「んー、もうちょっと待って、」
「・・・・、」
「うん、」
「・・・・」
休日、いつものように翼の家へやってきて今週は何処へ出かけるのだろうと思っていたら、翼が唐突に本を出してきた。それは私が前から読みたいと言っていた英語の本であった。顔を緩ませて翼を見ると、「読みたいと言っていただろう?」 さあ褒めろ!と言わんばかりにポーズを決めて私を見つめ返していた。まあポーズはおいといて、本当にこの本は読みたかったものだから、翼の頬にキスを落として柔らかいシルクのソファに座って早速読み始めた。
翼も私の事を分かってくれているのだろう、何も言わずに隣に座って静かに何かの像(・・・あえて言わないでおく)を磨き始めた。私は静かにしてくれればそれで良いから何も言わなかった。・・・というより本に集中しすぎて何も言えなかった、の方が正しいのだけれど。
「・・・・・読めた。」
上下巻では無いけれど1冊にしてはページ数の多い本。そんな本を気付いたら全部読んでいた。何時間たっただろうか、腕を伸ばし首を回してひと息つく。それにしても期待以上に面白かった。自然と頭にその光景が浮かんでくるような、主人公の感情がこちらへ流れ込んだ来るような描写。どれをとっても本当に面白い本だった。
「翼、ありがとう・・・・・翼?」
横を見てお礼を言う・・・・・と、そこにいたはずの翼がいなかった。あれ、どこに行ったんだろう きょろきょろと辺りを見回してもそこに翼の姿はない。けれど、いつもある紅茶のティーカップセットがなかったから、ベッドルームに向かったのだろうと判断する。彼がティーカップセットを持ってベッドルームに行く時は大抵拗ねている時なのだけれど、本に集中しすぎてしまっただろうか。
「翼。」
「・・・・・なんだ。」
「(あー、完璧に拗ねちゃってる。)」
ベッドルームに行くと、案の定そこにはうつぶせ状態で顔をドアと反対側に向けて寝転がっている翼がいた。ベッドの横のテーブルには空になったティーカップと彼の眼鏡が置いてあった。
「ずっと、本読んでてごめんね?」
「・・・・」
ベッドの横に膝を落として腕を置いてそっぽを向いている翼に話しかける。けれど、彼は何も言わずにこちらも見ようとしない。目の前の綺麗な色をした髪にすっと手を入れて梳く。彼の髪はさらさらとしていて気持ちいい。
「・・・・・名前、何回も呼んだんだぞ?」
「うん、」
「・・・・なのにお前は適当な返事ばかりをした。」
「うん、ごめんね?」
確かに、彼が何回も私の名前を言っていた覚えは微かにある。つんつん、と服の裾を引っ張られた気もする。そう思い出している間にも翼の機嫌は悪くなる一方で・・・・・彼が何時間も放置して拗ねないわけがないというのを本を読む前に思い出しておけば良かったと後悔をする、・・・・けれど
「(拗ねた時も可愛いな、なんて思ってしまう私は、おかしいのかな?)」
見た目はとても大人びているのに、こうして気を許した人に見せる彼の甘え。もっと俺を構え! といつものように言ったらいいのに、私の邪魔をすれば怒られると思ってそんなことは言ってこない彼。けれど、我慢ができないから結局の所拗ねてしまうのがオチなわけで。
「翼、こっちを向いて?」
「あなたの唇にキスが出来ないじゃない?」 ようやく、翼の顔を私の方を向いてくれる。彼の澄んだ紅い瞳はまだ拗ねているように見える。 額にちゅ、とリップノイズを立てながらキスをすると、どうやら翼はお気に召さなかったようで、小さな声で 「・・・くちびる、」 そっと彼ご希望の唇に私のを重ねた。
「満足してくれましたか?」
「・・・・more. もっとだ。」
いつの間にか横に膝立ちしていた私はベッドへ連れられていて、翼に抱きしめられていた。どうやら機嫌を直してくれたらしい。私を抱きしめながら鼻歌を歌っている。(分かりやすいくらい、明るい歌だ。) 今回は私が全面的に悪いから、今週は翼の好きなようにさせようかな、なんて思ったり。
「、 kiss するんだろう?」
「はいはい、お望み通りに。」
顎に手をかけ、早く、と言うように顔を近づけて来る。その綻んだ顔と言ったら可愛くて仕方がない。愛されてるな、なんて思いつつ、愛しちゃってるな、と思ったりもする。どんなご託を並べたって、この理由は説明を付けがたい。だって、愛してるものは愛してしまってるんだから。
「I love you.」
「ふふ、 I love you.」
今週は、この家でのんびり過ごすことになりそうです。