「ここは職員室、ついでに言うと、もうそろそろ先生達も通勤してくる時間よ?」 割り当てられた自分の椅子へと腰を下ろしている私の、その上に乗っかるようにして覆い被さってくる彼はえらく楽しそうな顔をしてこちらを見ていた。いつも通りに学校へと来て、パソコンを開いて本業の仕事の方をしていたはずなのに、何がどうしてこうなったのか。 そんな事を思いながら、私も清春の方へと視線を合わせる。
「キシシっ!やなこったァ! それにィ、別に見せつけりゃ良いダロ?」
「つーか、何もヤマシイ事してねェし?」 そんな事を言いつつ、ゆるりと額へと寄せられる唇に、思わず深く息を吐き出してしまう。それでも彼の顔に浮かぶのは笑みだったから、これは相当自分にとって何か都合の良い事を思いついたのかと、何やら嫌な予感のようなものを感じつつも、「それで、用件は何かしら?」と訊かざるを得ない状態であって。そんな私の言葉に、待ってましたと言わんばかりに笑みを深めた清春の纏っていたそれらが、瞬時に変わったような感覚に陥って、
「・・・兄さんには誕生日プレゼントをあげていたのに、僕にはくれないの?」
「・・・はい?」
職員室へと、私の耳へと響いたのは、確かに清春のその声なのだけれど、トーンというか口調というか、あからさまに作ったようなそれらに、私は思わず間の抜けた声をあげてしまった。けれど、その彼に何だか妙に見覚えがあるのは気のせいではないのだろう、すぐにその記憶へとたどり着き、そういえば、そんな事もしていたな、なんて懐かしんで、とりあえず、清春のそれに乗っかってみる。
「あら、久しぶりね、清秋君?」
「ふふ、久しぶり、さん。」
高校生の時に悠ちゃんの補習を受けないようにと、面白がって始めたそれ。結局1年間、悠ちゃんは気づかなかったみたいだけれど・・・それにしても、あの時の悠ちゃん、可愛かったなあ。懐かしい、楽しい思い出まで蘇ってきて、ついそれに浸っていると、それに気づいた清秋君とやらが、ゆるりと私の方を撫でる。
「それで、僕は誕生日プレゼントをもらってないんだけど、」
「・・・僕にも、くれる、よね?」 職員室にやってきて早々、私に楽しそうに覆い被さってきた理由はそれだったのか。今年の誕生日が嫌だったとか、たぶんそういうのじゃなくて、本当に単に思いついただけなんだろう。じゃなかったら、こんなに楽しそうな顔はしない。
こんな状態で、あげないも何もないんじゃないか、なんて思いつつ、あげないと言ったらどうなるんだろう、そんな事を考えていれば、痺れを切らしたのは、清秋君ではなくて清春の方だったようで。ぼーっと何気なく見ていた彼の目が、ゆるりと近づいてきているような、
「・・・オレ様といんのに、何考えてンだよ。」
「あら、貴方の事を考えていたつもりだったんだけど、」
「それと、清秋君の誕生日プレゼントは何にしようかってね。」 寄せられた唇に、自分からも寄せていきながら、「それで、清秋君のお兄さんはどう思う?」なんてからかい半分にそう言葉を紡ぎつつ、その頬へと指を滑らせれば、不機嫌にしかめられていたその顔に、再度、彼独特の笑みが、ゆるりと浮かべられて、頬にあった手を、するりと絡め取られて、
「アイツの分は、オレ様がもらってやるぜェ?」
「だから、なァ、?」 了承を取るかのように放たれたそんな言葉、けれどそれとは対照的に、彼の身体はさらに私に覆い被さるようにして、近づいてくるから、そんな彼らしい行動に、結局私はゆるりとそれを受け入れてしまうのだ。