さて高校はどこにするべきか、なんて考えていた頃から・・・ついでに言えば、その進路が、母さん達の助言・・・とはお世辞にも言えないような言葉によって決められたそんな頃から、季節はゆっくりと、けれど確実に変わっていった。今では、寒々としていた風景も気温も徐々に暖かさを増してきていた。


「敦、着いたぞ。ほら、敦、起きろ。」
「んー、・・・まだお菓子なら鞄の中にある、し、」


そんな季節の中、卒業式も無事に終えた俺と敦はというと、


「・・・着いたのはコンビニじゃなくて、俺達のアパートだ。」


無事に受かったその高校のあるその場所へと、足を運び入れていた。


**


「 ・・・(これは、 ここに置くか。)」


本のタイトルを見て、本棚へと入れる作業を繰り返しているうちに、どれくらいの時間が経っただろうか。早すぎ、と文句を言う敦をなんとか引っ張り出して朝から東京を出て秋田に到着してから時間は流れて昼をとっくに過ぎているのは確かだ。・・・というよりも、もう夕食を取る時間の方が近くなってしまっている。


「(他は片付いたから別段問題はないんだが、)」


自分の部屋が一番時間がかかるだろう事は分かっていたから、他を先に掃除したり物を入れ込んだりしてここを最後にしたが、やっぱり正解だったな。なんて事を思いながら手はしっかりと動かして本棚へと本を入れこむ。それでもまだ自分の周りは段ボールから出した本の山でいっぱいで、今日中に終わるのだろうかと思わず苦笑を漏らしてしまう。


「 ー、お腹す・・・」
「ああ、敦。部屋は片付いたのか?」


そんな事をしていると、部屋の向こうから敦の声が聞こえてきた。声が間延びしていたのは片付けを終えてからそのまま寝ていた所為だろうか、寝起きのそれと似たような声を耳に響かせながら敦がいるだろう扉の方へと視線を向けると、それと同時に彼の声も、動いていた足も止まってしまっていた。いや、正確には止まらざるを得なかった、というべきかも知れない。


「・・・俺の荷物、そんなに無かったし・・・ていうか、は本が多過ぎ。」


「・・・これ、絶対今日中に終わらせる気ないじゃん。」 扉の前にまで積まれている本の山を凝視したままでぽつりと言葉を続けた敦は少しばかり寝癖の付いていた髪を手で解しながら、辛うじて床の見えている部分を見つけてなんとかベッドへと辿り着き、そこへ腰を降ろした。もっとも、ベッドの上にも本は積まれていたから寝転ぶことはおろか、座ることにすら注意しないといけない状態なのだが。


「・・・これでも渋々置いてきた本も結構あるんだぞ?」
「・・・当たり前じゃん。の部屋にある本全部この部屋に持ってきたら、本当に寝るとこまでなくなるし。」


こっちに引っ越すための荷物を纏めている時に敦が手伝うと意欲的だったのはこの為か、なんて今更ながらに思いながら彼へと視線を合わせれば、敦は敦でこちらを呆れたような様子でこれ見よがしにため息を深く吐き出す始末で。「どうせこれからも増えるんでしょ。なら今はこれくらいにして置いた方が絶対良いし・・・これでも多いと思うけど。」 なんて続けて尤もな言葉を紡がれてしまい、つい誤魔化すために苦笑を零してしまう。


「・・・できるだけ、図書館で借りるように努力はする。」
「・・・努力だけで終わりそうな気がするんだけど。」
「う、」


確信にも似た言葉を何の遠慮もなしに放った敦は、ベッドの上に置いてあった本を一冊手に取りながら、その本の適当なページを捲ってそこに書かれてある文字へと目を走らせたらしい。けれどそれも一瞬の出来事で、すぐにその本は元の場所へと戻されてしまった。「・・・眠たくなるし、」なんて独り言のように呟いて、本当に眠たそうに目を擦りながら彼は再度、ゆっくりと腰を上げた。


