真奈美先生の努力のおかげで、ようやく真面目に補習を受けるようになった天十郎たち。今日も例外なく補習があったのだけれど、今日は天十郎の苦手な数学の授業だった所為もあるのか、いつも以上にふらふらと覚束ない足を一歩一歩と前へと出しながら、ようやくアホサイユへとたどり着いた。


「・・・終わった、」
「ふふ、お疲れ様。」


ばふんと、勢いよくソファへと座り込んだ天十郎から盛大に吐き出された息と一緒にひどく弱々しい声が聞こえてきて。先程の姿からも、今の声からも、相当頭を使ったんだろうという事が伝わってきて、天十郎へと労わりの言葉をかければ、「・・・頭の中で、数字がいっぱい回ってやがる。」なんて言葉が返ってきたからつい苦笑を漏らしてしまう。


「真奈美先生も、天たちの事を考えてくれてこうやって補習してくれてるんだから、頑張らないと、ね?」
「それは、分かってっけど、」


「・・・それでも、苦手なもんは苦手なんでぃ。」 不満そうな顔を隠す事もなくそう言いのける天十郎。けれど、そうは言っても、その苦手な数学も途中で投げ出す事もせずに最後までやり遂げるのだから、成長したなあ、なんてまるで親のような気持ちになってしまいながら、ゆるりと顔に笑みを浮かべた。


「?? 、何で笑ってるんだ?」
「ふふ、そうね、最後までちゃんと補習を受ける天十郎の事を格好良いなあ、なんて思っていただけよ。」
「っ!!  俺様、格好良かった、のか?」
「ええ、とっても。」


私の言葉に、テーブルへと突っ伏していた天十郎の顔が勢いよく上げられる。それに少々驚きつつも、その言葉に偽りはなかったから、肯定の意味で頷けば、「そうか、格好良かった、のか。」 なんて独り言のように呟きながら、その顔に少しだけ赤みが差しているのがちらりと見えて。そんな姿に思わず可愛いなんて天十郎に言ってしまえば拗ねてしまう、そんな事を思いながら、彼の方へと視線をやっていれば、


っ! お、俺様、もっと補習がんばって、っ!?」
「わっ、 」


それから、何かを決心したようにくるりと私の方へと視線を持ってきて、言葉を放とうとするのだけれど。・・・その言葉の最中で、急に身体の力がすべて抜けてしまったかのように、天十郎の身体が私の方へと倒れこんできてしまって。


「 どうしたの、天?」
「お、俺様にも分かんねえ。 なんか、急に身体の力が、」


「それに、なんか、急に眠くなって、きた、」 急に傾いてきた天十郎の身体をなんとか受け止めながら、当の本人へと理由を聞くのだけれど、自分でもその理由が分からないようで。それから、天十郎が自ら起き上がってくれるのかと思ったら、力が入らないどころか、追い打ちをかけるように眠気まで襲ってきたらしい。


「眠気まで?  ・・・、ああ、(そういう事だったの。)」


彼の突然の行動に、理由を考える余裕がなかったけれど、今冷静になって考えてみれば、・・・あるではないか、天十郎がこうなってしまった理由が。思い当たるその節をひしひしと感じながらも、でもまず、頑張って補習をした彼に、少しだけ休息をあげてもきっと罰はあたらないだろう。こうなってしまった理由は後から彼に話せばいい。


「ふふ、天。」
「ん、 なん、でえ、?」
「お昼寝って時間でもないけれど、でも、少しだけお昼寝しましょうか?」


「私の足なら、いくらでも貸してあげるから。」 肩に寄りかかっていた天十郎へと囁くようにそう声をかけながら、背中をぽんぽんとあやすように撫でていれば、少しだけ動かす力が残っていたのか、天十郎はそんな私の声に反応するように、ゆっくりと身体を動かして、ぽすっと自分の頭を私の足へと移動させてきて。(ああもう、可愛いなあ。)


「ふふ、おやすみなさい。」
「  おう、 ありがと、な、  、」


「 だい、すき、だ、 ぜ、 」 その顔へと嬉しそうにゆるりと笑みを浮かべた天十郎は、ぽつりぽつりとそんな愛おしすぎる言葉を紡いでくれながら、そのまま夢の中へと旅立っていってしまうから、私の返事は、どうやら彼が起きるまで取っておかないといけなくなってしまったようで。

ゆるりと揺れる、貴方の瞼へと

眠っている最中に、その言葉を紡いでしまった事は、彼には秘密にしておこうかな。