」
せんせいのことだ、仙道せんせいとか真壁せんせいとかがやって来たらそのまま部屋へと入れているのだろう、そんなことを思うだけでもむかつくって言うのに、こいつは「ああ、清春がたまに来るけど。それがどうかしたの?」 なんて普通に言ってきやがった。(ちっ、何でこいつはこんなに、)
「 何そんなに不機嫌な顔をしているのよ。」
「・・・そんな顔してない。」
「(思いっきり眉間に皺が寄ってるけど、)」
おれが視線を下にして目線を合わせないようにしていると、「まったく、君は。」なんて言って、せんせいは急におれの頭に手を置いてそのままゆっくりと撫で始めた。すぐに止めろと言いたかったのにそれを言えないのは、認めたくないけれど、おれが、
「子ども扱いすんなよ。」
「あら、じゃあ止めた方が良い?」
「・・・止めなくて良い。」
遠回しに言ってみれば、彼女から返ってくるのはそんな言葉で。手を離そうとするせんせいの腕を引き止めて不本意にも言葉を紡げば、「ふふ、素直な子は好きよ?」 なんて面白そうに微笑みながらおれに言ってくる。その言葉にさえ少しの嬉しさを感じてしまう自分にまたさらに機嫌は急降下していって、その上このおれをこんな気持ちにさせているくせに本人は全く取り合う気がないのが気に入らなくて、
「 せんせい、」
「うん?どうしたの?」
「 おれ、を」
おれの頭を撫でていた腕を再度掴んで、そのまま手の甲に唇を落としてやった。(いつか、絶対、)