「・・・まあ、別に良いけど。  それより、、」
「あ、ああ、どうした?」


そんな率直に放たれた敦の言葉に図星つかれて狼狽えていた俺を余所に、敦は俺の方へとこれまた本の山の隙間を縫いながら歩いて俺の背後へとやってきてそこに腰を降ろしたかと思えば、そのままゆるりと手を伸ばしてきて


「今日はここまでにして、早くご飯食べよ。」


俺の身体に全体重を預けんばかりの勢いでぴったりと背中にくっつきながら放ったその言葉は、ここに来た時に言おうとしていたそれであって。確かに彼の言葉のとおり、もう夕食をとる時間なのだ。さらに言えば、買い物も済ませていないから今から言って準備するとなると少しばかり遅い夕食となってしまう可能性だってある。

けれど、この本をすべて片付けてしまいたいと思っていたから、朝早く家を出てここに来たのだし、他の場所を最初にやってしまったのだ。それから夕食も、外食で済ませるか、何かデリバリーでも頼もうかと思っていたのだけれど、


の作ったやつが食べたい。」


なんて彼にそんな事を言われてしまえば、結局、折れてしまうのは俺の方で。


「・・・なら、せめてベッドの上は片付けさせてくれないか?」


「リビングのソファで寝るのはこの気温だとやっぱり少しばかり寒い。」 それでもせめて、とベッドの方へと視線を向けながら彼にそう提案を持ちかける。一度片付けを止めてしまえば、朝から動き回っていた所為もあるし、たぶん疲れが出てそのまま寝てしまうだろうと思ったから、俺に身体を凭れさせている敦の腕をぽんぽんと叩いて立ち上がるように促した。

そうすれば、敦は俺から身体を離してゆるりと立ち上がってくれたから、さてこれだけせめて今日のうちにやってしまおうと、俺も立ち上がってベッドの方へと向かおうと足を進めようと・・・したのだけれど、


「・・・敦?」
「良いんじゃない、今日はそのままでも。」
「?いや、だからソファで寝るのはさすがに、」


ベッドへと向かおうとしたはずなのに、けれど敦に引っぱられた所為で俺の身体は彼の方へと引き戻されてしまった。まだ何かあったのだろうかと俺よりも頭一つ分大きい彼のその顔へと視線をやれば、何故だかそこには笑みが浮かべられていて。それからベッドの上は片付けなくても良いなんて放たれたものだから、訳が判らず、先程と同じように説明をしようとすれば、


「俺の部屋で、一緒に寝れば良いじゃん。」


「その方が、俺もも温かくして寝られるし。」 だから、ほら。なんてスーパーへと買い物に行くよう促されてしまう。本当なら、それでもここで片付けてしまった方が明日のためにも良かったのだろうけれど、

紡ぎ出されたその言葉と、自分の身体に伝わってくる彼の体温の効果が、俺にとってはあまりにも大きすぎて、(・・・ああ、もう、)


「・・・そうだな。今日は、敦の部屋で一緒に寝るか。」
「うん、それにけってー。」


「よし、じゃあ、早く買い物に行こ。」 俺が彼の意見に賛成するや否や、彼の声が嬉しそうなそれへと変わったのを耳にして、現金だな、なんて思わず俺も笑みを浮かべてしまう。「マフラー取ってくる。」と言って俺の部屋を入ってきた時と同様、辛うじて床が見えているその場所を選び取りながら出て行こうとする彼を見つつ、いや、現金なのは俺の方か、なんて思い直しながらも、緩んでくる頬を抑えられないでいれば、「・・・あ、」 なんて彼がふと俺の方へと振り返って、 「 、」


「 1つ、言い忘れてた。」
「ん?どうした、何か問題でもあったか?」
「いや、ただ、一応言っておこうと思って、」
「??」


彼の言葉の意味をいまいち酌み取れなくて疑問符を浮かべていた俺へと、彼は相変わらず眠たそうな声で、ひどく楽しそうに、嬉しそうに、その言葉を紡ぐのだった。


「ふつつかものだけど、」
これからも宜しく、なんて
・・・なんか、使う言葉を間違っていないか?  んーん、これで合ってるし。


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title by リライト / これからも宜しく、なんて(腐れ縁な二人へ10の御題)