自分が起きた時にはすでに朝ご飯の匂いがして、リビングへと顔を出せばお弁当を作っているの姿が視界に入ってくる。そんな毎日を過ごしているのだけれど、たまに、本当にたまにだけれど、こういう時があるのだ。


「・・・(寝てる)」


光が付いているはずのリビングは真っ暗で、の部屋を覗けば、既にもぬけの殻であるはずのベッドに人1人分の膨らみがあることが。


「(・・・相変わらず、丸まってるし。)」


いつもの朝であれば、の寝ている姿を見ることはないから久しぶりに見たのだけれど、その寝相は昔から全く変わっていなかった。身体を丸めて寝ているから、ベッドにはぽっかりとスペースが空いている。そのスペースも昔と変わらない大きさだ。ちょうど、俺が横になれるくらいの、


「(早く起きすぎた。)」


時計へと目を向ければ、の起床時間よりは少し遅く、自分のそれよりはだいぶ早いその時間を針が指していて。今、声をかければ、きっとは起きてくれるだろう。それから、いつもの時間に起きられなかった事を謝って、起こした自分にお礼を言って、慌てながらこの部屋を出てキッチンへと立つに違いない。


「(急いですれば、今なら弁当も朝ご飯も間に合うしね。)」


寝癖の頭をそのままに、キッチンに立って忙しなく動くの姿が容易に想像できて、思わず笑ってしまう。けれど、彼の名前を声に出すことはせず、ベッドの側に座り込んで頬杖を突きながら、の顔を覗き込む。その顔にはやっぱり少しだけ疲れが見てとれた。彼が寝坊(と言うほど遅く起きている訳ではないけど)する時は、大概そうなのだ。


「(・・・疲れたって言えば良いのに。)」


その言葉を彼の口から聞いたことが、果たして何回あっただろうか。思い返しても、自分の方が彼にその言葉を使っている場面しか思い当たらない。疲れたと言って肩に顔を乗せれば、頭をゆるゆると撫でてくれるそんな彼の姿しか。

いや、それが不満な訳では当然ないのだ。にくっついて、彼に触れられるのは気分が良いし、ひどく落ち着くのだから。・・・ただ、自分ばっかりがそうやっているのかと思うと、何だかそれが妙に面白くなくて、


「(自分の事には鈍いんだよね、子どもの時から。)」


弱音を吐かまいと強がっている訳ではないんだろう。周りからしてみれば無理をしているように見えるそれでも、本人はそれが当たり前だとしてやってのけていたから。実際、それほど身体も柔にできている訳じゃないからやりこなしてしまうし、疲れだって顔に出にくいから周りには気付かれないし。

自分の事には殊更鈍い。それがなのだと、諦め半分で受け入れてはいるのだけれど、・・・それでも、やっぱり、


「(・・・俺にくらい、言ってくれたって。)」


そっとの頬に指を滑らせると甘えるように擦り寄ってくるその姿に、起きているときにもそうやってくれれば良いのに、なんて事を考える。起きた時にその事を言ったところで、「?俺はいつも敦を頼っているだろう?」なんて言葉が返ってくる事はもう経験済みだ。彼からすれば、もう自分に十分頼ってくれているらしい。

そんな事を言われて、ありがとうと嬉しそうに続けられてしまえば、


「(・・・まあ、がそれで良いなら、別に良いんだけど。)」


結局、考えたところで行き着き先は同じ答えになってしまうのだ。無理をしている時にはこうやって自分が気付いて、を休ませればいい。自分が休みたいとを巻き込めば、彼はきっと断るなんてことはしないだろうから。


「(もうちょっとくらいなら、良いよね。)」


時計を確認して、再度の寝顔へと目を向ける。弁当と朝ご飯を我慢すれば、の寝顔をもうちょっとだけ眺めていられる時間を確保できる。朝ご飯はパンでも食べながら学校に行けば良いし、昼ご飯は食堂に行って食べれば良い。まあ、もちろん食堂のよりもの作った弁当の方がうまいんだけど、


「(寝顔が見たかったから、って言えばいいや。)」


見ているなら起こしてくれれば良かったのに、とに言われたら、そう返せばきっと許してくれるだろう。疲れてそうだったから、も嘘ではもちろんないのだけれど、何だか嬉しそうな顔をして眠っている彼を見たかったから、というのも本心だから、


「 ふふ、(もうちょっとだけ、おやすみ、。)」


頬へと滑らせていた手をそっと離して、布団の端からひょこっと見えていた手へと自分のそれを重ねて、思わず零してしまった声に続けて、心の中でへとそう言葉を紡いだのだ。
眠る横顔
そしてそのまま眠ってしまっていた俺を結局が起こすことになるのだけれど。



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title by Lump / 眠る横顔(優しい恋人と5題)