「っ!これよんで!!」
「ふふ、なあに?」
翼が小さくなってしまい、補習のために学校へと行く事もできないから、翼の家でのんびりと夏休みを堪能することにした私だったけれど、小さくなっても翼は翼というか、しばらく自分の家を冒険した後、ぱたぱたと可愛らしい足音を立てながら私の膝へ座って来たかと思えば、そう言葉を紡いで本を差し出して来て。たぶん、普段読んでいた日本の童話のものだろう、目を輝かせてこちらを見てくる翼に、私は自分の顔が緩むのを抑えきれないままに、本を広げてゆっくりとその字を読んでいった。
「めでたし、めでたし・・・あら、翼?」
「 ん、」
最後のページのその言葉を読み終わって翼を見れば、どうやら訊いている途中で眠くなってしまったようで、かくん、かくんとその首を揺らしてしまっていた。そういえばもうお昼寝の時間だったかしら、なんてすっかり翼の行動で時間も把握できるようになってしまったのだから、私も仕方のない人間だと思う。
「(さて、3時のおやつでも作ろうかしら。)」
とても気持ちよさそうにすやすやと寝息を立てている翼をベッドへと寝かせて、キッチンへと向かってそんな事を考える。たまには買ってくるのではなくて自分で作ってみるのも良いか、なんてそんな事を思いながら側に掛かっていたエプロンを取って準備をし始める。
**
「さて、もうそろそろかしら。」
オーブンの中の仕上がり具合を見ると、そろそろ出来上がりそうな焼き色を見せていた。翼もそろそろ起こしてこようか、なんて思いながらオーブンを覗いていた、そんな時、
「 わっ、 翼?」
「・・・」
足にドンッと衝撃が走って、突然のそれに思わずよろけてしまったけれど、何とか持ちこたえてその衝撃の原因を確かめるために顔を下へと向ければ、そこにいたのは私の足にぎゅうっとしがみついて離れない翼の姿があって。けれど彼の名前を呼んでもいつものように元気な声での返事がなかったから、私は頭に疑問符を浮かべながら彼の側にしゃがみ込めば、目を潤わせて、今にもそれがこぼれ落ちてしまいそうな、そんな顔をした翼が視界に入ってきて、
「どうしたの、翼?」
「 ・・・・、が、」
「 おきたら、が、いなかった、から、 ぼく、」 寂しさからか、怖さからか、起きたら誰もいなかったのがよほど翼にとって駄目だったのだろう、ぽつぽつと小さな声でそう話してくれる間も私が身に纏っていたエプロンを掴んで離さなかった。怖い思いをさせてしまったな、と申し訳ない気持ちになりながら彼をゆっくりと抱え上げて、目元をそっと指で撫でて、なるべく安心させるようなそんな声で、
「ごめんね、翼。」
「 いなくなったり、しない?」
「ええ、約束。これからは黙っていなくなったりしないから、許してくれる?」
「 っ、」 そう私の名前を呼んで、肩に顔を埋めて離れないようにする姿が、何とも愛らしくて、愛しくて。さらに極め付けと言わんばかりに、「 へへ、ずっと、いっしょ。」 なんてその笑みを、愛らしくて仕方がないその笑みを少し紅潮させた顔に浮かべて、そんな事を言うものだから、当然、私はそれに堪えきれるはずもなく、(こんな翼を見たら、もう、)
さびしがらせてはいけません
ああもう、翼ったら。 ??? ふふ、今ね、3時のおやつを作っていたところなの。一緒に食べてくれる? っ、が作ったの? ええ、そうよ? 食べる!!が作ったおやつ!早く、早くっ!!
title by リライト / さびしがらせてはいけません (珍獣の飼い方10の基本)