「 ・・・何、これ、」
思わず疑問符を付ける事さえも忘れてしまうような光景が、教室が何故かおかしなことに一面薔薇色になっているそんな光景が、私の視界全体に広がってきた。足の踏み場もないように教室の床に敷き詰められている薔薇の花びらに思わず目を奪われていると、「 おはよ、。」 なんて私の名前を呼ぶ声が隣から響いてきて、
「 アラタ、」
その声が彼だと言う事は本人を見なくてもすぐに分かったのだけれど、それと同時にこの光景を作り出したのも彼である事に私の脳内はすぐにたどり着いて、ため息混じりに彼の名前を呼んだ。そのため息に気付いていないのか気付いていない振りなのか、「どう?素敵デショ?」なんて鼻高々に私の腰へと手を回しながら、そんな言葉を放ってきた。
「もう、また真奈美さんに怒られるわよ?」
「ンフ、大丈夫。ティンカーちゃんも今日くらい許してくれるって。」
「だって、今日はトクベツな日だから、ね?」 耳元でそんな事を囁いて、教室へと向けていた私の身体を自分の方へ向かせたかと思えば、「俺のハニーちゃんは、そんなトクベツの日に言ってもらえる言葉を囁いてくれないの?」 なんて続けざまにそんな言葉を紡いでくるアラタ。
今日が彼にとって特別な日だという事は知っているし、放課後、アラタが補習をしている間にアホサイユでケーキでも焼いておこうかなんて、先程の登校中も考えていたのだ。もちろん、自分の愛しい人のその特別な日を忘れる訳がない。・・・けれど、これはさすがにやりすぎじゃないのだろうか。横目で教室を見ても視界に入ってくるその赤い色に再度息を深々と吐いてしまうのだけれど、
「 後で怒られても知らないからね?」
「その時は、に慰めてもらっちゃうよ。」
「 、」 目の前で私からの言葉を待っている彼を何とも愛おしく感じてしまって、1年に1回くらい教室が薔薇で埋めつくされても良いかもしれない。なんて思ってしまうあたり、もう既に私の鼻を擽っていた薔薇のその香りにやられてしまっていたのかも知れない。(それとも、それ以前の問題かしら?)
「ふふ、 アラタ、」
「うん?なーに、俺のハニーちゃん?」
「誕生日、おめでとう。」 ゆるりと唇を震わせて紡いだその言葉に、「ンフ、ありがと、 。」 彼は嬉しそうに笑みを浮かべてそう返事をしながら、自分の唇を私のそれに重ねてきたのであった。