「教室に忘れ物をしちゃったから取りに行ってくるわ。」


「すぐ戻ってくるから、先生の言うこと聞いて、ちゃんと補習受けててね。」 あ、ついでに図書室に寄ってくるわね。なんて僕にそう言ってがバカサイユから出ていってしまってから1時間とちょっと経った。・・・すぐって言ったのに。思わずその言葉が音となって外に出る。本当は30分経った時くらいから、もしかして、と思っていたんだけど、どうやら僕の予想は外れていなかったようで。


「そういえば、そうね。ちゃん、普段はすぐって言ったら、本当にすぐに帰ってくる子なのに。」


「どうしたのかしら。本を選ぶのに時間が掛かってるにしても遅すぎるし、」 そう言って、南先生は動かしていたペンを止めた。ほら、先生だってそう言ってるよ。なんて、ここにはいない、たぶん、先生の言った図書室ではない方にいる彼女に伝えるようにそんな事を思った。でも、その言葉を今のに直接紡いだとしても、きっと伝わらないだろう、なんて事も同時に思う。


「・・・先生、今日はそのプリントで終わり?」
「?ええ、そうよ。今日は瑞希君が頑張ってくれたから、いつもよりも多く進んだのよ!」


「ふふ、先生は嬉しいです。」 後は添削するだけだから、もう少しだけ待っててくれる?本当に嬉しそうに微笑みながらそう言ってくれる南先生には悪いけれど、僕はもう、待てそうに無かった。だって、こうしている間にも、いくらカーディガンを羽織っているからって風邪をひくかも知れないし、それに、 もしのとこに誰かが通りかかったら、


「先生、たぶんそれ、全部合ってる。」
「 ええっ?」
「だから、今日はもうおしまいにしても良い?」
「おしまっ、いや、それは私も全部合ってると思いたいけど、もし違ってたら今日中に直した方が良いと、」
、迎えに行かなきゃ。きっと待ってる。 ね、トゲー?」
「トーゲッ!」
「ちょ、ちょっと、トゲーに瑞希君っ!」


「え、うそ、本当に全問正解・・・!?」 なんて南先生の声は、すでにのいるその場所にいた僕にはもちろん届いていなくて。


***


「 ん、」
「・・・(やっぱり、)」


教室の扉をそっと開けて、ゆっくりと彼女の座っているその場所へと近づいていけば、そこには思っていたとおり、気持ちよさそうに寝息を立てているが僕の視界に入ってきて。できれば、外れて欲しかった推測だったけれど。そんな事を思いながら、窓の方を向いて瞼を下ろしているの前の席へと腰を降ろした。僕の気配を感じ取ったのか、1度だけ身じろぎをしたけれど、また夢の方に引き寄せられてしまったらしい。


「 トゲー、どうする?」
「ト、トゲェ、」
「うん、可愛いけど、起こさないと駄目だよね。」
「トーゲッ、」


顔に掛かってしまっている髪をそっと耳にかけながら、トゲーとそんな会話をする。トゲーの言うとおり、委の寝顔はいつ見ても綺麗で、可愛い。2人で一緒に眠っている時に、ふと目が覚める事があるのだけれど、その時だって、つい、眠るのを惜しんでその顔を見ていたくなってしまう事がある。・・・今だって、もう少しだけ見ていたい気もしたけれど、でも、今日はそうはいかなくて。


「このままだと、風邪ひいちゃうもんね。」
「トゲッ、」


秋口に入ったばかりとはいえ、やはり肌寒さを感じる季節だ。の頬にゆるりと手を伸ばすとやはりそこは少し冷たくなっていて、思わず眉間に皺が寄ってしまう。早く帰って、温まらないと。「起こそっか、トゲー。」 そう言って、頬に滑らせていたその手を今度は肩へと移した。


「 、・・・、」
「ん、う、 ?、みず、き?」
「うん、僕。 が戻って来ないから、僕が迎えに来た。 ほら、起きて?」


「こんな所で寝てるから、の身体、冷たくなってる。」 僕の声に、ようやく僕が自分の近くにいるという事が分かったらしい。けれど、僕のその言葉はちゃんと理解するまでには、の脳はまだ起きていないようで。そして、「 うん、そう、する。」 なんて眠そうに返事だけはちゃんとしているけれど、こうなってしまったがいつもの調子に戻るまでに時間が掛かってしまうことを僕とトゲーはもちろん知っていて。 だから、僕は、すぐに2人で歩いて帰るという選択肢を別のものへと変えることにして、


、少しだけじっとしてて。」
「  んー、」
「よいしょ、っと。」


なんとか僕の声に反応して、危なっかしくふらつきながらも立ち上がっていたのその足に、僕の片腕を裏から差し込む。同じようにの背中を支えて、ゆっくりと持ち上げたの身体を自分の両腕の中に落ち着かせて、


「痛くない?」
「 ん、だいじょうぶ、 ふふ、みずき、あったかい、」
「・・・がこんな所で寝てるのがいけない。」


「風邪、ひくかもしれないでしょ?」 触れた頬だけじゃなくて、やっぱり全身が冷たくなってしまっていたようで。まるで猫みたいに僕の胸元に擦りよるに可愛さを感じながらも、咎めるようにそんな言葉を紡げば、けれど、僕の言葉に何故だかゆるりと顔を緩ませたから、「?、?」


「ふふ、ここに来たら、夕焼けがきれい、だったから、」
「夕焼け?」
「ええ。 それで見てたら、なんだかねむくなっちゃって、 ふふ、それに、ね、」


「あなたがこうやって、来てくれると、おもったから、」 だから、良いかなあ、って。 そう、僕の大好きな、柔らかくて優しいそれを浮かべて、はそんな言葉を紡いだ。・・・ずるい、普段、そんな甘えるような事を言わないのに、こういう時に限ってそんな事。そう言われたら、僕はもうこれ以上、何も言えなくなっちゃうでしょう?


「 、」
「ん? なあに、みずき?」
「帰ったら、僕もと一緒に寝ても良い?」


「2人で眠ったら、もこんなに冷たくなることはないから、ね?」 そんな僕の言葉に、もちろんの返事は、

放課後の真っ赤に染まる教室

ふふ、結局、も僕もお互いに甘いんだ。ね、トゲー?  クーケッ!





title by white lie / 放課後の真っ赤に染まる教室(学校生活十題)