久しぶりにもらう事のできた休日、けれど休みと言ったってやることはいっぱいあるわけで。さすがに一日中という事はなかったけれど、パソコンへと向かい始めて数時間、そろそろ休憩するかと重くなっていた腰をゆるりとあげていると、背中の方から電話のベルの音が聞こえてきて。
「誰かしら?」
仕事場からの連絡なら携帯の方に入ってくるだろうし、清春からでも携帯に入ってくるだろう。相手は誰だろうと考えながら、珍しくベルが鳴ったその電話の方へと足を進める。がちゃりと受話器を取って、お決まりの挨拶をしようと唇を震わせる、のと同時に、何やらずいぶんと焦った声が響いてきた。
「かいっ!?ちょっとこっちに来てくれないかっ!き、清春が、清春がっ!!」
「・・・えーと、もう少し、状況を説明してくれると有難いんだけどな。」
「うわっ、こっちに来るなよ清春っ!!」 電話の向こうから、悲鳴のような声が聞こえるのを耳にしながら、何とかその状況を理解しようと試みる。かけてきたのは、おそらく清春の所属しているバスケのチームメイトだ。彼はひどく慌てたようだったけれど、清春に何かあったのだろうか?最初に浮かんだのは怪我、という2文字だったけれど、聞こえてきたその言葉に、その考えはすぐに捨てる。怪我している人間にこっちに来るなとは言わないだろう。
「と、とにかく来てくれないかっ!?もう俺たちじゃ抑えきれないっ!」
「??だから、一体何が、」
“Help us!” だなんて、もうテレビでしか聞いたことのないような言葉を口にする清春のお仲間さん。それくらい大変な事なんだろうとは、何となく察しがついたけれど、依然として清春がどうなってしまったのかという事は分からずじまいで。「おいっ、はまだ来ないのかっ!?」 なんて電話をかけてきた仲間とは別の声が私の耳へと届くのを感じながら、訳の分からないままな私はなんとか状況説明をしてもらおうと声を出した、そんな時、 「お、おいっ、清春っ!俺の携帯っ、」
「やあハニー、僕も、君の声が聞きたいな?」
「・・・清春?」
「ふふ、ああ、ハニーの声だ。」
「ごめんね、急に僕の友達が電話しちゃって。」 仲間の声が聞こえてきたと思えば、続けざまに聞こえてきたのは、確かに清春の声・・・だったのだけれど。間違えるはずのない彼の声に、でも響いてくるおかしな言葉づかいに、私はようやくそこで起こってしまっている事態を理解する。(・・・大体、何で練習中に寝たりなんか、)
「もしもし、ハニー?聞いているかい?」
「・・・ええ、もちろん聞いているわよ、清春。あー、そうだ、今からそっちへ行ってもいいかしら?」
昔から、それはもう幾度となく遭遇しているそれに、私はもう慣れてしまった所為か、清春の言葉に何か特別なことをするわけでもなく、ただ普通に対応する。普段の清春からは想像もできない彼のそれに、まだ慣れていない人は、少し・・・いや、かなり動揺するものだとは、思うけれど。
「うん?愛しのに会えるのなら、僕は大歓迎だけれど、急にどうしたの?」
「ふふ、いいえ、ただちょっと、愛しの清春の格好良い姿を見たくなったの。 駄目かしら?」
「まさか、とんでもない。いつでもおいで、ハニーが来てくれたら、僕もいつも以上に頑張れるよ。」
「 ああ、そんな事を言っていたら、僕も早く会いたくなってきちゃった。」 次から次へと飛び出してくるのは、あの清春から紡ぎだされているとは思えない言葉の数々で。もう少し仕事をしてから夕食の準備をしようと思っていたのだけれど、予定を大幅に変更しないといけないわね。 電話の奥で慌てているだろうチームメイトを余所に、のんびりとそんな事を考えながら、ゆるりと受話器を持ちかえた。
「ずっと待ってるけど、 でも、なるべく早く来てほしいな。」
「 愛してるよ、僕の、愛しのハニー。」 囁くように紡がれたそんな言葉に、「き、清春が壊れたーっ!!ああ神様っ!!」 なんて奥の方から聞こえたのは、また別のお話である。(・・・清春のあれは、色んな意味で相当な破壊力があるからなあ。)