「??急にどうしたの、先生?」
あれだけ騒がしかったB6が悠里先生のおかげで少しずつだけれど、真面目に勉強なんてものをするようになった、そんな秋頃。さらに言えば、朝やら夜やらと徐々に冷たさを感じつつある、そんな10月も下旬に差し掛かろうとしている今日の放課後、悠里先生のそんな声がクラスXの教室へと大きく響き渡った。
「ンァ?ンだよ、ブチャ!人がベンキョーしてんだから静かにしてろよっ!」
「それよっ、それがおかしいのよっ!!」
「・・・どれがおかしいの?」
「清春君のこの姿よ、ちゃんっ!」
「清春君が、あの清春君がまじめに補習してるだなんて・・・っ!」 生徒に対して何て事を、なんて思ってしまうようなそんな一言だったのだけれど、その言葉を発している相手があの清春なのだから仕方がないのか、なんて思いながらも、その清春がこれだけ真面目に補習を受けているのには理由がある事を、彼を昔から知っている私は重々承知しているから、「あー、」なんて肯定とも否定とも取れないような返事をしてしまう。
「ンだよ!人が真面目にベンキョーしてるってのにその言いぐさはっ!!」
「だから、それが珍しいにも程があるからおかしいって言ってるんです! ・・・はっ、まさか先月のっ!」
「キシシッ!失敗した悪戯は二度とやらねェから安心しなァ!」
「失敗しなくても悪戯は止めて欲しいんだけどな!」
「ヒャハハッ!それは無理な相談だナー!」
「あー、ほら、先生も清春も、もう少し落ち着いて、ね?」
いつものようにヒートアップしていく先生と清春の会話へと割り込みながら、脳内では先生に清春がこうなっている理由を教えようか教えまいかと迷いを巡らせていた。既に清春からは、教えるなという箝口令をもらってしまっているため、自分に火の粉が降りかからないようにするためには、教えない方がいいのだけれど・・・そうすると、当日の先生の悲惨すぎる状況が、ありありと浮かんできてしまって。
「(・・・ヒントくらいなら、良いか。) ねえ、先生。」
「はあ、はあ。な、何、ちゃん?」
「あのね、10月31日って、何の日か知ってる?」
「10月、31日?」
「ちッ、 おい、っ!」
「ヒントくらい良いでしょう?いつも先生に散々悪戯してるんだから。」
私が何を言おうとしているのか理解した清春が止めようとしたけれど、人差し指を彼の口元へと寄せて止めさせながらそう言葉を付け足す。そんな間にも、「・・・今月の終わり?文化祭が終わった後なのに何かあるのかしら?」なんて先生が考えを巡らせていた。ふふ、そんなに深く考えなくても良いのに。10月31日と言えば・・・まあ、本場と比べたらあれだけど、結構有名だと思うんだけどなあ。今日も登校中にオレンジ色のカボチャを見かけたし、
「ほら、先生、あれよ。本場なら、お化けの格好して、近所の家を回っていって、」
「・・・ああ!そうか、ハロウィンね!!お菓子をくれないと悪戯しちゃ・・・っ!!!」
そう、ハロウィンだ。先生は、言ってる途中であることに気が付いたのか、最後まで言わなかったけれど、「お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ!」と、子供達がお菓子を求めに近所を巡っていく楽しいイベントだ。・・・まあ、時として、“悪戯”の方をメインにして楽しむ人もいるみたいだが。
「ふふ、気が付いた?」
「・・・もしか、しなくてもっ!?」
「うん、もしかしなくても。それから、もう1つヒントね。」
「な、なにっ?」
「何事も、盛大に事をしでかすにはそれ相応の準備が大切だと思うの、先生?」 目に見えて青ざめて行く先生へとそう言葉を紡ぎながらも、顔に笑みを浮かべてしまうのは、彼が楽しそうにハロウィンへと向けて悪戯の準備をしているのを見ているからかも知れない。
ヒントを言い終えて満足した私は、邪魔する訳でもなく妙に大人しく私の言葉を聞いていた清春へとようやくおかしさを感じて顔を向ける。そうすれば、それを見計らった清春が口に寄せたままだった私の手をゆるりと掴んで、指先へと自分の唇を、
「 っ、・・・清春?」
「クククッ!まっ、答えが分かった所でオレ様の悪戯は失敗しねェから良いけどなァ!」
「き、清春君っ!お、お願いだから、止めろとは言わないから控えめにっ!」
「ヒャハハっ!だからァ、無理な相談だってェーの!!」
「ちゃんお願いっ!何とか、何とか控えめにっ!」 私にまでそんなお願いをしてくる先生に、何とかしてあげたい気もするのだけれど、どんな悪戯をするのだろうかと楽しみにしてしまっている自分も居るわけで。さて、どうするか。なんて考えていれば、隣で未だに私の手を掴んだままの清春が再度、指先へと唇を寄せてきて、私の意識を自分の方へと向かせるようにしてきた。・・・どうやら、清春の方が私よりも先に答えを決めてしまったらしい。
「当日を楽しみにしてろよォ、とびっきりの悪戯してやるぜェ?」
「あら、そんなに盛大なの?」
「シシシっ!当ったり前だろォ!おもっしれェモンばっかだぜェ!!・・・んで、その後にィ?」
「・・・愛しくて仕方がねェオレ様のにも、とびっきりの悪戯をしてやるぜェ?」 本当に楽しそうな、彼独特のその笑みを浮かべながら、そう言葉を紡いだ清春。その笑みに、これはお菓子でも作って軽減させないと私も危ないかも知れない、なんて今更ながらに危機感を覚え始めていた・・・そんな時、
3度目と言わんばかりに彼が私に見せつけるようにして、指先へと口を寄せたかと思ったら、その薄いけれど柔らかいその唇の隙間から、赤いその色が、指へと、
「すっげェ甘ェ悪戯をしてやるから、覚悟しとけ、な?」
そんな言葉を愛しくて仕方の無い清春から聞いてしまえば、「ふふ、楽しみにしてるわ。」なんて、結局、受け入れてしまうような言葉を紡いでしまうのだ。