「はい、じゃあ授業を始めるわね。今日は・・・」
「わーっ!!せ、仙道先生っ、お願いですから授業始まりでの悪戯はっ、」


いつものように職員室を出て教室に入って授業を始めようとすれば、聞こえてきたのは生徒の悲鳴と彼の名前で。その声に、そういえば、この時間は彼が隣で教えてるんだったという事を思い出す。いつもは一緒に教室へ向かっていたのだけれど、前の時間も授業で終わった後も生徒たちと話していたから職員室に戻る事ができなくて、そのままこの教室に来てしまって、


「・・・先生、止めにいった方が良いんじゃ、」
「・・・そうみたいね。ごめんね、ちょっとだけ自習しておいてくれる?」


聞こえてきた悲鳴が1つではない事に、さすがに気の毒に思ったのか、ぽつりと目の前にいた生徒がそんな事を言ってくれて。・・・そういえば、このクラスの子達も清春が受け持ってたわね。「はーい、いってらっしゃい、先生。」 なんて手を振って送り出してくれる生徒達を後ろに、私は深く息を吐き出しながら隣の教室のドアを開けば、「うわー!!」


先生っ、あぶなっ!!」
「 清春、悪戯も程々にって言ったでしょう?」
「・・・え、よ、よけた、??」


心配してくれた生徒達にお礼を言いつつ、何の躊躇もなく、教卓に頬杖を突いて、いつもの変わらない、あのチェシャ猫よろしく楽しそうな笑みを浮かべた清春の方へと歩を進めて、そんな言葉を口にする。・・・けれど、悪戯を避けたというのに、清春は苛立つ様子はまるでなく、何故だかさらに口角を上げて、


「キシシっ!オレ様の新作を難なく避けやがって、さすが俺のだなァ!」
「・・・どれだけ貴方と一緒にいると思ってるのよ。それに、その新作は昨夜私の隣で作ってたでしょう?」


「新作に引っかける気なんてなかったのは明らかじゃないの。」 そして清春だって、もちろんその事に気付かないわけもなく。この授業の時に悪戯をして生徒の悲鳴が聞こえてくれば、隣で授業をやっている私が止めに来ることくらい、百も承知だろうに。それにも関わらず、わざわざ私が隣にいる時に新作を作って、尚且つ、この時間を狙ってやったという事は、私にその悪戯を避けさせるために全てを仕組んだとしか考えられなくて・・・でも、何で、


「・・・俺の、?」
「一緒にいる・・・?」
「夜、先生の、隣で?」


その理由を考えながらも清春の言葉に返事をしていると、ぽつりぽつりと生徒の方からそんな言葉が呟かれて。それから、「・・・あの、つ、つかぬ事をお訊きしますが、先生と仙道先生は、その、」と1人の生徒がそう訊いてくるから、あ、そういえば、言ってなかったか、と思いながら、生徒へと返事をしようと口を開こうと、したの、だけれど、


「 っ、ん、」
「キャー!!!」


隣にいた清春に、ゆるりと顎を掴まれたかと思ったら、そのまま私の唇が清春のそれに塞がれてしまって。先程とは違う色を含んだ生徒の悲鳴を受けながらも、自分から離れるなんてこと、彼を愛しいなんて、その口付けを嬉しいなんて思ってしまっている私にはできるはずもなく、唇から瞼へ、それから耳朶へと彼の好きなように続けられてしまって、


「・・・ちょっと、清春、っわ、」


それでも一応、生徒のいる手前、程々に、と少しばかり咎めようと、彼の唇が離れた後に再度声を出そうとしたのだけれど・・・それすらも彼は許してくれないらしい。顎を掴んでいた彼の手はいつの間にか私の腰へと伸びていて、くいっと強く彼の方へと身体ごと引き寄せられたかと思えば、


「っつーことでェ、は昔っからオレ様んだからなァ!」


「手ェ出した奴はたーッぷりの悪戯で仕返ししてやっから、覚えとけッ!」 ・・・まったく、何を言い出すかと思ったら。コクコクとまるで機械のように首を縦に振る生徒を見ながら、紡がれたその言葉に思わずため息を吐き出してしまったのだけれど、それと同時にようやく彼が悪戯を仕掛けた理由を理解する。

私がここに来ることは承知で、そしてわざと私に悪戯を避けさせて、生徒が清春と私の関係に疑問を持つような言葉をわざわざ私の口から言わせて、それから最後に自分の口から核心を突く言葉を紡いで、・・・何というか、手の込んだ悪戯というか、回りくどいというか、


「・・・あのね、わざわざこんな事しなくても、別に清春と恋人だって事を隠したかった訳じゃなかったから、普通に言って良かったのよ?」
「ヒャハハ!普通に言ったってつまんねえダロ!それにこーゆーのはインパクトが大事なんだよ!」


「これだけ盛大にやれば、お前がオレ様のモンだって事が嫌でも心に残るダロ?」 そうすれば、お前にヤマシイ気持ちで近寄りやがるバカな奴もいなくなるしなァ? こつりと額を合わせながらそう返事をされる。そこでようやく、・・・ああ、これはもしかして、と、昨日の放課後にあった出来事を思い出していると、再度彼に唇を急襲されてしまって、


「お前はオレ様のことだけを考えて、愛してれば良いんだっつうの、」


あの吸い込まれそうな目に視線を絡め取られて、彼の愛しいその声でそんな事を言われてしまえば、


「分かってんだろ、なァ? ?」 


若干呆れていたはずなのに、何だかんだと言いながらも、結局私は彼の欲しがっている言葉しか紡ぐことができなくなってしまうのだ。

ハニーシロップにひたした甘いキス

((ど、どうしよう・・・!授業中だって言いたいけど、仙道先生の悪戯だけはっ・・・!))(お、おい!誰か真壁先生か草薙先生呼んで来いよっ!)(いやここは風門寺先生の方が良いじゃないのっ?)(その3人なら誰でも良いからとにかく呼んでこいって!あ、間違っても七瀬先生を呼んでくるなよっ!余計とややこしことになるぞっ。)

昨日の放課後=清春がちょうどいない時に主人公が告白されかけてとかそんな感じです。一か瑞希がぽろっと清春の前でその事を言っちゃって、とかだと嬉しいです、私が(笑)

title by Lump / ハニーシロップにひたした甘いキス(Middle)