「 しゅん?」
「っ!」
バカサイユのドアをそっと開けて、ソファにちょこんと座って自分と同じくらいのクッションに抱きついている瞬に声をかける。案の定、瞬はその小さな身体をビクンっと跳ねさせ怖がりながらこちらを見た。
悠里先生と今度はどこ行こうか、と遊ぶ約束(因みに前回は先生とショッピング。)をしていた時、瑞希から電話が来た。メールではなくわざわざ電話だったから何だろうと思い、慌てて出てみる。瑞希の話を聞いていくとそれはもうお前嘘だろ、と言葉を発したくなるような瑞希の発言。けれど思いとどまったのは瑞希が「因みに、これは本当。きっと、瞬がバカサイユにいると思う。」 なんて言葉を追加されたからだ。私はすぐに先生に挨拶をして、急いでバカサイユへと走った結果が、この現状なわけなのだが。
「瞬、」
「・・・だれ、」
「っていうの。」
ショートボブなその髪を撫でながら自分の名前を言う。記憶がなくなるなんて、瑞希はなんてことをしてくれたんだ。(瞬はただでさえツンデ・・・人見知りなのに。)
「?」
「うん、あなたは七瀬瞬くんだよね?」
「 (こくん。)」
まだ警戒しているのだろう、私が頭を撫でるたび少しではあるが手がびくっと跳ねる。まあ当たり前の反応なんだろう、知らない人に撫でられているのだ。しかも自分の名前を知っているとくれば、(自分で言うのもあれだが)怪しい事この上ない。瞬の目線に合わせていた身体を立たせて彼の隣に腰を下ろした。
「瞬、」
「 ?」
私の声に反応してそっとこちらを見る瞬。(その顔にもぐっと来るものがあるのだがそこはなけなしの理性で我慢した。) こんなに早く瞬が懐くとも思わないのだが、一応やれることはやろうと思う。瞬が感覚的にでも私のことを覚えているのならきっと来るはず。
「ここ、おいで?」
「!!」
自分の太腿をぽんぽんとたたいて、そう聞く。当然のごとく、瞬は思いっきり身体を跳ねさせた。笑顔で瞬の事をじっと見る。なるべく怖がらせないように微笑んで、子どもをあやすような優しい声でしたつもりだったのだけれど、やはり無理だったのだろうか、そんな事を思った矢先の事だった。
「(のそのそ、)」
「っ! 瞬?」
驚いた事に、瞬はゆっくりと私の足へを乗ってきたのだ。少しだけ私の方にもたれ掛かって、クッションに顔を埋める。その顔をちらっと覗いてみると、分かりやすいくらいに頬が紅くなっているのが分かった。(ああもう、どうしようか。)
「ふふ、瞬、」
「? なん、だ?」
「瞬の側に、ずっと一緒にいたいなあ。」
「っ!!」
両手を瞬の手の上に乗せて後ろから抱きしめるようにしてそう言うと、瞬は先程よりも顔を赤らめたように見えた(その顔を写真に撮って、飾りたいくらいに。) さて、これからどうするか、そんな事を考えていると、瞬が抱きしめていたクッションをソファに置いて、もそもそと身体を動かして私の方を向いてきた。何だろうと思い、「どうしたの?」 と今度は瞬の背中に手を回して片方の手で頭を撫でながら尋ねる。
「 お、 おれも、」
「?」
やけに小さな声で言うものだから聞き取ろうと瞬に近づくと急にがばっと抱きついてきて、聞き取れるギリギリの声で「いっしょに、いたい。」 なんて可愛らしい声で言うものだから、危うく私は犯罪者になるところだった。(本当に、これは犯罪級の可愛さだった。)
まずはかわいがってきにいってもらいましょう
ふふ、瞬。(可愛いなあ、) ん、? だーいすき、 !!! (あ、また紅くなった。)可愛いすぎるわ、もう。(瑞希に感謝とか、少し思ってしまった私を許してね、瞬。)
title by リライト / まずはかわいがってきにいってもらいましょう(珍獣の飼い方10の基本)