「っ、っ!!」
「ん?どうしたの、一?」
「花って、食べたら甘いのかっ!?」
「・・・うん?」
バカサイユにいた私の元へと、ぱたぱたとその小さな足を懸命に動かしてやってきた一。その可愛らしい姿に思わず笑みを浮かべてしまいつつ、興奮しながら私の膝上に乗せてくる彼の手を受け止めて聞き返せば、返ってきたその言葉は思わず聞き返してしまうようなそんな言葉だった。
「花ってお菓子なのっ?」
「・・・うーん、食べられる花も確かにあるけど、」
「!! ほんと?おかしなのかっ?」
「ちょ、ちょっと待って一、全部の花が食べられる訳じゃないのよ?」
何で急にそんな事を訊いてきたのかも分からず、けれどそのきらきらと輝く好奇心旺盛なその目に勝てるはずもなく、頭の上に疑問符を乗せたまま彼へとそう答えてしまう。そうすれば、その大きな目がさらに大きく見開かれて輝きを増し、さらにそのまま一がバカサイユを出る勢いで走り出そうとするから、慌ててそれを止める羽目になった。
「だいじょうぶだぞ! だってあの花、あまい匂いがした!」
「甘い匂い?」
「うん!だから、きっとあの花はだいじょうぶ!」
「も来てっ!みかんみたいな色してた!」 くい、くいっと袖を引っぱられるから、立ち上がって一の後ろをついていく。蜜柑みたいな色で、甘い匂い。一が説明してくれたその花の特徴に、もしかして、とある程度の見当をつけながら、小さな足を懸命に動かして「えっと、とっても小さい花でなっ、おっきな木からいっぱいふってきてた!」 なんて説明してくれる一に返事をしつつ私自身も足を動かす。
「(・・・可愛い、から尚更困りものだわ。)」
その声がとても楽しそうな、嬉しそうなそれだったからその可愛さについどうしようもなく顔を緩めてしまいながらも、けれど脳内では彼に本当の事を言ってしまっても良いものだろうか、なんて不安も過ぎっていた。一が付け加えてくれたその説明も考慮すれば、彼の言っている花は間違いなくあれなのだろう・・・けれど、その花は残念なことに、食べられるものではない。いや、確かお茶に入れたりもできたはずだけれど、でも観賞用として植えられてあるであろうその花は食べられるものなのだろうか?
「ほらっ、!あそこっ!」
「(・・・うーん、やっぱり。)」
一に何て言えば良いだろうか、なんて考えているうちに、どうやら到着したようで。一が指を向けてくれたその場所へと視線を移せば、そこにあったのはやっぱり予想していた通り、芳香で有名なその花だった。
「っ、きれい、きれいっ?」
「ふふ、ええ、とっても綺麗ね。連れてきてくれてありがと、一。」
「えへへっ、どういたしまして!」
ちょうど散り頃なんだろう、その花が1つ、2つと木からひらひらと落ちてくる光景はとても綺麗だった。そのうちの1つをそっと手で受け止めた一が私のその花を背伸びをしながら見せてくれたから、お礼を言って頭を撫でると嬉しそうに笑みを浮かべてくれた(可愛いなあ、ほんと。)
「これ、なんて言う花なのっ?」
「これはね、金木犀っていう木なのよ。」
「きんもくせい?」
「ええ、金木犀。良い香りがして有名な木なの。」
「甘い匂いがするって、一も言ってたでしょう?」 その芳香があたりに漂っているその場所へと、一と同じ視線になるようにしゃがみ込んで、ひらりとまた1つ落ちてきた花を私も自分の手に乗せる。その可愛らしい蜜柑色の花は、いかにも甘い匂いを放っていそうなそれだった。
「でもね、一。こんなに甘い匂いなんだけど、ここの花は食べられないの。」
「ええ! 食べられ、ないの?」
「ええ、本当に残念なんだけど。」
「こんなに、おいしそうな匂いなのに・・・」 嘘を言うのも何だかあれだったから、正直に一にそう言葉を伝えれば、一は驚いた後、見るからに残念そうに肩を落としてしまった。唇を少し突き出しながらぽつりと呟きながら、じっと何かを言いたそうな目で手のひらに乗せていた花を見つめた。そんな姿に、不謹慎だと思いながらも、でも、とてつもない愛らしさを感じてしまわない訳がなくて(・・・なに、この可愛い子。)
「 ふふ、一、」
「??どうしたの、?」
「確かに、ここの花はちょっと食べられないけど、」
こんな可愛くて仕方がない子の願いを叶えないわけに行かないじゃないか、なんて自分の心の中でそんな事を呟きながら、悲しそうな顔をした一をひょいっと抱き上げて、声をかけた。そうなのだ、確かにここの花はちょっと食べさせられないけれど、頼んだらちゃんと食用にされたこの花を持ってきてくれそうな友達が私達にはいたりするじゃないか。
「 ふふ、一、美味しい?」
「うん!おいしい!!」
「っ、ありがと!」 なんて可愛らしい笑みを浮かべて嬉しそうに言葉を紡いでくれるこの子のために、たくさんの事をしてあげたいと思うのは当然のことだと思わない?
キンモクセイの幼い夢
つばさもありがとー!! あ、ああ、別に構わないが・・・ ふふ、偉いわね、一。ちゃんとお礼も言えて。 ・・・、一が小さくなってからさらにこいつに甘くなってないか?? ええ?ふふ、そんなこと無いわよ?ちょっと、ちょっとだけ、ね? ・・・(ちょっと、か??)
title by White lie / キンモクセイの幼い夢(秋の日に十題)