「・・・何で、子犬がいるの。」
「だから子犬じゃないって何度も言ってるだろー!」
いつものように、今日は特別天気が良かったというのもあるかも知れないけれど、トゲーと一緒にお昼寝をしていれば、何故だか聞こえてきたのはとても大きな、聞いた事のあるその声で。「俺は原稿を取りに来ただけだぞ!原稿渡してくれたらまた寝ても良いから!ほら!原稿出せ!」 僕の質問には答えないままで、自分の言いたい事だけを言ってずいっとソファで気持ちよく寝ていた僕の目の前へと手を出すのは、さんと同じ出版社にいる、子犬で。(・・・真田さん、とか、さんが言ってた気もする。)
「・・・さん、は?」
真田さんの口から出てきた原稿という言葉に、僕はすぐにそう返事をした。僕の担当はさんのはずなのに、どうして原稿を真田さんが取りにきているんだろう、僕にとってはもっともな疑問であるその言葉を投げかけると、真田さんは「何だよ、ちゃんとさんが言ってただろ?」なんて、さも自分がここにいるのが当たり前のような言葉を僕に投げかけた。
「今日はさんは仕事が休みだから、俺が原稿取りに行くようになってたんだぞ?」
「んで、さんからこの家の鍵を渡されたんだ。さん、ちゃんと言ってただろ?」 ・・・そういえば、言っていた気もする。この前さんと会った日の事を思い出しながら、トゲーの頭を撫でていれば、「トーゲッ!」なんてトゲーも僕に声をかけてくるから、そうなんだろう。・・・さんと会うのが久しぶりだったから、少し、浮かれていたのかも知れない。
「思い出したか?とにかく、原稿出してくれ!今日、俺二階堂先輩と会う約束してんだから!」
「・・・さん、今日休みなの?」
「そう言ってるだろー。俺だって会うの我慢してんだから、さっさとよこせ!」
「 さんに会いたい。」
「だから休みだから無理だって・・・って、おい、斑目??」
真田さんから何やらさんを狙ってるようなおかしな言葉が聞こえた気がしたけれど、それに構うことなく、僕はテーブルの上にあった携帯電話へと手を伸ばした。それからすぐに、さんの名前を発見して、ボタンを押す。さん、休みでゆっくりしてるんだろうけど、・・・休ませてあげたいけど、会いたくて仕方がなくなってしまって、
「どうしたんですか、斑目先生?」
「・・・さん、今家にいる?」
「? ええ、今日は休みの日だったので。あれ、真田さんが来るって、私伝えましたよね?」
「うん、トゲーがしっかり聞いてた。」
「・・・先生は聞いてないんじゃないですか。」
「まあ、トゲーが聞いてくれていたのなら、良いですけれど。」 電話越しに聞こえてくるさんの声に嬉しくなってしまって、つい声を浮つかせてしまう。なんとか気持ちが溢れ出してくるのを抑えながら、伝えたかった言葉をさんへと言おうと、僕は唇を震わした、のだけれど、
「 ふふ、先生。私もそちらへ伺いましょうか?」
「・・・え、、さん?」
「自分の休日ですし、どこで過ごしたって良いと思いませんか?」
「もちろん、手土産にケーキも持っていきますよ?」 聞こえてきたその声に、さんの言葉を徐々に理解するにつれて、僕は溢れ出すそれらを、ついに抑えきれなくなってしまって。まるで僕が言おうとしていた事を分かっていたような、そんな言葉に、僕はゆるゆると頬を緩めるばかりで、
「 斑目先生?」
「ふふ、さん、」
「 僕も、さんに会いたい。」 ようやく言えた、その言葉に、電話の向こうにいるさんは、「じゃあ、今から伺いますね。では、失礼します。」 いつものように、最後にはちゃんとした挨拶をくっつけて、僕の言葉に返事をしてくれた。その言葉の合間に、笑い声が聞こえてきたから、どういう意味なんだろう、なんて少し気になったけれど、でも、その声が、いつも僕に笑ってくれる時みたいに、優しかったから、
「え、ちょ、ま、斑目っ!? こ、ここにさん来るのかっ!?」
「うん、来てくれるって。」
「え、ええ!? お、俺、この後二階堂先輩と約束っ、」
「・・・別に、残れだなんて言ってない。」
何故だか妙に慌て始めた真田さんに、一言二言返事をした後、もふもふと、さんが買ってきてくれたクッションを抱きかかえながら、僕は大好きなさんが来るまでまた眠ることにした。ふふ、僕が寝る前に、なんて無茶な事を言うのは我慢するけど、でも、なるべく、早く来てね、さん?