やっと校門までたどり着き、急ぎ足で歩を進ませながら時計を確認しつつ、視界へと入り込んでくる見慣れている光景と、そうでない部分とを見ながら、聞こえてくる楽しそうな声を聞いて、私も思わずつられて笑みを浮かべてしまう。
「(さ、私も早く行って、準備に参加しないと。)」
そんな風に、見慣れないものがいたる所で見かけられるのは、そんな風に学校全体がいつもより賑やかくなっているのは、今日が、秋の行事に当たる、文化祭の日であるからで。(ふふ、みんな張り切ってるなあ、)
「先生、遅れてごめんなさいっ、・・・って、先生?」
「あははっ、 、ちゃん!」
「だから笑い過ぎだって・・・って、あ、!!」
人がごったがえす廊下をなんとかくぐり抜けてやっとたどり着いた教室。目の前にある扉をがらっと音を立てながらそう言葉を出しつつ開けてみれば、広がった光景は、何故だかえらく楽しそうに笑っている悠ちゃんと、恥ずかしそうに頭に手をやっている一がいる、なんて、そんな、予想していなかった、光景で。
「・・・ええと、とりあえず、おはよう?」
「お、おはよう、ちゃん、ふふっ、」
「んな事より聞いてくれよ、っ!!」
「先生な、ずっとこれ見て笑ってるんだぜ!?」 笑いをこらえようとしながら、私に挨拶を返してくれる悠ちゃんへと、どうしてそんなに笑ってるのかと聞こうとした矢先に、隣から聞こえてきた一のそんな声。その声に、一の方へと視線を移してみれば、視界に映ってきたのは、頭にある、ヘアゴムで結ばれたそんな髪の毛で。
「ああ、それで、悠ちゃんがこんなに、」
「ふふっ、だ、だって、は、一君のっ、」
「だーっ!だから笑い過ぎだっつの!からも言ってくれよ!」
「ふふ、悠ちゃん、楽しそうね。」
「なっ、までっ、」
ひょこひょこと、なんとも可愛らしく揺れている髪の毛へとゆるゆると指を絡ませてながら一に返事をしていると、悠ちゃんは相当これにはまってしまったらしく、ずっと笑いを抑えきれないままにまたそんな言葉を紡いできた。そんな彼女の笑みがとても楽しそうに見えたものだから、つい、一の言葉をしっかりと聞かないままに言葉を出してしまえば、案の定、一が落ち込んでしまって、(ああ、やっちゃった。)
「なんだよ、まで・・・」
「ふふ、ごめんなさい、一。悠ちゃんが楽しそうだから、つい、ね?」
「・・・うう、これ、そんなに変なのか?」
「いいえ、変じゃないわよ?一らしいと言うか、可愛いというか。」
「ま、待て、俺らしくて可愛いってなんだっ!?」
「(あ・・・、勢いで言ってしまった。)」
「お、俺らしくて、か、可愛い・・・俺、男なのに・・・」 思わず出てしまったそんな言葉を、一はしっかりと聞き取ってしまっていたらしい。気がついた時にはもう既に遅くて、私のそれを聞いた途端、一は力が抜けたようにその場にしゃがみ込んでしまった。けれど、そんな格好をした所為か、一の心情を表すかのように、そのひょこひょこと立っていた髪の毛が、へなへなと垂れ下がるものだから、(ああもう、狙ってるのかしら、まったく、)
「 ええと、・・・一?」
「・・・俺、男だぞ?可愛いなんて言われても、」
「ふふ、ごめんね?その髪型が可愛かったから、つい。」
「だって、飲食扱う時はこうしねえと駄目だろ?」
「ふふ、そうね。その点は合ってるわ。あ、そうだ、一、私に髪の毛結わせてくれない?」
「?? 別に、構わねえけど、」
一の隣にしゃがみ込んで、同じ視線で話していた私は一へとそう言葉を紡いで、ゆるりと立ち上がって一の後ろ側へと回り込んだ。それから、鞄の中から櫛を取り出して、痛くないようにとゆっくりと前髪を束ねていたヘアゴムを取って、一度、その髪を降ろす。「相変わらず、さらさらしてるわね。」 なんて思わず声に出しながら、今度は前髪ではなくて、後ろ髪を束ねていく。
「うん、これで良いかな。 ほら、一、こっちの方がかっこよ、っわ、」
髪の毛がはみ出てない事を確認して、じっとして待っていてくれた一へと終わった事を告げようと肩へと手を置いて、彼の方へと乗り出そうとした、そんな時、前のめりになっていたはずの私の身体が、自分でも気付かないうちに、後ろの方へと重心がかかっていた。
「えーと、一?」
「どうしたの、急に?」 後ろに思い切り倒れ込まず、体勢を保てたのも一が背中に腕を回してくれたおかげなのだが、そうなってしまったのは、一が前を向いていた身体を回転させて私へと思いきり抱きついてきたからなんだけれど。でも、とりあえずは、頭を打たなかった事に感謝をしつつ、肩へと顔を埋めてきた一へと声をかければ、ぼそぼそと、けれど、しっかりと私の耳に響いてきたのは、
「・・・が俺の髪の毛を触ってるんだって思ったら、なんか、意識すればするほど、こう、ぎゅーって、したくなって、たまらなくなって、」
「・・・なんか、すげー幸せに、感じた。」 さっきよりも、回されていた腕の力が強くなって、本当に幸せそうな、そんな声が、私の身体にも伝わって、ゆるりと、確実に染みこんでいったから、