アホサイユでいつものように読書をして過ごしていると、八雲がやって来てそんなことを言うものだから、私は制服が汚れないようにとエプロンを身に纏って奥にあるキッチンへと立つ。いつもなら千聖がやってくれるのだが、残念な事に千聖はソファにもたれ掛かってそれはもう気持ちよさそうに睡眠を貪っていた。(昨日、天十郎のゲームに散々付き合わされたらしい。)
「八雲、夕食もあるんだから少なめにしておくわよ?」
「はーい!!」
素直に元気よく返事をする八雲に多少疑問を感じながらも、常備してある卵やら牛乳やら粉やらを入れてゆっくりと丁寧に混ぜていく。「早くー、早くー!!」なんて言っていた八雲の声もいつの間にか聞こえなくなっていて、どうしたんだろうと思いながらも手を休めることなく動かしていく。そうやって順調にホットケーキを作っていると、アホサイユのドアが開く音が聞こえた。
「チョリソーッス!!」
「・・・アラタ、」
その音と共に、聞こえてきた彼の声。けれど八雲がいるはずなのにそれに対する反応が返ってこないで、彼の声だけが木霊する。「あっれ!?反応なしっておかしくない?」 なんて冗談交じりに言っている彼の名前を呼ぶとアラタはそれに気付いて「なんだ、いるなら返事してよ、んもう。」 なんて言って相変わらずの笑みを浮かべながらこちらへと近づいてきた。「おや?」
「何してるの、?」
「八雲がホットケーキ食べたいって言ったから作ってるのよ。」
「・・・その当人は寝ちゃってるみたいだけど?」
「チィちゃんのお膝で気持ちよさそうに、ね?」 アラタがそう言うから、そっちのほうに視線を移してみると、確かに気持ちよさそうに寝ている千聖と八雲の姿が目に入る。八雲の声が聞こえなくなった理由はこれか、なんて思いながら仲良さそうに寝ている2人を見て思わず笑みを浮かべてしまう。そんな微笑ましい2人を見ていると、いつの間にか隣へと立っていたアラタの腕が伸びていて腰に回されているのに気付く。
「ちょっと、アラタ。何やっているの。」
「ンフ、エプロンって、やっぱりそそるものがあるよね。」
「・・・聞いてないわよ、そんなこと。」
「んもう、冷たーい。」 ふて腐れたように言うと、隣にいた彼は今度は後ろから覆い被さるように抱きついてきて、頬にすり寄ってくる。動きにくいながらも出来上がったそのホットケーキを八雲に持っていきたいのに彼はどうもそれをさせてくれないらしい。「アラタ、」 何がしたいの、という意味もこめて彼の名前を呼ぶと、側にあった彼の顔は楽しそうに笑ってそれからゆっくりと口を開いた。
「あーん、」
「八雲に怒られるわよ?」
「大丈夫だって。他のお菓子あげるし。」
「だから、。 あーん。」 そんなことを言って、また口を開けてホットケーキを待ち構えるアラタの姿。何でこんなことしてるのかしら、なんて思いながらも結局アラタの甘えを許してしまう私もいるわけで。一口サイズに切り取ったそれを彼の口へと運ぶと、彼は嬉しそうに美味しいと言ってくれるからまた彼の甘えを許してしまうのだ。(まったく、困ったものだ。彼も、私も。)
「も食べてみる? はい、アーン。」
彼のそれに思わず私も口を開いてしまい、八雲のおやつになるはずのホットケーキを食べてしまう。もうそろそろ匂いに誘われて八雲も起きるはずだから、こんなところを見られてはますます怒られてしまいそうだ。起きないうちに、もう1枚焼いておこうとボウルに入った生地を掬おうと体を動かそうとすると、また彼がそれを制止させる。
「アラタ?」
「フフ、唇にシロップが付いてるよ?」
もう、ったら。 そう言って彼は笑うのだけれど、元はと言えばアラタが私に食べさせたんじゃないだろうか、なんて思って顔をしかめる。そんな私を見ながら彼はまた微笑んで私の体を反転させて自分の正面へと向かせた。
「オレが取ってあげるよ。」
「いや、自分で 」
自分で取るわよ、 その言葉を彼は最後まで言わせてくれず、彼のそれを重ねられる。シロップを味わうように唇を重ねられて繰り返しその行為を続けられる。故意なのか、そうでないのか、おまけでリップノイズまで立てながら何度も口付けをされる。
「もともと甘い唇が、もっと甘くなったね?」
「ま、オレはどっちの唇でも奪っちゃうけど?」 なんて笑う彼に、私は怒るどころかそれを笑って許してしまうのだから、私も彼に甘いのかも知れない。