「 那智って呼んでって言ったじゃん。」
「な、那智くん?」
「うん、そうそう。兄さんも方丈なんだから、どっち呼んでるか分からなくなるからねー。」
「(い、いやこの際名前はどっちでも良いから、この格好になった説明をっ、)」
クラスAでもクラスZにも属している訳でもない俺。けれど親の仲が良くてZの天十郎や千聖とは何かと昔から遊んでいたから今でもよろしくしてくれて。「も来るんでぇ!」 と天十郎にアホサイユに連れて行かれて、そのままA4と呼ばれる彼らと仲良くなったのだけれど、それの所為か何なのか、生徒会の会長である、方丈慧くんと、彼の弟で生徒会副会長である方丈那智君とも知り合いになってしまって。
いや、別に彼らと知り合いになった事が嫌という訳ではなく・・・ただ俺の至極平穏な日々が少しずつ失われつつあるな・・・なんて同じクラスの友人に嘆いた事もあるが。けれどやっぱり天十郎達と愉快に遊ぶのも楽しいかと聞かれれば、首を縦に振る以外にできないのも事実なので、まあ良いかと思ってしまいつつある今日この頃なんだけれども・・・
「(こ、これは少々愉快過ぎやしないだろうかっ!!!?)」
生徒会室に置かれてある高級感漂うソファに、何故か方丈・・・じゃなかった、那智くんに押し倒されている俺。「!ちょっと手伝って欲しい事があるんだよね。」 なんて言われたから俺はそのまま家へと向かわせようとした足を生徒会室へと変更したのだけれど・・・あ、あの、これはい、一体・・・
「 ちょっ、那智くん!何ですかこの格好!」
「えー、見て分からないのー?」
「分かりたくもないです!何で俺は那智くんに押し倒されてるんですか!!」
「さあ、何でだろうね?一緒に考えてあげようか?」 なんて親切そうに言ってくる那智くん、けれどその答えを知っているのは那智くん本人なのだから親切も何も無いわけで、しかもそれを知っていて楽しそうな笑みを、(・・・至極楽しそうな笑みを!!)浮かべてそんな事を言ってくるもんだから余計と質が悪い。
「な、那智くん、落ち着け、な?何かおかしなもんを食べさせられたのか?あれか、私を飲んでって書いてある瓶に入った飲み物でも飲んじゃったのか!?いやいや、那智くんがそんな怪しく極まりない物なんて飲むはずがないよな、うん。じゃああれか、あからさまに怪しいローブ着た人に美味しいリンゴをお一ついかが?なんて言われたからもらっちゃって食べちゃったのか!?い、いやいやそんな物を那智くんがもらうはずないよな。むしろどっちも主犯者と共犯してそうだよな、那智くんは、ははは!(ぜえはあ)」(一気にしゃべった)
「・・・とりあえず、が落ち着けよ。(ていうか、最後とんでもない事言いやがったな。)」
一気にしゃべった所為か息がままならないままに、俺を跨いでいた那智を見上げる事しかできないでいれば、先程よりも那智くんの顔が近づいて、きた、気がして。こう見ると、やっぱり慧くんと似てる所がたくさんあるなあと思う。見た目なんか髪とか服とか一緒にしたら分からないんじゃないかってくらいになると思うんだよなあ・・・って、え、近づ、いて??
「わあ!!な、那智くん、か、顔!顔近いっ!!」
「何だよ、キスしようとしてるんだから当たり前だろ?」
「き、キス!!?」
いつの間にか、那智くんの顔が俺の顔に触れんばかりの勢いで近づいていたから、思わず肩を押し返して何とか距離を保とうとするのだけれど、帰宅部でインドア生活万歳であるもやしっこの俺にはどこにそんな力があるんだと言わんばかりの那智くんのそれを押し返す事が出来なくて。しかも那智くんはあろうことにとんでもない言葉を放ってくる始末で。そんな言葉に俺が肩を押し返していた手を思わず緩めてしまって、那智くんのその顔が俺の耳元まで寄せられてしまって、
「 うっ、」
「ああ、そういえば、耳は弱いんだっけ?」
息を吹きかけられたのか、呼吸して伝わってきただけなのか、俺はそれに何とも情けない声を出してしまって。そして今更のようにとってつけたような言葉を紡ぎ出す那智くんは、続けざまに「 、」 なんて俺の耳元で俺の名前を囁いてきて。そんな那智くんの行動に情けないこと甚だしいのだけれど、ビクッと身体を震えさせてしまう俺。
「うう、 那智くん、」
「うん?どうしたの、?」
恥ずかしいやら情けないやらで、顔に熱を集中させてしまった俺はもう那智くんの名前を呼ぶ事しかできないでいて。けれど那智くんは俺の目を見つめながらも当然止める気はないようで。再度、近づいてくるその整った顔をギリギリまで見つめていた俺は、ええい男は覚悟だっ!!とか何とかと意味の分からない言葉を心で叫んだ後、思いっきり目を瞑ったそんな時、
「まったく、何やっているんですか、那智さん。」
現れたのは、救世主だった。