「(もうっ!!どうしてこう先生に補習を頼んだ時ばっかり!)」
けれどそんな危機が迫っているにも関わらず、相変わらずA4のみんなはマイペースだった。今日、私と先生が担当する子は天十郎君だったのだけれど、案の定というか何というか、放課後になって来てみれば教室は見事にもぬけの殻状態で。また海に行ってしまったのだろうかと、ため息混じりに私は、先生のいる社会科準備室へと向かった。いつぞやのように、天十郎君を探す前に、手伝ってくれる先生に連絡を入れようと思ったからだ。
補習材料であるプリントを抱えながら、不思議な空間であるあの場所へと足を進めて、一応、入る前にプレートを確認する。それからノックをして「はい、どうぞ。」と穏やかなその声を聞いた後、ゆるりとそのドアを開けば、
「先生すみません、今日は天十郎君が・・・」
「だーかーら、俺様のかっけー姿見に来いっ・・・て、げっ!!何でお前がここにいるんだよっ!!」
「おや、今度は成宮君が補習の番だったのかい?」
「(・・・何でこうも、先生の)」
私の視界に入ったのは、なんだか既視感を覚えてしまうような・・・でも既視感と言うには違ってくる、そんな光景で。反応の仕方はもちろん違うけれど、今回ここにいる天十郎君も、同じように私の登場を嫌がっているのは変わらなかった。そして、ここの、このアンバランスな空間の管理を任されている先生も、依然と変わらない、そんな穏やかな声を私へとかけてくれる。そして、私もこの前と同じように、
「もうっ!今日は補習だから教室にいてねっていったでしょう、天十郎君っ!!」
「だ、だってよおっ!こんな天気良いのにサーフィンしねえなんておかしいだろーがっ!ほら、あれでえっ、海の神様の、えーっと、ほら、ポ、ポメ、・・・ポメ、ラニアン?、も怒るってもんでぇ!!」
「ちっともおかしくありませんっ!それに、海の神様はポセイドンですっ!!ポメラニアンだと犬神になっちゃうでしょっ!!因みに、犬神様だとそんなに良い意味ではとられませんっ!!」
「ふふ、良いね、部屋が賑やかになる。」
「あ、先生も紅茶を飲むかい?今日、良い茶葉が入ったんだ。」 天十郎君とそんな会話をしていれば、けれどそれをどこか楽しそうに眺めて私へとそう言葉をかけてくる先生。良い意味でも、悪い意味でも、自分のペースを崩すことのない先生。 のそんな言葉に、私よりも早く返事をしたのは、
「なっ、ず、ずりーぞ!俺様ももらうっ!!」
「うーん、あげたいのは山々だけど、この紅茶は、いつも頑張っている先生へのご褒美だし・・・」
「うっ、お、俺様も頑張ってんだろっ!!」
「うん、そうだな・・・では、今から補習を頑張ってくれたら、一緒にお茶をするとしようか。」
「よし、補習だな!する、するぞ俺様はっ!!」
「ふふ。ああ、格好良い成宮君が見られると思うと、俺も嬉しいよ。」
「お、おうっ!俺様のかっけー姿を今見せてやるからちゃんと見とけよっ!!」
「ほらっ、さっさと補習やるぞっ!」 まるで昔からやっているような、そんな手慣れた扱いで、先生は天十郎君を簡単にその気にさせてしまった。珍しいくらいにやる気を見せてくれた天十郎君の後ろで、先生は私へと微笑みながら、「さ、先生、早く補習をやってしまおう。」
「(成宮君のやる気が削がれてしまわないうちに。)」
声は出さなかったけれど、先生の口は確かにそう動いた気がした。(・・・先生って、B6の先生方と、同い年・・・よね?)(何であんなに落ち着いていて、貫禄があるように見えるのかしら?)