「翼、委員会で少し遅くなりそうだから先に帰ってて?」
「・・・早くするんだぞ。」
「え?」
「バカサイユにいるからな。」



番号が振ってある本を対応する棚へと入れていく。彼が待っているということを考えると自然と手の動きが速くなるのだから自分も単純な人間だな、なんて思いながら本を持ち歩く。けれど嬉しいものは嬉しいのだ、いくら自分から待つと言ったとはいえ、あまり遅すぎると彼が拗ねてしまうから正確に早くしなければ、


**


「よし、終わった。」


仕事が終わって先生にそれを報告し、そのままバカサイユへと急ぐ。少し遅くなっていたから小走りで向かっていたのだが、後ろから「さん、ちょっといいかしら?」 なんてありきたりな言葉をかけられたはそのまま素通りして翼のもとに行きたいのを我慢して仕方なしに振り返った。


「何でしょうか?」
「何でしょうか、じゃないわよ!」
「っ!」


いきなり怒鳴られ彼女たちをの距離が近づく。突然後ろを振り返ったら見ず知らずの人に怒鳴られたのだ、訳の分からないまま彼女たちの顔を見ると、やはり怒っているようにみえた。「私達の翼くんをっ!」 なんて怒鳴り散らしているのを聞いて、ようやく怒鳴られた意味を理解する。それにしても翼は誰のものでもなく、翼自身のものなのに、この人達は何を言っているのだろうか。


「ちょっと、聞いてるの?!」
「き、聞いています、聞いていますよ。」


つらつらと出て来る彼女たちの文句を聞き流しながら、どうやってこれを切り抜けようかと考える。バカサイユで待っている彼の事を考えると一刻も早くこの状態を抜け出さなければならないのだが、どうも良い方法が浮かんでこない。逃げ出す、というのも考えたが、それではまた何か言われてしまう。それは最終手段にするとして、さてどうやって抜け出そうか。そればかりを考えていると、彼女たちから黄色い悲鳴があがった。(ん?)



、」
「わっ、」


彼女たちの急な変わりように不思議がっていると、名前を呼ばれると同時に背中に衝撃を感じる。首に顔を埋めて「遅すぎるぞ。」 なんて言ってくるその声はバカサイユで待っているはずの翼のそれだった。


「ごめんね、仕事が少し手間取っちゃって。」
「もう、帰れるのか?」
「ええ、帰れるわ。」


翼が待っていると思ったら、焦っちゃって・・・ごめんね? なんて少し頬を染めながらが言うものだから、それに機嫌を良くした彼はに更に抱きついて、頬に自分の唇を落とそうと顔を上げる。けれど、その行為は途中止めになってしまった。


「・・・誰だ?」 


彼女たちの存在にようやく気付いた翼はにそう問うた。けれど誰だと聞かれても本人も分からないのである。先程から思い出そうとしているのだけれど、彼女たちの顔に見覚えがなかった。「あ、あの、私達、翼くんのファンなんですっ!!」 「大好きなんです!」  の時とは違うその声、一体どこから出しているのだろうかと、思いながら翼を見ると、彼も興味がなさそうだった。


「お前達がこの俺を好きなのは分かった。  But....」


、と呼ばれて顔を向けると、唇にわざとらしいリップノイズを立てながらキスされる。


「今は、 オトリコミチュウ だ。」


彼女達が悲鳴を上げながら去っていくのを余所に、翼はを身体ごと振り向かせて再度口付けをしようとする。けれど、はそれを手で塞いだ。


「・・・何だ、この手は。」  みるみるうちに翼の眉間に皺が寄っていく。けれど、にとってこれは恥ずかしいことこの上ない行為だった。顔に全ての熱が集まってくるかのような、恥ずかしさ。「こんな場所で、恥ずかしいよ。」 なんて言ってくるに笑みを深めて彼女を頬に指を滑らせる。「どうした? 顔がAppleのように赤いが?」 


「・・・誰のせいだと思っているのよ。」
「知らんな。」
「なっ・・・!」


知らないってどういう了見しているの! 言おうと思ったその台詞は翼からの口付けで言えずじまいに終わってしまった。その後の彼はとても機嫌が良さそうだった。(彼女はそれを見て結局許してしまうのだ。)

今すぐココでキスして良いですか

どうやら、私の答えはいらないようです。





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