首元にくすぐったさを感じて、意識がゆるりと浮上した。しばらくの間、何に焦点を当てる訳でもなく、ぼーっと、目の前に広がっている光景をただ見る。そんな事をしていると、徐々に視界がはっきりしてきて、身体の感覚も敏くなってきた。そうすれば、視界の端に入っていた、柔らかそうな、首元に触れていたその髪にも、自然と私は気付く訳で。
「(そういえば、 清春も、一緒に来てたんだっけ。)」
目の前にある髪の毛を一房指に絡めながら、今更のように、自分達がいるのはイタリアで、家族旅行に清春もついてきたという事を思い出した。久しぶりなんだから、たまには自分の家の旅行に参加してきたら、なんて最初は清春にそう言っていたけれど、結局、私も彼には甘いところがあるから、こうして隣で彼が寝ているなんて状況を作り出してしまった訳で。
「(さて、今日はどこを観光しようかな。)」
まあ、過ぎてしまったものは仕方ない。 なんて、今の状況に顔を緩ませながらそんな事を思いつつ、片手でサイドテーブルに置いていたハンドブックへと手を伸ばす。パラパラと捲り、面白そうな所に、挟んでいたペンでチェックを入れた。
「(・・・それにしても、相変わらず触れたくなる髪の毛よね、清春の髪って。)」
一通りその本を見終わった後、テーブルへと戻して、私の首元へと顔を埋めて眠っている清春の髪の毛へと再度手を伸ばした。いつもより髪の毛のカーブが強くなっているのは寝癖の所為だろう。指先で挟んで少しでもましになるようにと髪の毛を軽く伸ばしてみたけど、指を離すとすぐにその髪の毛はひょこんと元の位置へと戻ってしまった。
「 ふふ、(可愛いなあ、)」
そんな髪の毛の動きにさえも、愛らしさを感じてしまう自分に若干呆れつつも、しかし愛らしいものは愛らしいのだから仕方ない。なんてさっきみたいにすぐに割り切って、再度、ふわふわと揺れるその髪の毛へと指を絡めた・・・そんな時、
「っ!」
首元に、ざらりとしたものが触れて、身体が反射的に震えた。偶然、清春の口が当たったのだろうかとも考えたが、私の腰に伸ばされていた手が強くなって、さらに引き寄せられるのを感じとって、すぐにその考えを外へと追いやり、目の前にあった耳へと声を届かせた。
「・・・清春、いつから起きてたのよ。」
「キシシッ! ンーとォ、がハンドブックを見る結構前からァ?」
「・・・私が起きる前に起きてたのね。」
「ヒャハハ!そうとも言うなァ!」
清春のそんな返事に、思わずため息を盛大に吐いてしまう。きっと私が目を覚ましたのは、清春が抱きつく場所を移動して、私の首元へと顔を埋める位置を変えたからだろう。だから、首元のくすぐったさに違和感を覚えて起きたのだ。
「キシシッ、グッドモーニングゥ? ?」
「はいはい、おはよう、清春。」
挨拶と一緒に、唇に彼のそれが重ねられる。それから、どうして起きている事を言ってくれなかったのか、なんて未だに顔の位置を私の首元から動かしてくれない清春へと訊ねれば、私の方へと視線を上げていた清春は、先程よりも、えらく嬉しそうに、楽しそうに、笑って、
「が、オレ様の可愛い可愛いくるっくるの髪の毛を楽しそうにいじってたからなァ。」
「チャンがオレ様の髪の毛を大好きなの、知ってっしィ?」 なんて、清春がそう言っている間も、私の片手は彼の髪へと伸びていたらしい。くるくると絡ませていた指を清春に掴まれて、そこに口を落とされた。そんな彼の行動に、また反射的に手が震えてしまう。でも、やられっぱなしなのも何だか癪だったから、掴まれていた手をするりと抜かせて、両手で彼の頬を包み込んで、「あら、」
「髪の毛もそうだけど、私は清春の全てを愛しているわよ。」
そんな言葉を紡ぎながらゆるりと彼の額へと唇を落とすと、それを狙っていたのか何なのか、急に笑みを深めたと思えば、くるりと私の視界を天井へと向けさせて。それから、天井を背景にした清春は、ゆるりと、お互いの息がかかるくらいの距離まで、近づいてきて、
「がオレ様の全てを愛してるのは、当然だろ?」
「オレ様が、の全てを愛してンだから。」 言い終わりざま、再度唇を塞がれた私は、結局、彼には言葉ですらも敵わないのだと、今更ながらに気付くのであった。