「? 別に良いが、俺はこれから・・・」
「バンドとバイトがあるのは分かっているわ。待っていても良いかしら?」
「、ああ。な、なるべく早く帰ってくるようにするからな!」
バンドの練習、そしてバイトが終わり帰路へ着く。いつもよりも足が速く進んでいるのは、自分の家に彼女がいるからであろう。普段なら瞬の都合の良い日を確認して家へ来るのに、今日は突然の事だった。そんな日があっても良いとは思うのだけれど、何か大事なことを忘れている気がした。
「あ、おかえり、瞬。」
「ああ、ただいま。」
電気がついている自宅へと入り、に返答する。普段言うことのない慣れない返事だったけれど、心が温かくなるそれに思わず微笑んでしまう。本を机に置いてこちらへと寄ってくるを優しく抱きしめた。
「そういえば、珍しいな。」
「ん?何が?」
「が連絡も無しにこうして俺に家に来ることが。」
瞬が家に帰ってきてから2人で他愛のない話をしていると瞬がそう質問してきた。今日突然来たいと言ったから疑問に思ったのだろう。それを疑問に思っただけで、理由が分からないというのは瞬らしい、なんて思い笑みが浮かんでくる。時間に追われている彼だから、日にちを見るのも忘れていたのかも知れない。
「?」
「瞬が可愛いなって思って。」
「な、」
「お、男に使う言葉じゃないだろっ!」 頬を紅く染めてそう言ってくる瞬。それに対しても可愛いなんて思いつつ、ここへ来た理由を言おうか言うまいか考える。明日を待って言うのが通常なのだろうが、聞きたそうにしている瞬を目の前にしたらあと数時間なんてどうでも良くなってしまう。未だに顔を紅くしてそっぽを向いている瞬には声をかけた。「少し早いけど・・・瞬、」
「誕生日、おめでとう。」
「は?・・・・たん、じょうび?」
誰のだ、なんて聞きそうな顔をしての顔を見ている瞬。やはり今日が何日か、明日が何の日なのか覚えていないようだった。「明日は11月22日。もちろん、貴方の誕生日よ?」 のその言葉でようやく瞬は明日が自分の誕生日だと言うことに気付いたらしかった。
「気付かなかった。」
「ふふ、瞬にプレゼントは何が良いか聞こうと思って今日は突然来たんだけど。」
「何が良い?」 彼女が自分の事を思ってこうして来てくれたことが瞬には分かったから、そう聞いてくるに瞬は微笑む。から貰える物だったら何でも嬉しいに決まっているのだが、でもやはり一番嬉しいのはこうして、が、
「俺のそばに、こうしていてくれたらそれでいい。」
瞬のその言葉には目を見開く。「な、何だよ。一番欲しい事を言ったん、だからな。」 自分で言ったのに、言い訳のようにそう返してくる瞬。そんな彼の様子を見て、は瞬を抱きしめた。「もう、瞬ったら。」
「?」
「その願い事じゃ、私も嬉しい事になってしまうでしょう?」
可愛いと言ってしまえば、瞬がまた拗ねてしまうから(それはそれで可愛いのだけれど。)口には出さずに、そう言って瞬に返事をする。彼女の返答を聞き、瞬はまた嬉しそうな顔をした。
「そうか、も嬉しい、のか。」
目を伏せて照れくさそうに言うその姿。そんな姿の彼に何も感じないという方が無理な話なわけで
「じゃあ、瞬の言うとおり、側にいるわ。」
「・・・ずっと、だぞ。」
「ふふ。ええ、ずっと、ね?」
誓いのキスをするかのように、2人はどちらともなく唇を寄せ合った。
・・・翌日、彼らの仲間達が朝早くから祝いに来たという後日談が語られたらしい。