「・・・あ、今日は日直だったっけ?」


書けるところは書いてしまおうと、日誌を取り出そうとしたそんな時、今更のようにそんな事をぽつりと呟く。そうだ、日誌の事は覚えていたけれど、日直と言うことはホワイトボードに書かれたあの大量の文字も消さないといけなかった。ふと上げた視線に広がるその黒やら赤で埋め尽くされているそのホワイトボードを見て、ふと思い出した。

日誌よりもそちらが先だろうと、すくっと立ち上がってそちらへと足を向ける。今日一日、あまりホワイトボードが赤や黒で埋め尽くされませんように、なんて願いながら、端から白へと変えていこうと手を伸ばした。


「(・・・届かない。)」


ほとんどの面積を消し終えて、最後の仕上げと残っていた所を確認すれば、かなり視線を上げたところに見つけたその黒い文字。そこへとめがけて背伸びをし、手も精一杯伸ばしたものの・・・私の身長では無理だったらしい。依然として残るその黒色に、1限目の授業であった生物の先生であるその人を思い浮かべて少しだけ恨む。気をつけているらしいのだけれど、それもやっぱりつい上の方に書いてしまう事もあるようで。


「(・・・さて、どうす、)  ・・・あら?」


けれど消さないまま、というのも何だから椅子でも使って消そうか、なんて伸ばした手をそのままにそんな事を考えていれば、ふと、手にあった黒板消しをするりと誰かの手によって取られたのを、ぼーっとホワイトボードを見ていた目が捉えた。 誰だろう、なんて疑問には、彼独特の、心地よいその体温が背中から伝わってきて、すぐに答えが降ってくる。そんな短い間にも、視線の上にあったその黒色が綺麗に消されていくものだから、高身長の有利さを変な所で実感してしまった。


「 はい、消し終わったよ。」
「ふふ、ありがとう、瑞希。」


黒板消しが視界から消えると同時にふわりと聞こえてきたそんな声。それから、少しの重さが私の身体に掛かってきたから、腹部へと伸びてきたその手に自分の手を重ねながら、お礼の言葉をゆるりと紡ぐ。少しの間、私の頭に顎を乗せていたけれど、すぐにそれがゆるりと降りてきて、肩へとその場所を落ち着かせる。


「言ってくれれば、手伝ったのに。」
「ふふ、じゃあ、今度からは瑞希を呼ぶから、手伝ってくれる?」
「うん、もちろん。  ・・・ふふ、でも、」
「 でも?」


が届かないとこ、恨めしそうに見てるのも、可愛かった。」 なんて楽しそうな色を滲ませながらそんな言葉を紡いでくる瑞希。趣味が悪いわね。 こっそり見ていた事も、それを可愛いなんて思ってる事も。二言目は口にはしなかったけれど、そんな意図を含ませながら、冗談めかしてそんな言葉を返すのだけれど、それにも小さく笑いながら「・・・僕は、良い趣味だと思うよ?」 なんて返してくるものだから困ったものである。・・・本当に困るのは、瑞希のそれにすら笑みを返してしまう自分である、なんて事はこの際、分かっていても素知らぬふりをするとして。

そんな事を考えていれば、続けるようにして瑞希の口から言葉が飛び出してきて、「だって、ね、」


「大好きな人がすることに、可愛くないなんてこと、ないから、」


「だからね、つい、見ちゃった。」 でも、ちゃんと手伝ったよ? 言葉にしていなかったその意図すらもしっかり酌み取ってそんな言葉を紡いでくる。・・・でも、嬉しそうに頬へと自分の頬をすり寄せながら、ついでのように唇を寄せてくる貴方の方が、私には可愛くて、愛しいと感じてしまうのだけれど、どう思う、私の愛しい人?

黒板消し当番

、大好き。   ふふ、私も大好きよ、瑞希。   (ガラッ)さー!今日も授業始めるって、うおっ!!きょ、教室の真ん前で何してんだよお前らー!!!   真田先生?どうかしましって、きゃあ!!み、瑞希君にちゃん何してるのっ!!





title by Seventh Heaven / 黒板消し当番(なんでもない日々20題 )