「 もう、那智?」
「・・・何だよ、」
「それは私の台詞だと思うけど?」
私がお風呂に入っている間もしていたのだろう仕事を続けていた那智の隣へと腰を下ろして、自分の仕事を済ませてしまおうとファイルを取ろうとしたまでは良かった。けれど、そのファイルを取ろうとした手に、突然那智の手が絡まってきて、それに驚いたのも束の間、視界が動いたのと背中に座っていたはずのソファの柔らかさを感じていれば、どうやら那智に押し倒されてしまったらしい事に徐々に理解が至ってきて、
「ほら、仕事が残ってるんだから。」
「そんなの後でやったって良いだろ。」
「・・・貴方のクライアントの書類なんだけど。」
そんな会話をしている最中にも、絡ませていた手を腰へと、首筋へと滑らせてゆるゆると触れてくる事を繰り返している那智。投げ返されるそんな言葉に、集中力が切れたのか何なのか知らないけれど、私まで巻き込まないでくれないかしら、なんて言葉を返せば、何故だか少しだけ拗ねたような顔をされてしまって、
「 そんな格好して風呂から出て来たが悪いんだろ。」
「(そんなって、・・・いつもこの格好だけど、)」
さらに不機嫌になりかねないと思って言葉には出さなかった、・・・正確には、続けざまに唇を塞がれてしまった所為で、言葉が出せなかったのだけれど。深く入り込んできた那智のそれに、思わず酸素を供給しようと口を若干開けば、それを狙ったかのようにさらに深くしてくる始末で。
「 、」
「ん、 もう、 何、那智くん?」
しばらくして離れたかと思えば、彼の唇から紡がれた私の名前。その声色が、私の目を捉えて離さないその瞳が、先程よりも機嫌が上向きになっている事が見て取れたから、おどけたようにして彼に返事をすれば、首筋を滑らせていた指を頬へと上らせながら、湿ったその唇をゆるりと震わせて、
「おれ、 今日の仕事頑張っただろ?」
「ん? ええ、そうね。いつもよりは、陽祐君に怒られる回数が少なかったかも。」
「・・・どんな判断基準だよそれ、」
「・・・まあ、認めるなら何でも良いけど。」 少しだけ文句を言いながらも、満足げに私の返事に笑みを浮かべた那智は、それでさ、おれ、いつもよりも疲れちゃったんだよね。 猫が擦り寄る時のように、私の首元へと顔を寄せてきて甘えるように埋めてそんな言葉を紡ぎ出してくる。わざとらしいにも程があるようなその甘え方に呆れつつも、それでも擦り寄ってくる彼の頭をゆるりと撫でてしまうのだから、(私も、本当に仕方のない、)
「おれの事、 癒やしてくれるよな?」
ゆるりと顔を上げてひどく楽しそうな笑みを浮かべながらそう言葉を放ってきて、続けざまに震わせていた唇を寄せてくる彼に、結局私は顔を緩ませながらそれを受け入れてしまうのだ。(ふふ、ここは、お疲れ様、なんて言葉をかけた方がいいのかしら?)